表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を裏切った精霊は妹に譲り、妹が捨てた精霊と穏やかに生きます  作者: リッカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/20

5 最初の終わり、そして二度目の始まり

 痛みは、最初だけだった。あとは何も感じなかった。

 遠くで誰かが叫んでいた。マリアの声かもしれなかったし、シェリルの笑い声かもしれなかった。だけど確認しようにも、起き上がるどころか顔も手も、なにも動かすことすらできなかった。

 アイリスは灰色の空を見上げたまま、思った。


——ああ。

やっぱり私は。

最初から、必要なかったんだ。


 霧が出ていた。召喚試験の朝と同じ、白い霧が。

 視界が暗転する。

 やがて、顔になにか冷たいものを感じた。

 雨だったのか、それとも自分の涙だったのか。

 そこで意識が途切れ、確かめることはできなかったけれど――。



 ――

 ――――

 ――――――


「――…!!」


 息を吹き返すように目を覚ます。激しい動悸がする。

 視界には空ではなく天井が見えていた。


 アイリスはしばらく動けなかった。仰向けのまま、石造りの天井を見上げて、息を切らせるように呼吸をしていた。


 知っている天井だった。入学してすぐの頃、寮の自室でよく見上げていた天井。染みの形まで同じだった。左上の隅に、雫が垂れたような茶色い染み。


 恐る恐る体を起こした。

 鏡を見るまでもなかった。栗色の髪が肩に落ちる。

 傷跡が、ない。三年間で刻まれたはずの傷が、どこにもなかった。


(夢……?いや、あれはたしかに現実だった)


 窓の外を見るが、霧で覆われていてなにも見えない。

 召喚試験の朝は、いつも霧が出る。


 ◇ ◇ ◇


 着替えて廊下に出ると、見慣れた寮の廊下だった。


 アイリスは記憶を辿る。

 体を貫いた雷の痛み。意識が遠のいていく中で聞こえたシェリルの声。


『ありがとう、お姉様。おかげで、こんなに素敵な精霊が手に入ったわ』


 吐き気がした。

 思わず壁に手をつく。しばらくそのままの体勢で目を閉じる。

 鮮明に蘇る。シェリルの笑顔。ライガルドの冷たい黄金の目。

 そして……『邪魔だ』という、感情のない声。


(三年間……)


 傷だらけになりながら素材を集めた。

 魔域の奥で一人で戦ったこともある。傷が癒えないまま次の依頼に出た。

 それを全部、ライガルドのために。あの精霊の成長のために……。


(私は馬鹿だった)


 怒りとも悲しみとも違う、どろりとした感情が胸の底に沈んでいた。自分に向けた感情だった。

 なぜ気づかなかった。なぜ疑わなかった。ライガルドはずっとシェリルを見ていたのに。シェリルはずっと笑っていたのに。

 それでも信じようとして、信じるしかないと思って、消耗して、死んだ。


(二度と、ごめんだわ)


 これは神様が与えてくれたやり直しのチャンスなのかもしれない。


 ライガルドとは関わらない。シェリルとも関わらない。あの二人に近づいた瞬間から、運命は狂い始めていたのだろう。


(やり直せるのなら、今度は間違わないようにしないと……)


 手の震えが収まるまで、アイリスは壁に手をついたまま俯いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ