北の町、ウバクロ
景色が平地から山道にと変わる。
マリイたちは順調に旅を続けていた。
どの町でも五、六泊しながら物を売って物を仕入れ、商売をした。
「通行証の効力は絶大だな。
待たされることなく検問を通過できるのって、気分いい!」
「あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。
お役人さんを騙して手に入れたようなものだもの」
役人の隊長は、マリイを王女と間違えたお詫びとして通行証をくれたわけだが、実際、マリイはマリイ王女なのだから、被害者ぶった詐欺師のようで心苦しい。
「おまえは、検問の面倒くささを知らないからそんなことが言えるんだ。
ヤツら、積み荷を全部ひっくり返して捜し物をするんだぞ?
しかも、散らかしっぱなしのまま出ていく。
三十キロ走るごとに売り物を台無しにされる気持ち、味わってみたいか?」
「……。
ちゃんと後片付けしてくれれば良いのにね」
「まあ、それをやられたらやられたで、時間がかかってもっと腹が立つんだけどな。
とにかく、検問はすり抜けられるなら、それに越したことない。
……だいぶ昔の話だけど、田舎から朝取りのアスパラとか鶏の卵を安く仕入れて、町に売りに行こうとした時に検問があってな、」
「うん?」
機嫌がいい時限定だが、グリーンは自分の話をしてくれるようになっていた。
マリイはそれを聞くのが楽しい。
「幌の中で役人が滑って転んだもので、卵は割れるわ、衣料品は汚れるわ、大変だった。
更にひどいのは、検問に4時間もかかったせいで、せっかくの野菜が傷んで売り物にならなくなったんだ。
それでも役人は弁償してくれない。
あれ以来、俺は青果に手を出していない」
「だから、グリーンが仕入れるのは金物や雑貨なのね。
焼き菓子も置いてくれたらいいのに。
結構いるのよ?
『前のホダンにあったカップケーキが食べたい』ってお客さん」
「焼き菓子を仕入れたら、みんな、おまえに食べられてしまう」
「そんなには、食べないわよ」
「ちょっとは食うんだろ?」
「そりゃ……」
馬車の旅は楽しい。
マリイの定位置はすっかり馭者台の、グリーンの隣の席になった。
日焼けは気になるが、もう、一人で幌の中にいようとは思わない。
「次の町が見えてきた。
ウバクロだ。
ここは治安があまり良くないから、泊まるだけな」
「お店はしないの?」
残念がるマリイ。
「その代わり、宿は立派でサービスが良いぞ。
思う存分、ハンカチ作りに勤しんでくれ」
「えー……」
最近のマリイは、手芸よりも接客の方が楽しい。
相変わらず計算は苦手だが、色んなお客さんから情報をもらい、店を閉めた後、評判の果物やらお菓子を買い歩くのだ。
「ウバクロでは、フラフラ出歩くなよ。
おやつは宿で調達すること」
グリーンにはバレている。
「つまんないの」
「なんだよ、最初の頃はルームサービスがいいって言ってたのに。
贅沢になったなー」
「贅沢じゃないわよ。
外で買った方が安いじゃない。
ルームサービスで食べるお団子代で、アイスやプリンまで食べられるのよ?」
「宿の飯には、安全代が含まれてるんだ。
今回は大人しくしててくれ」
「ウバクロは焼き菓子が安くて美味しいって聞いたから、いっぱい買い食いしようと思って、お小遣いを節約してたのに……」
「…………」
グリーンは思う。
このお姫様、変に貧乏くさくなってしまった。
もう、お城には戻せないかもしれない……。
馬車は、宿屋を目指して走る。




