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ノスフェラトゥ・リボルバーセット  作者: 紫炎
第2章 ー吸血鬼殺しの聖女人形ー
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第017話 ドール

 ミーシャは改めて、己の身体をジッと眺めた。

 それは子供相手に興奮するような趣味もないミーシャであっても一種の感動を覚えるような、作り物でしかありえない均整のとれた美しい形をしていた。

 胸こそ小振りではあるが年齢相応には膨らんでいて、窓ガラスに映る姿はミーシャが見たこともない、敢えて言うならばノエルをさらに整えた顔立ちをしている。

 外見年齢は、そのノエルよりも少々年上というところであろうか。そして、そんなものになってしまったミーシャは確認せざるを得なかった。


『ヤバいな。穴が開いてるぞ?』

『ヤバいのはお前だ相棒。今のお前はただの痴女でしかねえ』


 道ばたで裸になり、トンネルのポーズで己の股間をしげしげと覗いている少女の姿は確かに心配になるものがあった。

 もっともミーシャにしてみれば、それは非常に切実な問題だ。見た目こそ人間の少女だが、動かしているミーシャには今の己の身体が作り物であることが分かる。人形の類だと理解している。であれば、その用途について気になるのは当然ではあった。


『いや、なんで俺がラブドールにさせられてんだ。ていうか穴の中に……なんだこりゃ? ブットい針が入ってるじゃねえか。突っ込んだらアレがアメリカンドッグみてえになるぞ。クソッ、何がどうなってやがる?』

『そりゃあ、あれだな。襲われた時用だろ。毒でも塗ってあるのかもしれねえな。ともかく、そいつはさっきテメェを襲った人形だよ。テメエを喰って得た魔力を使って表皮を形成して、人族の姿に擬態しやがった。まともなシロモンじゃねえ』


 その言葉にミーシャがますます混乱する。


『いや、意味が分からないだろ。なんで俺はこの身体に意識が移ったんだ? どうやったら戻るんだよ?』

『ああ、それなら多分時間が経てば戻るんじゃねーの?』


 リボルバー(ジョニー)の言葉に、ミーシャが眉をひそめながら再度尋ねる。


『どういうことだ?』

『さっき俺様が言っただろ。テメエは人形(ソレ)になったんじゃねえんだよ。実際のテメェの本体は今もそっちの身体で、遠隔操作してるような状態ってわけだ』

『マジかよ?』


 とてもそうには思えないミーシャが、己の本体をマジマジと見る。しかし、その転がっている冴えない男は特に動き出しそうな気配がなかった。


『ま、テメエの血や肉を喰ってやがったからな。疑似的に魂も構築してあるようだし、パスが切れてもしばらくは動ける可能性はある……がな。んで、そっちの本体はよ。前も捕食形態(プレデター)になった後、目覚めるのに時間かかってただろ。動かないのは多分それが原因だ』

『あ、ああ。そうか、そうだったな』


 不死病感染者(ノスフェラトゥ)の捕食形態(プレデター)に今までも何度かなったことがあるミーシャは、リボルバー(ジョニー)の言葉に納得する。


『アレになると数時間から半日は目を覚まさないからな。で、今はまだ夜になってない……ってことは、あまり時間経ってないのか?』

『そうだぜ。まだあれから十分程度だ。だから、そっちが目ぇ覚まさないことと人形に意識が移ったことには関係がねぇんだよ。多分な』


 リボルバー(ジョニー)にしても状況を確認した結果、そうだろうと推測しているに過ぎない。確かなことはどちらにしても分からなかった。


『多分かよ。まあ、仕方ないか。ひとまずはこの身体でも動くんだから、本体が目覚めるまでジッとしてるわけにもいかないよな。しかし、この格好はちょっと不味いよな』


 ミーシャがそう言って己の身体をじろじろと見る。傷ひとつない、卵のような肌をさらした美少女がそこにいた。この街の住人ならば、売るか犯すか犯して売るかを考える前に襲ってきても不思議ではなかった。


『まあ、そうだな。今のお前の容姿からして、通りに出たら五秒でかっさらわれそうになるだろうよ』

『そんなに顔良いか、これ?』

『実際にヤバいな。それに俺様の魔力計測でも人間にしか見えねえ。構築の過程を見ていなかったら、人形だって気付けねえぜ。ちーっとロリコンなヤツだったら理性なんてぶっ飛んでソッコーで路地裏に連れ込むわ』

『そりゃあ、怖いな』


 あまり節操のないことで知られているミーシャであっても、男に迫られるのはゴメンであった。それからミーシャが己の身体を見て、続けて周囲を見回した。


『しかしよ。着るものなんてこんなところで……』


 そう言いながらもミーシャ(人形)の視線は、ミーシャ(本体)に向けられていた。見回した限りでは他に選択肢もなかった。


『うわぁ、マジかよ』


 これから行う行為にミーシャは少しばかりの躊躇を見せたが、すぐさま諦めたような顔をして手を伸ばした。


『仕方ない。背に腹は変えられない……か』


 そうして、ミーシャ(人形)はミーシャ(本体)の身体からツナギとTシャツをはぎ取って着ると、袖をめくり、ぶかぶかの服をベルトで固定していく。

 足は素足でも傷ひとつつかないようであったし、靴はさすがにサイズが違うので諦めた。それからミーシャ(人形)はミーシャ(本体)を見る。

 セミヌードの上に革ジャンを着て、下半身はトランクス一丁で靴下と靴のみという格好である。さらに白目をむいている姿が哀愁を誘い、ミーシャ(人形)は悲しい気持ちになった。


『なんつーか、恐ろしく惨めな野郎だな、これ』

『うるせえよ』


 しみじみと言うリボルバー(ジョニー)にミーシャが苦い顔をする。それからボリボリと髪をかいてから、未だ戸惑った顔のジャックを見て頭に手を乗せた。


『悪いなジャック。ひとまずこんなだが、俺が分かるか?』

「ウゥゥウ、ウォンッ」


 一応、ジャックはミーシャ(人形)が己の主人であることを認識できてはいるようである。

 その様子にミーシャ(人形)も頷き、それからミーシャ(人形)に指示されてジャックがミーシャ(本体)を背負った。


『で、俺はこの十字架を持ってくか。あれだけの騒ぎでも壊れてないし、これはこれで相当なもんだな』

『だろうな。けど、持てんのか? 随分と華奢な腕だけどよ』


 リボルバー(ジョニー)の問いにミーシャは白く細い指で十字架を掴むと、そのまま片手で持ち上げた。それにはリボルバー(ジョニー)も『オォ』と驚いた声を上げる。


『んー、問題ないな。さっき自分から服を剥いだ時に気付いたんだけど、この身体のパワーは並じゃねえよ。何しろちょっと掴んだら、俺の腕が折れた。まあ、意識ないし痛みもないし、起きる頃に元に戻ってると……いいんだけどな』

『あーあ』


 リボルバー(ジョニー)の呟きにミーシャは渋い顔をして、それから周囲を改めて見回し、地面の血溜まりを見てからリボルバー(ジョニー)に尋ねた。


『それでジョニー。さっきの連中は俺が喰ったのか?』

『ああ、サンドロスと機人のひとりはテメェが喰っちまったよ。バリバリとな』

『……そうか。そりゃ、そうだな』


 分かっていた答えに、ミーシャの表情にも少しばかりの陰りが見えた。機人についてはどうでも良いが、サンドロスは何度か一緒に仕事をした間柄だった。すでに操られていた状態だったとはいえ、見知った相手を殺した事実はミーシャにとっても辛いことだった。


『機人のもうひとりは逃げた。人形を気にしてた素振りもあったし、目的はソレだったんじゃね?』

『なるほどな。しかし、旧人界連合製にしてはこの身体は魔術によりすぎてやがる。なんなんだろうな、これ?』


 それなりに重量のある十字架のケースを片手で持っていてもまだ余裕がある。ミーシャの体感的には、その少女人形の力は影犬(シャドードッグ)を吸収して力を得ているミーシャの本体をも大きく上回っているようだった。


『さてな。自ら捕食して人体を構築する人形なんぞ、そうそうあるものじゃあねえ。ま、それを渡したあのロリビッチなら知ってるかもしれねえがな』


 その言葉にミーシャが目を細める。それから『まあ、そうだよな』と口にすると大通りの方へと視線を向けた。それはホテルレッドアイのある方角だった。


『サンドロスも死んじまったわけだし、戻って報告するしかねえか。ノエルもどこまで話してくるのかも分かんないけどな』


 そうミーシャはぼやくが、少なくとも先ほどの襲撃は偶然ではなく情報が漏れていた為に起きたことであろうことは明白だ。そしてノエルが迂闊に情報を漏らしてしまうような相手ではないことをミーシャは知っている。であれば、導き出される答えは限られていた。


『ま、そこら辺も含めてロリビッチに問い詰めてやろうぜ』


 リボルバー(ジョニー)の言葉に頷いたミーシャは、再びホテルレッドアイに戻るべくその小さな身体で一歩を踏み出したのであった。

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