7 二度目のシェリルの召喚
アイリスが黙って召喚陣から退いたあと、次はシェリルがそこに立った。
シェリルが召喚の動作を行うと、ぱちぱちとした小さな光が散って——何も起きなかった。
十秒待っても、三十秒待っても。観衆がざわつき始めた頃、ようやく陣が薄く光り、小さな何かが現れた。
それは、手のひらに乗るほどの、薄緑のトカゲだった。
体のあちこちに傷があり、鱗には光沢がないうえ、尻尾の先が欠けていた。目だけが大きくて、きょろきょろと周囲を見回している。
「……え」
シェリルの顔が、みるみる曇る。
「こんなのが、私の精霊なの? こんな……汚い、トカゲが?」
囁き声だったが、静まり返った中庭にはよく通った。
そこの声を聞いたトカゲが、びくりと震える。
アイリスはそれを見逃さなかった。
「汚い」と言われて、それでもそこから動けずにいる小さな体を。
(前の運命のシェリルは、この精霊を碌に世話もせずに死なせたのよね)
正直、シェリルがこのトカゲと一緒にいるのを見たことがなかったから、すぐに死なせていたのかもしれない。
だが、シェリルのこの反応なら納得ができる。最初から育てる気はなかったのだろう。
胸の奥で、何かがひりついた。
この精霊も、同じだと思ったから。
自分と同じ、気に入らないからと捨てられ、必要とされなかった存在。
使い捨てにされた命――。
気付けば、アイリスは手を挙げていた。
「先生」
担当教師が振り返った。
「召喚と契約は別とされています。私はそのトカゲと契約したい」
中庭が、しんと静まった。
教師が目を丸くした。
「アイリス・ヴェルナー、今なんと——」
「シェリルが召喚した精霊と、私が契約したい。ライガルドは、シェリルに譲ります」
今度こそ、本当に静かになった。
数秒の間があって、あちこちから声が上がり始めた。
「あのライガルドを、自分では契約しないって?」
「高位精霊を召喚しておいて、あんなトカゲと契約するのか?」
「正気か?」
教師が咳払いをして歩み寄ってきた。声を潜めながらも、明らかに焦っているのがわかる。
「アイリス、あなたほどの実力があれば、ライガルドとの契約は学院始まって以来の快挙になる。それを自ら——」
「召喚と契約が別であることは、規則に明記されています」
アイリスは静かに遮った。
「つまり、契約者は私でなくてもいい。ライガルドはシェリルを気に入っている様子です。シェリルが契約したほうがいいでしょう」
「しかし——」
「規則に反していますか?」
教師が黙った。
反していない。それが答えだったから。




