6 二度目の召喚試験
中庭に出ると、霧はまだ残っていた。
整列した新入生の中に、アイリスは自分の場所を見つけた。隣には——シェリルがいる。
金色の巻き毛。碧い瞳。華奢な指先。
胃の奥がざわりとした。わかっていた。前の運命でも隣にいた。
それでも、実際に目の前にすると、体が勝手に反応する。
「ねえお姉様、緊張しない? 私すごくドキドキしてるんだけど」
前の運命と、一言一句変わらない声だった。
アイリスは息が詰まりそうになった。
笑顔の奥に何もないその顔を、もう知っていた。蜂蜜のような声の裏側を、もう知っていたから。三年後にその口が何を言うかも。
「……しない」
声が、わずかに固くなった。
だが、それに気づかないシェリルはふくれっ面を作り、「冷たいなあ」と言う。前の運命と同じように。
アイリスは前を向いた。
今すぐここから離れたかった。この場所から、この霧の中から、この試験から、全部。
でも逃げられない。逃げてしまえば、また同じことになるかもしれない。
(落ち着いて。今日さえ乗り越えれば……)
深く、静かに息を吸ったとき、名前が呼ばれた。
アイリスは召喚陣の中心に立った。周囲の視線が集まる。
深く息を吸い、意識の奥にある何かをほどく。広げる。届かせる。
陣が光った。
小さな光が急速に広がり、膨れ上がり、白光が中庭を焼いた。教師たちが目を細め、生徒たちが後退した。
光が収まったとき——双頭の雷狼がそこにいた。
「ライガルド……!」
「双頭の雷狼が、本当に……!」
ざわめきが波のように広がった。銀色の毛並みが霧の中で輝き、二対の黄金の目が中庭を見渡す。
アイリスはその目を見た瞬間、足の裏から冷たくなるのを感じた。
(この目だ)
前の運命で最後に見た目だった。感情のない、黄金の目。
あのとき、自分を見たその目は——何も映していなかった。
まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように。
『……美しい』
意識に声が届いた。低く、重い声。
アイリスは奥歯を噛んだ。
ライガルドの視線が動いた。アイリスを素通りして、その向こうへ——シェリルへ。
前の運命と、まったく同じように。
『お前が飼い主か』
その言葉も、前の運命と同じだった。
「違います、私が召喚者です——」
前の運命なら、そこでアイリスは割って入った。契約はこの私と、と。
でも、今回は、しない。
アイリスは静かに、召喚陣から一歩退いた。




