4 最初の卒業試験
人型試験は、三年目の最終月に行われる。
全校生徒と教師が演習場に集まり、契約精霊が最終形態である人型を取れるかどうかを見届ける。これが卒業への第一関門だった。人型を取れなければ、残りの三年間でやり直すか、さもなくば——多くの生徒にとって、それは学院生活の実質的な終わりを意味した。
アイリスは演習場の中心に立った。
周囲の視線が、ひりつくように痛く感じる。
(三年分の全部を、ここに)
ライガルドを呼んだ。
精霊の姿が変わり始めたとき、雷と風が巻き起こり、嵐になった。
嵐の中心で、ライガルドの姿が変化していく。銀色の毛並みが光に溶け、二つの頭が一つの影に収束し、雷が渦を巻いて演習場の空を焦がした。観客が悲鳴を上げる。それでもアイリスは目を離さなかった。三年間、ずっとそうしてきたように。
嵐が収まり、そこに立っていたのは――長身の男だった。
銀色の髪が肩まで流れ、引き締まった体に雷光がまだ纏わりついていた。顔は、美しいというより整いすぎていて、人間の顔つきではない何かが残っていた。黄金の目が、ゆっくりと開いた。
歓声が上がった。
アイリスは一歩踏み出そうとした。
同時にライガルドが動いた。
そして、アイリスの横を通り過ぎる。
ライガルドは、人だかりをかき分け、迷いのない足取りで、まっすぐに——シェリルのところへ歩いていった。
ライガルドがシェリルの手を取った。両手で、大切なものを包むように。
「ずっと待っていた」
その声は、三年間アイリスが聞いていた声と同じだった。ただ、温度が全く違うことはわかった。
「お前がをずっと欲しかった。この手をつかめる日を待っていた」
シェリルが目を潤ませた。「まあ……」と囁いた。
それから、顔を上げてアイリスのほうを見る。
その瞬間、アイリスは理解した。
シェリルは驚いていなかった。
「ありがとう、お姉様」
シェリルが微笑んだ。蜂蜜よりも甘く、しかしその奥に何もない笑顔で。
「おかげで、こんなに素敵な精霊が手に入ったわ」
「なにを言ってるの……、ライガルドは私の……」
それ以上、言葉が出てこなかった。
ライガルドと視線を感じたからだ。
黄金の目が——値踏みでもなく、ただ、何の感情もない目で、アイリスを見ていた。
「邪魔だ」
そして、雷が落ちた。




