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ノスフェラトゥ・リボルバーセット  作者: 紫炎
第2章 ー吸血鬼殺しの聖女人形ー
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第015話 バーニング

「これを受け取るのじゃ、ミーシャ」


 ノエルの言葉に続いて、執事のリチャードが己の手から煙を上げながら、持っていた物体をテーブルの上へと置いた。

 ホテルレッドアイ最上階。ノエル・レーベの住居内の賓客室では、ミ-シャが憮然とした顔で置かれたブツを眺めている。

 今日一日をのんびりと過ごそうとしていたミーシャは、緊急と書かれた仕事のメールを受けて、急ぎこの場にやってきていたのだ。そして、雇い主であるノエルから指示されたのが目の前のブツを受け取れであった。


「受け取れって言われてもよ」


 ミーシャが目を細めて、置かれた物体を見る。

 テーブルの上に置かれたのは大きな十字架だ。子供ひとり入れそうなくらいの巨大な十字架の置物であった。


「リチャードが火傷するってことは、かなり強力な霊装ってことだろ。なんでそんなものが吸血鬼のお家にあるんだよ? つか、リチャードもそれ置いてから下がりすぎだろ?」

「ははは、リチャードは少々恐がりなのじゃ」


 その言葉にリチャードが少しばかり顔を赤らめる。またそう口にしているノエルにしても、表情が少しばかりひきつっているのがミーシャには分かった。

 その状況に不審そうな顔をしているミーシャに対して、ノエルが少し苦い笑みを浮かべながら口を開く。


「これはの。あのバーバルファミリーの根城となっていた工場の地下で見つかったものなのじゃよ。まあ、言ってみれば対吸血鬼用の兵器じゃな。それも相当に強力な」


 その言葉にミーシャがますます眉をひそめる。その話も初耳ではあったが、それよりもそんなものがここに置かれた理由がミーシャには分からない。


「で?」

「そなたが預かれ」

「はぁ?」


 ミーシャが首を傾げた。それからムスッとした顔で頭をかきながら、ノエルに尋ねる。


「いや、お前らが触れるのを嫌がってるのは分かるけどよ。だからって俺に預けるか、普通? 大体いつまで持ってりゃいいのよ?」

「そうじゃな。一週間程度で良い。信頼置ける筋に渡すのに時間がかかっての。それにそなたひとりに押し付けるつもりもない。用心棒(バウンサー)をもうひとり付けてやる」

「へぇ、そりゃどっちだ?」


 ミーシャが眉をひそめながら尋ねる。

 この243街区の用心棒(バウンサー)は、現在三人いる。その内のひとりがミーシャなのだから、残りふたりの内のどちらかのはずであった。


「サンドロスじゃ。マーニャはそなたと一緒にいるのを嫌がっておってな。そなた、何かしたのか?」


 その問いにミーシャが首を傾げる。


「いや仲良くはしてるつもりだったんだが、あいつも情緒不安定なとこあるしな。期限悪かったんじゃねーの?」

『……ハァ。テメエ、マジで言ってんのか?』

「なんだよ?」


 リボルバー(ジョニー)のため息にミーシャが眉をひそめるが、その意味するところを察したノエルも深くため息をついてから口を開く。


「まあ、良い。サンドロスなら問題も起こらんじゃろ。ありゃ女ではなく鉱物じゃからな。では、用は終わりじゃ。とっととそれを持ち帰れ。目障りじゃ。後、なくすなよ」

「はいはい……と。大事にしたいんだか邪険にしたいんだか分かんねえこと言うな。ま、こんだけデカけりゃなくしゃしねえだろうけどよ」


 ミーシャはそう言って十字架を受け取ってその場で背負うと、追い出されるようにホテルレッドアイを出たのであった。




  **********




「あ、コーヒー飲み忘れてた」


 帰る途中にミーシャが、唐突にそんなことを口にした。

 ノエルの呼び出しに急いでホテルに向かったため、ミュンの家のコーヒーを飲み忘れていた……ということを今思い出したのだ。


『おい。まさか戻んのかよ。もう家まで目の前だぜ?』

「ウォンッ」


 リボルバー(ジョニー)の言葉と、護衛に横に並んで歩いているジャックの鳴き声に、ミーシャも「だよなぁ」と呟くと、諦めた顔をして再び歩き始めた。

 連絡はもうノエルが入れているため、すでにミーシャの自宅へとサンドロスは向かっているという話であった。時間的に考えれば、サンドロスはとっくにミーシャの家の前に着いているはずである。


「けど、サンドロスとも久しぶりだな。一ヶ月前に一緒に仕事して以来だったか」

『だぁなぁ。インテリジェンスゴーレムとかいう珍しい種族のヤツだからな。同種を見かけることもほとんどねえし』

「同種と言えば、確かあいつってお前の仲間なんだよな?」


 ミーシャの問いにリボルバー(ジョニー)は『ま、分類すればな』と返す。


『別に生き別れのお兄ちゃんだったり、祖母ちゃんが同じってわけじゃーねーから意味のない話さ。要は俺様はこういう風に造られて、ヤツは自然とそうなったっつーだけのことだしな』


 インテリジェンスゴーレムとは、長い年月を掛けて知性を身に付けたゴーレムのことだ。それが言葉を話せて、仕事にまで就いているというのはかなり珍しいことでもあった。


「無口だけど悪いヤツではないからなぁ。あいつなら遅刻しても笑って許してくれそうだけ……ど?」


 そう言いながらミーシャが正面を見て、眉をひそめた。

 目の前に立ち並ぶ古い建物の先で、黒い煙が上がっているのが見えたのだ。


『なあ相棒。思うにあっちって、そのよ……』

「言うな。言葉にすると現実になりそうだ」


 ミーシャが顔に手をあてながら、リボルバー(ジョニー)の言葉を遮る。黒い煙の出ている場所はミーシャの住んでいるアパートメントに近い。或いは、煙の出元がミーシャの部屋である可能性があった。


「勘弁してくれよ。マジで家燃えてねえだろうな」


 そう口にしながらミーシャの足取りが徐々に速くなっていく。

 思い浮かぶのは燃えさかるアパートメントだ。用心棒(バウンサー)であるミーシャは職業柄、恨みを買うことが多々ある。直接的に絡んでくる相手ならいざ知らず、ノエルの番犬であることを知っていれば手を出せぬ連中も多いため、間接的な嫌がらせを受けることも少なくはなかった。故に、そうした絡みで留守中の自宅を襲われたことが過去に何度かあったのだ。


「頼むぜ。燃えるなら隣の部屋のチンピラ猫の方にしてくれよ」

『いや、隣ならテメエの部屋も燃えてっだろ。それよりも見ろよ』


 リボルバー(ジョニー)の言葉と共に、ミーシャがその場で止まった。時刻は夕方。ビルとビルの間にある薄暗い路地裏に何者かが立っているのが見えた。


「よお、サンド……ロス?」


 そこにいたのは、先ほどまでミーシャとリボルバー(ジョニー)が話をしていた相手、インテリジェンスゴーレムのサンドロスであった。だが、その雰囲気は以前に見たサンドロスとは随分と違っているようにミーシャには感じられた。


(目が金色で……なんで笑ってやがる?)


 警戒して一歩下がるミーシャに、リボルバー(ジョニー)が『おい、こいつ』と呟いた。横にいるジャックも「ウゥゥゥウウウ」と唸って警戒感を露わにしている。そのジャックの前に立って、ミーシャがサンドロスに声をかける。


「どうしたよ。もしかして待ちくたびれたか? いや、そんなんで怒るお前じゃあないと思うんだけどさ。んー。お前、やっぱおかしくねえ?」


 直後にミーシャのいた場所に無数の岩の散弾が放たれて、路面が破壊されて破片が飛び散った。


「やべえ、怒ってる!?」

『いや、そうか? そういう問題か相棒?』


 間一髪、ジャックに噛まれて一気にその場から引き離されたミーシャの呟きに、リボルバー(ジョニー)が呆れた言葉を返す。だが、彼らにそのやりとりを続ける余裕はなかった。

 サンドロスが跳躍して、ミーシャたちへと襲いかかってきたのだ。


「チッ。ちょっと、悪ふざけが過ぎるぜ」


 ミーシャが自動拳銃(アダマスキャット)を抜いて撃つが、サンドロスの身体を欠けさせることはできてもその進攻を止めるには至らない。


「ジャック!」


 ミーシャは横にいたジャックを黒犬から黒いボウイナイフへと変えさせると、迫るサンドロスの攻撃をかわしながら、すれ違いざまに胴を切り裂いた。だが、その次の瞬間に驚愕した顔を見せたのはミーシャの方であった。


「嘘だろ。斬れない!?」

『見ろ。表面にオリハルコンを混ぜ込んでやがる。完全に殺(や)る気だぜ。どうするよ、ミーシャ?』

「どうするも何も」


 手加減して勝てる相手ではない。であれば、リボルバー(ジョニー)の力を使うしかないとミーシャが考えた時に、握っている黒いボウイナイフが鳴動して危機を伝えてきた。


「なっ?」

『避けろ、クソがっ!?』


 反射的にミーシャが一気に跳び下がったが、何かが地面に突き刺さった途端にその場で爆発が起こった。


「チックショォ!?」


 その爆風に、十字架の重さに足を取られたミーシャが転げていく。


「オイオイ、避けやがったぞ。同族のくせに」

「さすがは用心棒(バウンサー)ということだけはあるか」


 そして、ミーシャが体勢を立て直したときには、サンドロスの前にふたりの男たちが立っていた。その姿を見てミーシャの目が細められる。どちらもミーシャと同じ黒髪の、東洋風の男たちだった。


『ハッ、テメエの元同族みてぇだな。相棒』

「マジかよ。機械化してやがるってことは……アレだろ。旧人界連合の機人じゃねえか。なんでこんなところにいやがるんだ?」


 ミーシャの前にいるのは、身体を部分的に機械化した人族の男たちだ。そして、目つきの悪い方の男が一歩前に出て、左腕を前に出した。


「よお、吸血姫の番犬。ちーと、その十字架の中身を返してもらおうか?」


 そう口にしている間にも金属の腕が銃へと変形し、それから言葉の終わりと共に銃口が火を噴き、


「ジャックッ」

「ウォン!」


 同時に犬に戻っていたジャックが、銃火の前に飛び出していった。

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