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ノスフェラトゥ・リボルバーセット  作者: 紫炎
第2章 ー吸血鬼殺しの聖女人形ー
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第021話 チェックメイト

「何が起こった!?」


 ロバートが目の前の状況を前に叫び声を上げていた。

 床から唐突に巨大な何かが飛び出てきて、目の前を通過していった。その場にいた部下たちの姿はもはやそこにはなく、周囲に飛び散った血のみが彼らがそこにいたという証となっていた。

 その光景をロバートの横で見ていたタナカが呟く。


「犠牲銃ジョニー・マッドの親指弾サムブリット……これが『大破壊』か。恐るべき威力だ」


 そう口にするタナカを、ロバートが血走った目で睨みつけた。


「何を冷静に言っている。貴様、この始末をどうつけるつもりだ?」

「どう……と言ってもな。こちらとしても方向転換が必要らしい。アレの試験のつもりが思いの外、状況が進んだようだ」


 そう言いながら踵を返したタナカにロバートが「このっ」と掴もうとするが、ロバートはタナカの身体を触れなかった。


「貴様。それは幻術か?」

「ホログラムボディ、科学の力だ。悪いが、俺はここで帰らせてもらう」

「何だと?」


 ロバートの目の前で、タナカの身体が次の瞬間にはノイズが走って薄くなり、消失した。ソレを見てロバートが目を見開く。


「まさか、逃げたのか、ヤツめッ!?」


 叫ぶロバートだが、彼に消えたタナカを探す余裕はなかった。

 なぜならば、穴の中から銀の長髪の美しい少女が飛び出してきたのだ。


『到着っと!』


 ボロボロになった黒いドレスから肌がどこか艶めかしくもあったが、そんなこと気にもせずに少女は床に降り立ち、青い瞳をロバートへと向けた。


「美しい……が、これは人形なのか?」

『よお、あんたが244街区の支配者ドミネーターロバートか?』


 ロバートが戸惑っていると、少女が男の口調でそう告げた。


「なんだと……意志を持っているのか?」

『一応聞いとくけどよ。降参しね? 俺もボロボロでさ。正直、もう疲れてんだよな。ノエルにゃあ殺さないようには言っておいてやるからさぁ。まあ、言うだけなんだけど』


 一瞬、その美しさに惚けた顔をしたロバートであったが、未だ少女の域を出ない小娘に生意気な口を叩かれて怒りが湧き上がった。


「降参だと? ふざけるなよ人形風情が。やれ、お前たち。例えそれが人形であろうとも動きさえ止めてしまえばどうとでもなる!」


 ロバートの指示に周囲の金目の男たちが一斉に少女に飛びかかった。片腕には機関銃を、片腕は変異させた翼を剣にて攻撃を仕掛けていく。


『まー、こっちは一応親切心だったんだけどな』


 同時に少女が両手を広げ、すべての指がワイヤーを引きながら飛び出すと、襲ってきた金目たちに次々と突き刺さっていく。


「ギャァアアアアアアアアア!!?」

「なんだ? 何が起こった?」


 一斉に絶叫が聞こえたかと思えば、襲いかかった金目たちが次々とその場で煙を上げて溶けながら倒れていった。その様子にロバートが驚愕の顔のまま、後ずさる。


「あ、ああ……」

『だから言ったのによ』


 少女が髪をかき上げながら飛ばした指を元に戻して、ロバートへと視線を向ける。


『この人形はあんたらが『対吸血鬼』に使おうとしていたもんだぜ。ノエルを殺そうって意志が感じられるほどの強力なもんだ……けど、あんたは知らなかったみたいだな』


 その言葉にロバートがギリギリと歯ぎしりをする。


『で、どうする?』

「貴様ぁ」


 近付いてくる少女を前に、ロバートは後退りながらも己の背からフリントロック式のマスケット銃を取り出した。


『また古式なのを……とっ!?』


 少女の言葉が最後まで発せられる前に、その銃弾は放たれた。

 その一撃は強烈なものだった。銃身に次々と魔法陣が発生し、弾丸を術式でコーティングし加速させた魔銃の一撃は少女へと直撃し、その小さな身体を吹き飛ばして映画館の壁へと激突させた。


「はっは、馬鹿が。これは我が一族が長き時をかけて術式を編み込んだもの。たかだが既製品のものとは違うと……ガッ!?」


 得意そうに語っていたロバートの腹部から血が噴き出した。

 そして、それが銃弾による傷であると気付いたときには、ロバートの口からも血がこぼれていた。


「どうもその銃に力を集中させすぎてたみたいだな。一応、こっちもオーダーメイドなんだぜ大将?」

「貴様ァアアア!」


 叫んだロバートの視線の先にいたのは、満身創痍といった姿のミーシャ本人であった。

 リボルバージョニーに指を捧げただけではなく、近距離でのミサイルの爆破によってその身は傷付き、今は再生紙ながらジャックに乗せられてこの場までやって来ていた。

 そして、ミーシャが握っているのは自動拳銃アダマスキャット。それはドワーフであるアンナがカスタマイズした特製の拳銃であり、弾丸はエルフのマリシアが複合の術式を埋め込んだものだ。銃そのものではなく、銃弾に術式を仕込むのが現代の魔銃であった。


『ケッケッケ、その銃じゃ弾込めに時間がかかるだろうがよ。こっちは違うぜ』


 さらにミーシャのもう左腕にはリボルバージョニーが握られている。


「犠牲銃!?」


 ロバートが飛び上がり、対してミーシャが自動拳銃アダマスキャットを放つ。だがロバートは怒りに震えながらも笑みを浮かべた。


「遅いわッ!」

「チィ」


 直後にロバートが霧散した。ロバートの身体が文字通りに霧となってその場から消えたのだ。それを見てミーシャが眉をひそめる。


「外したか?」

『いや、ダメージはあったはずだな。で、どうするよ。こっちは?』

「ハァ……元が指だからな。どうせ残しておいても腐っちまうんだし……千切られ損は嫌だから、ひとまずは撃っておくさ」


 そう言ってミーシャはリボルバージョニーを構えて、そのまま親指弾サムブリットによって穴の開いた天井へと人差し指弾フォアブリットを撃ち放つ。対象を視認できない状況ではどこまで正確に当たるかはミーシャにも分からなかったが、それはロバートを追って飛んでいった。




  **********




「クソッタレェエエエエ!」


 そして、ロバートが次に姿を現したのは映画館から離れたところにある寂れた路地だ。霧から再構成された身体には、先ほどよりもさらに三発の銃弾の跡が付いていて、ロバートは血を吐きながら壁にもたれ掛かった。


「あの不死病感染者ノスフェラトゥめ。やってくれるな」


 ロバートは、霧になる際に自動拳銃アダマスキャットから放たれた銃弾のダメージを流しきれていなかった。

 自動拳銃アダマスキャットから放たれたのはただの弾丸ではない。銃弾の威力とは別に魔術破壊などを含む複合的な術式が同時発動して対象を破壊する術式弾だ。その威力をロバートはその身で実感する。


「たかだか用心棒バウンサーの分際で……絶対にあいつは許さん。殺せぬと言うなら未来永劫に殺し続けてやる」


 ロバートが怒りのあまり、拳を壁に叩きつけた。


「ガッ!?」


 だが、その次の瞬間にはロバートの身体が壁に打ち付けられた。


「……あ、今のは?」


 ロバートは肩が血を吹き出しているのを見て、呆気にとられた顔をする。そして、己が縦断に撃たれた威力で壁に激突したのだということに気付いた。


「な、はっ……ハァ」


 何が起きているのかが分からない。だが、ロバートはどうにかその場で踏みとどまって、必死に魔力を集めて肩の再生を開始する。


(狙撃? 誰が? ともかく、ここはマズい)


 それからすぐさま建物の影に隠れるように、その場から逃げ出した。その弾丸がミーシャの、狙った獲物を逃がさぬという人差し指弾フォアブリットであることをロバートは気が付いていない。

 ただ狙撃されたという事実と己の魔術防御すらも貫く弾丸の威力に恐怖し、周囲を血走った目で見回しながら逃げ続けた。それから天を見上げる。

 すでに真夜中だ。その時間は吸血鬼ヴァンパイアにとってはもっとも活動しやすい時間帯。また子珠の力により、244階層にいる限りは今のロバートは相当量の魔力を引き揚げることができる。

 だから挽回はできると、ロバートは必死に己に言い聞かせながら駆け続けた。


「はっ、はっ、クソ。なんてことだ。あんなクソガキに踊らされて、あんな人間程度に傷付けられるとは……このままでは……私は、あの方から見捨てられて……は?」


 そこまで口にした後にロバートは気付いた。道の先の暗がりの中に『誰かが立っている』のを。


「ほぉ。あの方……か。一体それはどこのどなたなのじゃろうな。教えてくれんか小僧?」


 その人物を見てロバートは目を丸くする。そこにいたのは彼が狙っていた吸血鬼ヴァンパイアの少女だった。それが赤い瞳を爛々と輝かせながら。たったひとりでその場に立っていた。


「貴様はノエル……か? ドクの情婦がひとりで来たのか?」

「なーに。どこぞの間抜けが獲物を逃がしたと言ってきてのぉ。で、銃弾の軌跡を追ってここまでやってきたというわけじゃ」


 その言葉の意味はロバートには分からなかったが。だが次の瞬間にはロバートはマスケット銃をノエルに突きつけた。それに目を細めて「ほぉ」と口にするノエルに、ロバートは勝ち誇った顔で引き金を引く。


「油断したな。死ねクソガキ!」


 次の瞬間には小さな少女の胴が弾け、首や四肢が吹き飛んで宙を舞って地面にぶちまけられた。


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