第3話 枯れ野の底
枯れ野の底には、空が、なかった。
代わりに、根があった。
崩れた水路の口から、灯りを頼りに半刻下ると、道は、土を掘った隧道になる。天井を、太い根が、何本も這っている。地上では銀色に錆びて崩れる枯れ野の草木が、地の底では、こんな根を張っていた。死んだ野の、生きている裏側だった。
「上は毒でも」案内の男が言った。「下は、生きてるんでさ。枯れってのは、皮だけ喰うらしい」
男の首に、札の痕があった。番号を外した痕。歩きながら、男は鈴を、ちらちらと見た。見て、目が合うと、慌てて逸らした。拝まれるのと、半分だけ、同じ目だった。
下るほどに、空気が、変わった。
地上の、雪と、枯れの、死んだ匂いが、消えていく。代わりに、土の匂いがした。湿った、生きている土の匂い。根が、太くなる。何本もの根が、絡み合って、天井を、支えていた。地上で銀色に錆びて崩れる木が、地の底では、こんなに、太い根を、張っていた。死んだ野の、生きている裏側。上では枯れ、下では生きる。同じ一本の木の、上半分と、下半分。鈴は、ふと、それが、自分たちに、似ている気がした。地上では、追われ、狩られ、消される。地の底では、こうして、生き延びている。八洲の無名たちは、皆、根のほうの、生き方を、選んだ者たちだった。
途中、土を固めた関が、ひとつあった。
槍を持った男がふたり。けれど男たちは、槍より先に、声を使った。
「名のられよ」
案内の男が、先に名のった。続いて鈴が。小夜が。縹が。凪が、最後に、つかえながら名のった。門番は、誰の名も帳面につけなかった。聞くだけだった。聞いて、頷いて、関を開けた。
「名のりが、通行証なんでさ」案内の男が言った。「書きやしません。書いたら、上と同じだ。聞くだけ。……妙な決まりでしょう。けど、自分の名を、自分の口で言えるかどうかってのは、案外、嘘がつけねえもんで」
隧道の先が、明るくなった。
鈴は、足を止めた。
土の大広間だった。天井は高く、根が梁の代わりに渡され、その根に、灯が、何十と吊られている。藍、朱、萌黄。番号を捨てた者たちの、めいめいの色の灯。地上の大灯の遠景と、同じ色合いが、地の底に、もうひとつあった。
灯の下で、人が、生きていた。
鍛冶の音。子どもの声。粥の湯気。機を織る音まで、した。半年前、灯都の地下で見たのは、薪を待つ者たちの、暗い溜めだった。ここは、違う。同じ地の底で、人は、これだけ違うものを、作れるのだった。
奥の鍛冶場では、赤い火床を囲んで、男たちが、鉄を打っていた。鋤や鎌ではなかった。鏃だった。打つたびに、火花が、根の天井へ、散る。その隣で、機織りの女たちが、布を織っている。鏃と、布。武具と、暮らし。ふたつの音が、同じ広間で、隣り合って、鳴っていた。後で鈴は、その音の隣り合いが、この砦の、ふたつの心だと知ることになる。いまはまだ、ただ、賑やかな地の底に、見えた。
子らの一群が、土の床に座って、棒きれで、字を習っていた。教えているのは、年嵩の女だ。自分の名を書けた子が、得意げに、隣の子に見せる。北の番号の州から見れば、罪に近い遊びだった。名を、ただで、書く。誰の許しも得ずに。
「鈴姉ちゃん!」
声と一緒に、小さい影が、駆けてきた。
蕗だった。
ひと冬で、背が伸びていた。頬に肉がつき、髪が伸び、笑うと前歯が一本、抜けていた。八つの子の、八つの分だけの変わり方だった。蕗は鈴の腰に、勢いのまま、抱きついた。
「来るって聞いた!あのね、あたしね、字、書けるようになった!自分の名前!」
「……見せて」
蕗は、土間に、棒きれで書いた。蕗。ふき。大きく、曲がって、堂々と。
名灯し様、と拝む大人たちの目と、鈴姉ちゃんと呼んで字を自慢する子の目と。同じ「名を取り戻した州」の、二つの目だった。鈴は、どちらが本当の半年か、知っている気がした。こっちだ。こっちのほうが、本当だ。
「上手」鈴は言った。「あたしより、上手」
蕗は、得意げに棒きれを振って、それから、ふと、首をかしげた。
「ねえ。大人たち、なんで鈴姉ちゃんのこと、様って呼ぶの?鈴姉ちゃんは、鈴姉ちゃんなのに」
「……ほんとだね」
「あたしは呼ばないよ。だって、名前で呼ばないと、誰のことだか、分かんなくなっちゃうもん」
八つの子が、いちばん、正しかった。鈴は、蕗の頭に、手を置いた。置いた右手の、布の下の糸のことは、考えないように、した。
「蕗は、ここで、誰と暮らしてるの」
「汐音ねえちゃんと。機織りの。ご飯くれる」蕗は、当たり前のように言った。「あのね、ここの大人、みんな、忙しいの。だから、子どもも、手伝うの。あたし、糸巻きが、できるよ。蕗の名前と、糸巻きと、両方できる」
名前と、糸巻き。この子の世界の、できることが、半年で、ふたつに、増えていた。灰郷で、怯えて鏡を待っていた子が、地の底で、糸を巻き、字を書く。それだけのことが、鈴には、半年分の、いちばん確かな成果に、思えた。
◆
広間の北寄りに、ひとかたまり、訛りの違う区画があった。
北からの逃亡者たちだった。二十人ほど。皆、首に、白い紐の痕がある。凪が、その区画の前で、足を止めた。同じ痕の者たちが、同じ痕の少年を、見た。誰かが、北の言葉で、何かを言った。凪の顔が、くしゃりと、歪んだ。歪んだまま、少年は、区画の中へ、吸い込まれていった。言葉の通じる場所へ。
鈴は、それを見届けてから、奥へ向かった。
燼は、奥の間にいた。
土壁に、八洲の地図が、貼ってある。木炭で描いた、手製の地図。八つの州。八つの灯。海峡の線。その前に、男が、ひとりで立っていた。
地図には、印が、いくつも、書き込まれていた。州灯の位置。海峡の渡り場。北の船の集まる入り江。木炭の線は、何度も引き直された跡があって、男が、この地図の前で、どれだけの夜を過ごしてきたかを、語っていた。罠を見回るのに使っていた目が、いまは、八洲ぜんぶを、獲物の野山のように、読んでいた。
半年ぶりの背中は、ひと回り、厚くなっていた。
「……遅かったな」
振り向かずに、燼は言った。
「半年も、あの郷で、拝まれてたのか。お前らしくもない」
「あんたこそ」鈴は言った。「半年、罠も結び直さないで」
燼が、振り向いた。
左の眉の上に、新しい傷があった。狩りの傷ではない。刃物の傷だった。目は、半年前より、暗くはなかった。代わりに、乾いていた。よく乾いた薪のような目、と鈴は思った。火がつけば、よく燃える。
「縹」燼の目が、鈴の後ろへ動いた。「……目は、戻らんのか」
「戻らん」
「そうか」燼は、それだけ言った。それだけの言い方に、半年分の、いろいろが、畳んであった。「お前が結界を繋いだことは、皆、知ってる。ここでは、誰もお前を、神籍とは呼ばん。——呼ばせん、が正しいがな。呼びたがる奴は、いる」
「呼ばせておけ」縹は、静かに言った。「事実だ。私は神籍だった」
「相変わらず、可愛げのない男だ」
燼の口の端が、わずかに、動いた。笑いの、化石のようなものだった。それでも、半年ぶりに見る、燼の笑いだった。
それから燼の目は、鈴の後ろの、小夜の上で、一瞬、止まった。
「……デカくなったな」
「燼兄も、老けた」小夜が言った。
「言うようになった」
それきり、燼は、また地図に向き直った。久闊を叙する、という時間を、この男は、自分に与えなかった。半年ぶりの再会の余白を、すぐ、戦の話で、埋めにかかる。鈴は、その背中に、半年の重さを見た。灰郷の囲炉裏端で、獲物を分け合っていた男は、もう、ここにはいなかった。地図の前の頭目だけが、いた。
それだけだった。それだけの応酬に、灰郷の、囲炉裏端の昔が、薄く、透けた。透けて、すぐ、消えた。燼は、もう、地図の前の男の顔に、戻っていた。昔を懐かしむ時間を、自分に許す係を、この男は、半年前に、やめている。
「で?」燼は、鈴に向き直った。「北の禍狩に追われて、妹を連れて、ここへ来た。匿えと。——そういう話で、いいんだな」
「うん」
「断る理由はない。だが、鈴。先に言っておく」燼は、地図を、顎で示した。「ここは、隠れ家じゃない。砦だ。お前が思ってるより、ずっと、戦は近い。匿われるってことは、砦の中にいるってことだ。砦の中に、客はいない」
◆
評議は、その夜に、開かれた。
土の大広間に、百人が、車座になった。無名衆の評議は、誰でも座れる。誰でも、名のってから、喋る。それが、ここの掟だった。番号で呼ばれた者たちの、裏返しの掟。
口火は、名のりから、始まった。
立つ者は、必ず、名のる。名のってから、喋る。鍛冶の、誰それ。機織りの、誰それ。北から来た、誰それ。肩書も腕っぷしも関係なく、名のった者から、順に声を持つ。百人の車座が、その順序だけで、回っていた。
「炭焼きの、源蔵」と、ひとりが立った。「上の見張りが、また、枯れの進みを、報せてきた。罠場の境が、ひと月で、指二本ぶん、こっちへ寄った。……結界が、痩せてる。誰の目にも、もう」
「漁の、とき」次に、若い女が立った。「沿岸の村から、また三家族、逃げてきました。北の船が、米を積んで来るって。……米と引き換えに、名前を、書けと」
声は、車座を、ひと巡りした。枯れの侵食。北の船。痩せる結界。どれも、半年前には、なかった議題だった。半年前の敵は、灯都にいた。いまの敵は、海の向こうと、地面の下から、同時に、来ていた。
凪も、呼ばれて、立った。
「……北の、漁師の子の、凪です」
少年は、札のこと、買い取りのこと、海峡の船のことを、つかえながら、話した。広間は、静かに、聞いた。聞き終わって、誰も、少年を責めなかった。札を下げていたことを。書かれてしまったことを。ここにいる全員が、かつて、番号を下げていた。
議題は、北の州だった。
「届け出だの、書付だの、ふざけた話だ」焼き派の男が、立った。名のりは、鍛冶の弦次。「北は、もう戦の支度を終えてる。海峡に船が集まってるのは、漁のためじゃない。来るんだ、春に。なら、こっちから行くべきだ。春の前に」
「行って、どうする」灯し派の女が、立った。機織りの汐音。「北の民を焼くのか。あたしらと同じ、札を下げられてるだけの民を」
「民は焼かん。灯を折る」
弦次の言葉に、広間が、ざわめいた。
「州灯を砕けば、州の節が落ちる。節が落ちりゃ、北は、結界を保てん。潮に齧られる州に、戦なんぞ、できるか。——守りが、攻めになる」
鈴の背骨を、冷たいものが、降りた。
それは、半年前、灯都の地の底で、要石の間を見たときと、同じ冷たさだった。州灯を砕く。言葉にすれば、たった五文字だ。その五文字の下に、沿岸の村が、凪の母や姉の暮らしが、沈んでいる。
「弦次」燼が、口を開いた。
広間が、静まった。頭目の声だった。
「その策は、まだ、早い」
まだ。
鈴は、その二文字を、聞き逃さなかった。駄目だ、ではなかった。早い、だった。燼の中で、その策は、捨てられていない。納屋の奥の、よく乾いた薪のように、出番を、待たされているだけだった。
「だが、汐音」燼は続けた。「春に北が来るのは、止まらん。灯し派は、それにどう答える。唄と、字の手習いで、船が止まるか」
「止まらないよ」汐音は、引かなかった。「でも、あんたの言う勝ち方は、あたしらが半年前に、やっと捨てた負け方と、同じ顔をしてる」
広間の目が、いっせいに、動いた。
鈴へ。
百の顔が、車座の真ん中の、鈴を見た。焼き派も、灯し派も、同じ目をしていた。名灯し様なら。名灯し様が決めてくれれば。大灯を変えた人が、こっちの旗についてくれれば——。
「……あたしは」
鈴は、口を開いた。開いて、百の目の重さの分だけ、言葉が、遅れた。
「あたしは、決めない。あたしの名づけは、旗じゃない」
「なら、何のためにここへ来た」弦次が言った。悪意ではなかった。それが、いちばん、応えた。「あんたの妹は、ここの飯を食う。ここの灯の下で寝る。砦の中に、客はいないんだ。名灯し様」
◆
割り当てられた寝床は、灯し派の区画の、隅だった。
土壁の小部屋。根の天井。借り物の筵。それでも小夜は、壁に触れて、少し、笑った。
「あったかい。土って、あったかいんだね」
小夜は、土壁に、頬を、寄せた。雪の郷で、何年も、熱を出しては、寝込んでいた子だった。地の底の砦は、雪も、風も、ない。土が、ほのかに、あたたかい。妹には、それが、嬉しいらしかった。けれど鈴は、夕方、廊下で聞いた、女たちの囁きを、思い出していた。名灯し様の妹も、移ろい火だってさ。じゃあ、あの妹も、いずれ。いずれ、何だというのか。囁きは、そこで、途切れていた。途切れた先を、皆が、勝手に、想像していた。砦は、移ろい火を、狩らない。狩らないが、別の檻が、ここにも、あった。神様の妹、という檻。いずれ要石になるかもしれない子、という檻。場所が、変わっただけだった。妹を囲う檻の、形が、変わっただけ。
小夜は、土の壁に、頬を、つけた。灰郷の家は、冬は、底冷えがした。板壁の隙間から、雪の風が、入ってきた。妹は、十六年、その寒さの中で、熱を出しては、寝込んでいた。土の砦は、違った。地の底は、地上の寒暖を、受けない。一年じゅう、同じ、ぬるい暗さだった。「ここなら、冬でも、熱、出さないかも」と、妹は言った。願いのような、言い方だった。鈴は、それが、当たればいい、と思った。当たっても、外れても、妹は、もう、寝込んでいる子では、なくなりつつあった。
「……うん」
「鈴姉。あたし、ここでは、隠さなくていいの?」
火のことだった。鈴は、答えに、詰まった。ここは移ろい火を狩らない。狩らないが——夕方、廊下ですれ違った女たちの、囁きを、鈴は聞いてしまっていた。名灯し様の妹も、移ろい火だってさ。じゃあ、あの妹も、いずれ。いずれ、何だというのか。囁きは、そこで途切れていた。途切れた先を、皆が、勝手に、想像していた。
「隠さなくていい」鈴は言った。「でも、見せなくてもいい。あんたの火は、あんたのものだから」
妹は、しばらく、考えていた。
「あんたのもの、か」小夜は、自分の手のひらを、見た。「灰郷では、隠すものだった。見つかったら、狩られるから。ここでは、隠さなくていい。……でも、見せたら、移ろい火の妹、って、呼ばれる。隠しても、見せても、あたしは、移ろい火なんだね。どっちでも」
鈴は、答えられなかった。妹の言うとおりだった。灰郷では、火は、隠す檻だった。ここでは、火は、見られる檻だった。檻の形が、変わっただけで、檻は、まだ、あった。妹を、ただの小夜として、見てくれる場所は、この八洲の、どこにも、なかった。鈴が、半年前、世界を変えたはずなのに。変えた世界にも、妹の檻は、形を変えて、残っていた。
「ん。……分かった」
小夜は、素直に頷いて、横になった。素直すぎる頷き方だった。納得した者の頷きではなく、姉を安心させる係の、頷きだった。いつから、妹は、この係を覚えたのだろう。
廊下の奥から、唄が、聞こえてきた。
北の訛りの、子守唄だった。逃亡者の区画で、誰かの母親が、子を寝かしつけている。凪が言っていた。北から逃げた者が、ここにもいると。その唄の節が、遠くて、よく聞き取れないのに、どこかで聞いたような、上がり下がりをしていた。
「……あの唄」小夜が、寝床の中で、目を開けていた。「ね。聞こえた?」
「うん」
「あした、教えてもらいに行く。続き、知ってる人が、いるかもしれない」
妹は、それだけ言って、目を閉じた。決めた者の、閉じ方だった。誰の許しも、求めていなかった。
「鈴」
部屋の外の暗がりから、低い声がした。縹だった。男たちの区画へ行く前に、寄ったらしい。鈴は、戸口の筵を上げた。見えない目が、灯りのない廊下で、ちょうど、鈴のいるあたりを向いていた。
「旗には、なるな」縹は言った。「だが、客にも、なるな。……難しいことを言っている自覚は、ある」
「どうしろっていうの」
「分からん」縹は、正直だった。「ただ、半年前、お前は、どちらでもないものに、なった。象徴でも、薪でもないものに。だから、ここでも、なれる。三つ目の名前を、また、見つければいい」
それだけ言って、足音が、遠ざかった。読めない目の男の足音は、半年前より、ずっと、迷いがなかった。
小夜の寝息が、揃った。
鈴は、暗い天井の根を、見上げた。土のあたたかさが、筵ごしに、背中へ、ゆっくり染みてくる。地の底は、雪の郷より、あたたかかった。それが、なんだか、悔しいような、ありがたいような、夜だった。
砦の中に、客はいない。弦次の言葉が、根の影と、重なった。ここでも、鈴は、ただの鈴ではいられない。灰郷では神様にされ、ここでは旗にされかける。読まれる世界は終わったのに、定められる世界は、終わっていなかった。鏡がなくても、人は、人を、勝手に決める。
それでも。
土の大広間の、灯の色を、思った。蕗の書いた、曲がった字を。汐音の、引かない声を。粥の湯気と、機織りの音を。あれは、半年前、鈴が名づけた火の、育った姿だった。誰の旗でもなく、めいめいの色で、地の底に、灯っていた。
守りたいものの形が、また、ひとつ、増えた。
増えるたび、世界は重くなる。重くなった分だけ、右手の糸が、暗がりで、静かに、光る気がした。数えなかった。数えれば、明日の自分が、臆病になる。狩人は、獲物の前で、矢の残りを、数えない。
鈴は、暗い天井の根を、見上げた。
灰郷では神様にされ、ここでは旗にされかける。読まれる世界は終わったのに、定められる世界は、終わっていなかった。場所が、変わっただけだった。山の上の郷から、地の底の砦へ。鏡から、評議へ。鈴を、ただの鈴にしておいてくれない力だけは、どこへ行っても、形を変えて、待っていた。狩人は、土の色になって、見られないように生きる術を、知っている。けれど、土の色になっても、もう、隠れられなかった。半年前、自分で、自分を、八洲じゅうに、灯してしまったから。
地の底の夜は、雪も降らず、ただ、根の軋む音だけが、していた。




