第013話 リロード
「ハッハー。見ろよ。五本五本と計十本。ようやく戻ったぜ」
「まったく、しつこいのじゃ。このアホが」
そこはノエルの住居であるホテルレッドアイの最上階。昨日に仕事を終えたミーシャは一日経った今、ノエルへの報告にやってきてご機嫌な顔で再生した指を見せていた。
その浮かれた具合にノエルがあきれ顔でいるが、犠牲銃の呪いが解けてようやく指が再生されたのだ。ひたすら苦痛にうめいていた時間を脱したミーシャのテンションは最高潮に達していた。
『どうせ、すぐにブッ飛ぶんだがな。まあ、今は浮かれさせた方が、絶望感のエッセンスが聞いて味が良くなるかもしれねえ。というわけで喜んでいいぞ相棒』
「うるせえよ。もう二度とテメェなんぞ使うか、馬鹿」
ミーシャがご機嫌でそう口にするが、その誓いが護られたことは今のところ無かった。故にリボルバーは「ハッ」と小馬鹿にした笑いだけを残してそのまま黙る。
そのやりとりが終わってからノエルが口を開いた。
「で、経過報告についてはバファロファミリーからある程度聞いておるのじゃがな。連中の装備や、あのドルグの改造についてはまだ分からぬままのようじゃ」
「んーそうみたいだな。ま、こいつなんかもそうなんだけどな」
ミーシャが懐から取り出したのは、単三電池ほどのサイズの銃弾だった。
「7.62×51mm複合型術式弾。俺がマリシアに造って貰っている9×19mm複合型術式弾よりも大型だが、そこに組まれた術式は同系統のものだってのはマリシアに確認済みだ」
ミーシャから告げられた『同系統』の言葉にノエルの目が細められる。
「エルフの里の連中……であれば足取りは難しいか」
「だな。マリシアの話じゃ師匠筋の流れに近いらしいんだが。まあ闇ルートならともかく正規の販売ルートから購入してたなら辿るのは無理だろうしな」
「エルフの連中は固いからな。やむを得まい。それにしても、あの豚どもは予想以上に買い込んでいたようじゃな」
「応よ。全部俺が頂いたけどな……ええと、全部もらってもいいんだよな?」
そのミーシャの言葉にはノエルも頷く。
ミーシャが手に入れたのは、今取り出した7.62×51mm複合型術式弾。術式を仕込んだ弾丸の金額は通常のモノとは桁が違う。自動拳銃とは規格が違うが、弾丸よりも銃の方が安上がりなので併せて揃えれば良いだけのことだった。
「構わんが、マリシアにも何発か渡して造れるか調べさせるのじゃぞ。量産化できればそれに越したことはないのじゃろ?」
「分かってるさ。それで、生き残ったバーバルの奴らの話は聞けたんだろ?」
「うむ。聞くには聞けたが、大したものではないな。購入筋はドルグしか知らないらしいのじゃ。頭を開けて聞いたんじゃから間違いなかろうて」
そのノエルの言葉にミーシャが顔をしかめる。ノエルの言葉が比喩ではなく、そのままの意味であることをミーシャは理解している。頭蓋を開き、脳から直接情報を得るのは魔術としてもそう珍しいものではないのだ。
「272街区から、こっちに逃がした黒幕がいるのは確実らしいが。ま、妾に仇なしたい者は少なくはないからの」
「コエエっての」
赤い瞳を輝かせるノエルにミーシャがブルッと震えた。問題ないとは口にするものの、怒りを感じているのが丸分かりである。
「まあ、それは良いわ。そこから先は妾の領分じゃしな。ひとまずはご苦労。報酬はすでに振り込んでおるが、すぐに使わずに蓄えぐらいは残しておくのじゃぞ」
「あいよ。まあ、残ったら貯金しておくさ」
そう言って立ち上がったミーシャは、リチャードより明細書を手渡されると部屋から去っていく。明朗会計がレーベファミリーのモットーであり、それは用心棒にも適用されていたのであった。
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「ブモー。よく来た、我が友よ」
そして、ホテルから出たミーシャが次に立ち寄った場所では、小柄でやや小太りなオークが両手を広げて待っていた。
その場所の名はバー・シュバイン。オーク貴族であるドラム・ビューティーがオーナーをしている酒場であった。他にもこの場にいるのは当然オーク族の者たちだ。ミーシャは、その場の面々に手を振って挨拶を交わしながら、ドラムの横に座った。
「よおドラム。お前んところのただ酒は旨いからな。呼ばれりゃ、そりゃ来るさ」
ミーシャの言葉にドラムが「照れ屋さんめ」と返すが、ミーシャは男相手には非常に素直な性格をしている。それからミーシャがドラムをじろじろと眺めた。
「むむ、なんだね?」
「いやよ。昨日のアレで、なんでそんなに元気なんだと思ってさ?」
昨日の戦いは、不死病感染者であるミーシャであってもまだ(主に精神的な面で)疲れが取れていない。だが、銃弾を受けまくってボロボロだったはずのドラムがこうして元気なのがミーシャにとっては大変不可解であったのだ。だが、
「昨日はよく眠れたからな。そのせいだろう」
ブモーッと口にしたドラムの言葉通りに、そこには特に種も仕掛けもない。ドラムという生き物はただそういう生き物なのである。
「まったくミーシャ殿には本当に助かりました」
「ええ、まことに。あなたがいなければ我々は生きてここにいなかったでしょう」
そして、ドラムの左右にいる従者らしき者たちがシミジミとそう口にして頭を下げる。
彼らは昨日にドラムを止めることができなかった、従者たちであった。ドラムがバーバルファミリーに殺されたりでもしていれば、当然ビューティーファミリーは従者たちを生かしてはおかなかったはずなので彼らの言葉は紛れも無く真実であった。
なお従者たちはドラムを止めようとしたときの傷がまだ残っているらしく、松葉杖をついている。そのことに少しだけ苦笑しながらミーシャも「ま、無事で何よりだったな」とだけ返した。
それからドラムが立ち上がり、その場の全員にパーティの始まりを告げる。ここからはドラムのおごりであるとの言葉に、ミーシャも含めて店の客全員が歓声を上げたのだ。
「さあ人族のお兄さん。ドラム様と一緒に飲みましょう」
「どうだ、ミーシャ。この店でも一番のきれいどころだぞ」
「はっは、エルフなんかの堅苦しいのよりも愛嬌あって俺は好きだぜ」
ミーシャもまんざらでもない顔でオークのホステスから酒を注いでもらう。
オーク族の女性は、美醜で言えば美よりも醜よりではあるが、愛嬌のある顔と肉付きの良い身体を好く男は多く、実のところエルフの男性などには同族よりも好まれているほどであった。
その上にオーク族の男の好みは人族やエルフ族の美形に寄る傾向があり、この場に集められたオーク族の女たちはオーク以外の基準でも美しいと評価されるような女性たちだ。
そして、ミーシャも男である。鼻回りもチャームポイントと捉えられれば悪くないと考え、テンションを上げてグラスを掲げた。
「そんじゃあ、乾ぱーーーー」
次の瞬間に銃声が響き、グラスが勢いよく割れてこぼれ落ちた液体がミーシャの頭にかかり、目の前で何人ものオークたちが血を流しながら倒れていく。
「は、おい?」
『まあ、いつものことだわな』
黙っていたリボルバーが、笑いをかみ殺した声でそう口にする。
その横ではドラムが険しい顔で立ち上がり、背後から両刃の斧を取り出した。「どこから取り出したんだ」というミーシャの声を無視してドラムは入り口ですでに始まっている銃撃戦を眺めながら口を開く。
「モッコファミリーのカチ込みか。すまんなミーシャ。今日はこないと思ってたんだけどもブモー」
「今日はって、おい。しかもこの地響きはまさか」
ミーシャは続けて響いてきた足音らしき音と振動を感じて、ひどく嫌な予感がした。その振動は昨日に感じたものに似ていていたのだ。それからミーシャが「まさかなぁ」と口にすると、外からオークの男が慌てた様子で入ってきた。
「坊ちゃん。ベヒモスだ。連中、昨日逃がしたベヒモスの片割れを連れて来やがった」
「昨日? 片割れ?」
ミーシャが苦い顔をしてドラムへと視線を向ける。
「ああ。昨日、連中が密輸したベヒモスの居場所を突き止めたんだけれども逃げられたんだブモー。そんで一匹はミーシャ、お前が街中で殺してくれたようだが、もう一匹は見つかってなかったんだブモー」
「ああ、あれってそういう背景があったんだな。ペットじゃなかったのかよ」
ミーシャが頭を抱えるが、あのベヒモスがペットであるという情報も飼い主が喰われたという話も、ミーシャが通りを逃げていた誰かの言葉を真に受けていただけであったのだ。
「というわけで頼んだぞミーシャ」
そしてミーシャの肩をドラムがポンと叩いた。
「は、何が?」
「昨日のような一撃を期待しているブモッ」
「ははは、ミーシャ様はノエル様の番犬ですからな」
「後、ちょっと死にそうなのだけでも良いので回復をお願いしたいのですが」
「ちょっと待て、こら」
次々と出される要求にミーシャが頭をボリボリとかいて眉間にしわを寄せたが、そこにリボルバーが口を開いた。
『ケッケッケ、あきらめろよ相棒。あれがこのまま街中で暴れたら事だぜ。しかもドラムを殺させるわけにもいかねえんだろ。でだ。この場にアレを止められるのはどうしたらいいのかを俺様と相談した方がいいんじゃねえかい?』
「ああ、クソ。マジかよ」
ミーシャが涙目になりながら、リボルバーを取り出した。相談するまでもなくやることは決まっていた。そしてミーシャはリボルバーの銃身を折った。
「治ったばかりなのに。治ったばかりなのによ。ついさっきだぞ、畜生!」
シリンダーが姿を現し、開いている穴の周囲にはガチガチと歯のような刃が蠢いている。それを見ながらミーシャが覚悟を決めた顔で穴に親指を入れる。
「ホントにくそったれだな。この街は!」
そして、今日もミーシャの悲痛な叫びが木霊していた。
243街区の用心棒、犬使いのガンマンことミーシャ・ドッグ。それが彼のいつも通りの日常であった。




