シェイナ視点1
私はシュナイデリン・レ・フラクシス。
フラクシス公爵家の長女。公爵令嬢でございますわ。
私は3年の間、冒険者ギルドの受付嬢をしておりました。まぁ、従者だらけのお守り付き、とても緩いお仕事でしたけれど。
でも学ぶべきこと、覚えるべきことが多かったし、無為に過ごして来たつもりは無い。民の様子、冒険者の役割、経済の流れ、魔物の分布、ギルドの経営の仕方や方針、その調整の仕方など、領地経営に役立てる上で必要なスキルが磨かれたと自負している。
私にとって、貴族の生活はつまらないものだった。パーティでの情報収集、お茶会でのそれ、女性に求められるものは少ない。頻度はのも凄く多いのだけれど。ただ開催される場所が違うだけで、同じ事の繰り返しだ。でも僅かな隙で物事がひっくり返るから油断はできない。
【槍術】を授かり、【槍士】にまでなったのに、活かせる場所が無い、このジレンマに私は苦しんでいた。公爵令嬢には全く不要のスキル、ジョブ。日々落ち込んでいく私を、父はいつも優しく励ましてくれたいた。そして与えてくれたのだ。冒険者ギルドでスキルを、ジョブを成長させていく冒険者をまじかで見る機会を。
衝撃だった。
平民だと、心のどこかで蔑み、侮っていた自分を恥じることになるとは夢にも思わなかったから。
彼らは驚く程に輝いていた。真面目に、真摯に仕事に取り組んでいく者の成長は凄まじかった。もちろん、そうでない者との落差もしっかり見た。どこで違いが生じるのか、私は観察した。
同じ事を同じような態度で取り組んでいる者達でも格差が出る。面白かった。パーティーの構成、依頼の向き不向き、時期、事前調査、ギルドへの確認の取り方、リーダーの資質、信頼関係など様々な要素が絡んでいた。ソロでもやはり同じような違いが出る。
私は気付いたことをメモしたり、聞いてくる人には助言を一言だけ言うようにした。"成功者はこうしていましたよ"程度に止めたが。真摯に取り組んでいる者達にとっては、一言のアドバイスが値千金の価値を産むことをまじかで見てしまった。受け入れた者達の成長は目を見張るものがあった。
そんな中、一際異彩を放つパーティーと、登録したての可愛らしい少年に出会った。パーティーの方は驚く程の成長を見せ、私がギルドを去る頃には最速ランクAを更新した者達。ランクA昇格事態が希少な出来事なのに、私はその瞬間に立ち会うことが出来た。ランクAの札を差し出したのも私だ。
そして少年。
彼は本当に可愛かった。登録の時も手を振ると顔を赤らめてそっぽを向くもの。ミランダと一緒になって応援していた。掲示板の依頼書に手が届くのか心配していたら案の定届かなかった、可愛い。取ってあげたらものすごく恥ずかしそうにしていたのよ。
彼の姉はミーナライトと言って王都警備隊所属の期待の新人と噂されていた。我が公爵家も目を付けていたのだけれど、王族に取られてしまったのよ。彼女は弟を心配して時折自分の近況を伝えに来ていた。いつか教えてあげて欲しいと。できた姉だと思ったものだ。フラクシス家に欲しかった。
彼には戦闘系のスキルは無く、【鍵】という珍しいスキルの様だった。扉を開ける閉めるくらいの想像しかつかない。自身をよく知る子だと思ったものだ。質問し、助言を求め、お礼を言う。簡単なことだけれど、それが出来ない者は多くいる。貴族でもそうだ。彼はそれをキッチリ行なっていた。若いのにしっかりしているなと感心したのもよく覚えている。
そんな彼は、今やランクAのパーティー【鷹の爪】によくポーターを頼まれていた。"こき使われている"と言いながらも嬉しそうだったし、リーダーは何故か低姿勢で"頼むよ、俺たちの中だろ"なんて頼んでいた。一体彼らの間で何があったのか。ベテランが新米にお願いしている状況は誰にも理解が及ばなかった。そして着々と資金を貯めていく。ランクを上げずに。最初から商業ギルドに向けての準備だと言っていたけれど、驚く程のスピードで資金を稼いでいる。
そんな彼も3年で随分大きくなり、身長を抜かれた。男の子の成長は本当に早いものね。彼は今までしてきた私の仕事に感謝を述べて、プレゼントまでくれた。"ギルド卒業おめでとう"って言ってくれたのだ。3年の働きがこの一言で報われた気がした。
私は今、自分の部屋で彼を待っている。ここで待っていろと言う。
そして本当に突然、目の前に見たことも無い門が現れて、彼が出てきたのだ。
この日、公爵家の救いはやってきた。




