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私を裏切った精霊は妹に譲り、妹が捨てた精霊と穏やかに生きます  作者: リッカ


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12/19

11 意思疎通

 七月の末、突然ヴェルドが言葉を発した。

 夕暮れの寮の部屋だった。

 アイリスが窓を開けて外の空気を入れていると、膝の上のヴェルドが顔を上げた。そして——


『アイリス』


 アイリスは動きが止まった。

 窓の外で鳥が鳴いた。夕風が入ってきた。それ以外は、静かだった。


「……今、喋った?」

『ずっと、言いたかった』


 頭の中に直接届く声だった。精霊の声はそういうものだと知っている。でもヴェルドがこんなに明瞭に、言葉として——。


『ありがとう』


 アイリスはしばらく、何も言えなかった。

 精霊の意思疎通能力はランクに比例する。下位では身振りのみ。中位で単語程度。上位になって初めて、言葉による会話が可能になる。

 つまりヴェルドは今——上位の、精霊になっている。

 入学時、手のひらサイズの傷だらけのトカゲだったのに。シェリルに「汚い」と言われて震えていたのに。


(あなた、こんなに……)

「どういたしまして」


 アイリスは静かに言った。声が少し、掠れた。


「こちらこそ、いっぱい助けてもらったわ」

『それは……当然のことだ』


 少し間があった。言葉を探しているような間だった。


『君が、私を助けてくれたから』


 アイリスは窓の外に目をやった。夕暮れの空が、橙と紫に染まっていた。

 前の運命で、ライガルドに礼を言われたことは一度もなかった。

 三年間、傷だらけで素材を集めて帰っても、ライガルドはただそこにいるだけだった。

 それが普通だと思っていた。精霊とはそういうものだと。


(やっぱり違うのかもしれない)

「ヴェルド」

『なんだ』

「これからも、よろしく」


 少しの間があった。


『……ああ』


 ヴェルドが、アイリスの膝の上で小さく丸まった。いつもと同じように。でも今日は、少しだけ違って見えた。

 橙色の夕暮れの中で、その鱗がかすかに輝いていた。


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