第020話 アイハブコントロール
「ロボットだと? また旧人界連盟の機人かよ」
ミーシャがそう口にしたのに反応するかのように、右腕に装着されていたガトリングガンの銃口がミーシャに向けられ、暗い下水道の中をマズルフラッシュの光が煌めいた。
「うぉっと!?」
それにはミーシャも聖女人形を乗せたジャックも反射的に跳び下がって瓦礫の後ろへと逃がれる。銃撃によりその場に埃が舞い、視界が塞がれるがガトリングガンの射撃は止まらない。
「ゲッ、やべえな」
崩れた瓦礫の裏に隠れたミーシャが眉をひそめる。自分が隠れているコンクリートの塊がガリガリと削られていくのを見て冷や汗を流しながらさらに深く身を落とした。
『あれって逃げた機人が操ってんのか? 随分と大層な鎧じゃねえか』
「気配がねえよ。鎧っつーか、無人機だろ。ロボットだ。脳味噌だけ乗せてる可能性も否定できないけどな」
それからしばらくして銃声が止むと、人型機械から声が響いた。
『不死病感染者。よく来てくれた。あの人形も一緒に持ってきてくれているんだろう? 分かっているぞ』
「撃ってから言うんじゃねえよ」
ミーシャが叫び返す。
それから人型機械を操っている人物がジャックの上に乗っていた聖女人形にはまだ気付いていないようだと気付いたが、続けた言葉に眉をひそめた。
『あれには発信器がついている。すぐそばに来ているのは分かっているぞ』
「へぇ。人形にねえ」
『ま、ノエルがそれに気付いてねえはずだろうな』
ホルスターに収まっているリボルバーがそう口にして、ミーシャが頭をかいた。
「ということはまた囮役かよ」
『いつものことだな相棒』
げんなりした顔をしながらミーシャは瓦礫から上半身を出して、自動拳銃を人型機械へと撃つ。
だがその攻撃は、人型機械の左腕に装備した盾によって派手な音を立てながら弾かれた。
『ハッ、いくら術式弾だとしてもな』
盾の表面をわずかにヘコませることには成功したようだが、貫通には至っていない。
「さすがに拳銃の銃弾じゃあ効かないか」
『馬鹿かテメェは。術式弾をただの銃弾と同じに考えてんじゃねえよ。盾が厚過ぎるだけだ。近付いて装甲の薄い場所を狙えば十分にやれる』
「ハァ? アレに近付けって? 俺は蜂の巣にはなりたくねえぞ」
『そうだな。ま、だったら俺様に頼るしかねえんじゃあないか? いいぜ、相棒?』
勝ち誇ったリボルバーの言葉にミーシャが舌打ちをする。ようするにそれが言いたくて話を振ったのだろうが、リボルバーの言葉は事実でもあった。
それからミーシャは、別の場所に隠れているジャックと少女人形を見る。
(やれるか……?)
ミーシャは集中して聖女人形の腕をゆっくりと動かし、足を、首を、腰を……自分の思念で操作する。それから己の意のままに操れることを確認すると、フゥッと息を吐いてからリボルバーをホルスターから抜いた。
『どうやら腹ぁ、決まったみてえだな』
「うるせえ。ジョニー、ご飯だぜ。食い残すなよ。勿体ないからな」
『ケッケッケ。分かってるっての。テメエのぶっといのから出た体液まで美味しくしゃぶってやるぜぜ相棒』
「だから、その言い方止めろつってんだろ」
ミーシャが銃身を折ってシリンダーを出す。そこにはギチギチと歯の並んでいる穴が蠢いていて、ミーシャが鳴きそうな顔で左手の親指を出した。そして、ミーシャの絶叫が轟いたのはそのすぐ後のことであった。
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「犠牲銃を装填したか」
地下下水道の上にある映画館の中。部屋の片隅で控えていたタナカの言葉にロバートが眉をひそめた。
先ほどからタナカがこそこそと動いていたのはロバートも分かっていたが、このタナカという機人はロバートの上が呼んだゲストでもある。
そのために、ロバートもここまで強くは出れなかったが、さすがに今の状況ではそうも言ってはいられない。
「先ほどから何をしているタナカ? 下の振動は何だ?」
「あの用心棒が使われていない地下下水道を通ってここまで来てる。念のために待機させていた俺の人形が今応戦中だ」
そして返ってきた言葉に、ロバートの表情が驚愕に染まった。
「下水道? そんなものがここにあると……いや、用心棒だと? まさかヤツが来ているのか!? あの化け物が!」
ロバートの中で先ほど感じた恐怖が蘇ってくる。
捕食形態という化け物へと変わる不死病感染者の用心棒。その力の一端を見たロバートにとって、それは恐るべき脅威として映っていた。
しかし、ロバートも支配者のひとりだ。すぐさま自らの恐怖を抑えこんで顔を引き締めると、タナカを睨み付けた。
「それを早く言え。クソッ、近付かれては厄介だぞ。下手に攻撃してアレになられでもしたら手に負えん」
「分かっている。あれはあまりダメージを追わせずに捕獲をするように……何? 人形が動いているだと?」
突如としてタナカの声に驚きが混じった。それは彼らの真下でミーシャと戦っている人型機械のカメラアイを通して、タナカが少女の姿を捉えたためだ。
「まさか、あの姿は……聖女アテナイに瓜二つとはどういう冗談だ」
「おい、タナカ。今の言葉はどういうことだ?」
聞き捨てならない名前が聞こえたロバートが詰問するが、その問いにタナカは答えず、眉間にしわを寄せながら呟いた。
「しかし、吸った種族に合わせて変わる以上、あれが不死病感染者と契約したものであるのは間違いないな。どうやら状況は簡単ではないらしい」
「聞いてるのかタナカ。こちらはこちらで手を回せん。人形が来ているのであってもお前ひとりでどうにかしてもらうぞ?」
そのロバートの声に、今度はタナカも反応して頷いた。
「ああ。あれの回収は俺の仕事だ。しかし、そちらの戦況もあまり良くはないようだな?」
「うるさい。赤目の連中め。人界の火器で武装しているだと? しかも複合術式弾を大量に所持してる。吸血鬼の誇りを捨てたゲスどもが。クソッ」
その言葉にタナカが眉をひそめた。
銃火器で武装しているのは、どちらも同じだった。ただ、金目の一族の者たちは銃火器を牽制に使い、攻撃は己の爪などを使うことに拘っているようだった。
だがタナカもこの場でそれを指摘してロバートと言い合うようなつもりもそんな余裕もないので、何も言わずに己の戦いに集中していく。唐突に現れた人形の動きが速すぎて、そちらに集中せざるを得なかった。
「これは……参ったな」
そう口にしながら、しかしタナカは笑みを浮かべていた。面白い玩具を見つけたような子供の顔で笑っていた。
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『くそ、速いッ』
可憐で小さな唇からそんな声が漏れる。
マズルフラッシュが下水道を照らし、コンクリートの壁から無理矢理腕を引き抜いて飛び出した聖女人形のいた場所に銃弾の雨が降り注いで破片をまき散らしながら壁を破壊していく。何発かが聖女人形に当たって反動で小さな身体が弾かれたが、聖女人形は倒れてもすぐさま立ち上がって人型機械へと向かっていく。
『なんという動き。それに強度か。アイギススキンは見事に機能しているようだな』
『知るかバカ。こんなピーキーな使用にしやがって。なっ』
ミーシャはそのあまりにも『速すぎる』聖女人形のスペックを操作しきれずに、先ほどから周囲に激突しつつ人型機械と戦い続けていた。一方で人型機械も聖女人形の動きについてこられず、あらぬ方へとガトリングガンを撃ち続けていた。
『ったく、このデカブツが』
『その小さき身でこのリキシ・ライデンに挑むというのか。面白い』
そして接近したリキシ・ライデンと呼ばれる人型機械の左拳と聖女人形の左拳が激突し、その場で時が止まったように両者の動きが停止したかと思えば、次の瞬間には聖女人形が飛ばされて真後ろの壁に激突した。
『パワーはあっても自重が違うぞッ』
「といってもよ。そっちの腕もオシャカじゃねえかよ、バーカ」
壁に減り込んで出れない聖女人形を後目にミーシャ本体が瓦礫から飛び出してきた。それにフレームが飛び出て半壊した右腕をパージしているリキシ・ライデンから鼻で笑うような声が響く。
『だが、こちらにはまだ手札はある。見誤ったな』
その言葉と同時にリキシ・ライデンの両肩の装甲が開く。その内部には無数のミサイルハッチが並んでいた。
「チィッ。またこれかよ。ジャックッ」
だが、ミーシャとて無策ではない。闇の広がる地下こそが影犬の本領だ。天井の影より飛び出したジャックがボウイナイフへと変じて左肩のミサイルハッチへと突き刺さり、発射される前のミサイルが内部で暴発して先の腕のない左肩が吹き飛んだ。
『右だけでも』
次の瞬間には右肩からミサイルが飛び出すが、姿勢が崩れたためにあらぬ方へと飛んで周囲へと着弾していった。そして爆弾の衝撃でリキシ・ライデンも身動きが取れない。
『クッ、これでは見えな……』
「そんじゃあ、終いだぜ。親の仇だ、指だけどな」
煙の中で声が響いた。だがリキシ・ライデンは相手が感知できない。続けて撃鉄が落ちた音と銃声が響き、爆煙の中から巨大で歪なドリルの塊が飛び出してきたのをタナカはカメラアイ越しにハッキリと視認した。
『ッ!?』
それはリキシ・ライデンの上半身を飲み込み、のみならずさらに肥大して天井を貫き、そのまま映画館全体を貫通していく。
そして戦場となっていた映画館の外の駐車場では、破壊される映画館の光景を見て赤目たちが笑みを浮かべ、金目たちの顔が驚きに染まっていた。




