第9話 だから見ててください。切札の、変身!
――そんなわけで、かくかくしかじか。
「お、お兄……ばかっ……!
ほんとに、怖かったんだから……っ!」
ぽんぽん、と千影が胸を叩く。
主良はひたすら謝ることにした。
「ごめん、千影。何も知らない状態でアナエルを見たら、きっと誤解されるんじゃないかと思って……!」
「アナエルって……本気なの、お兄?」
千影はジト目をして、
目の前にいる主良とアナエルを交互に見る。
「カードの精霊美少女が実体化した、なんて……pixivに山ほど投稿されてるような、キモオタがシコるためのご都合主義の妄想みたいなこと言って……」
千影の物言いはどこかで聞いたことがあった。
「(あ、そうか……)」
主良の友人、法人の言動を思い出す。
「……千影、まさかそういうの見てるのか?
俺たちは未成年なんだぞ?」
「い、一般論の話だよぅ……ふひひ」
くねくねと身体をよじって誤魔化す千影。
義理の兄として、その辺は追求しておきたいが――
こっちにも負い目があるし、深追いはしないでおこう。
ずい、とアナエルが前に出る。
「肯定します、マスターの言動を。
切札は正真正銘のアナエル。
この世界に来ました、マスターと共に戦うために」
千影は「……そう」と呟き、主良に問いかける。
「お兄。……ひげ、剃った?」
「女子高生拾った?みたいに言うんじゃねえよ」
うぅ、と千影はべそをかく。
「だって、今の状況って……お兄が全身ラバースーツ好きのヤバい性癖を外人の彼女に押し付けてるようにしか見えないよぉ……!」
――くっ!
反論したいが、千影の言動は正しい。
主良本人はアナエルがカードから実体化するところを見ているものの――傍から見たら、アナエルはただ服装がおかしいだけの美少女にしか見えないのは確かだ。
「アナエル。なにか、証明する方法はないかな?
君が普通の人間じゃないっていう……」
「肯定します。
可能です、証明は」
あっさりとアナエルが答えたので、
主良は不意を突かれる。
「えっ、いけるの?」
「肯定します。
泥船に乗ってください、マスター」
アナエルは千影に向かって、言う。
「見ててください、マスターの妹」
「ふえっ……わ、私?」
何をするつもりなのか――
と、主良が訝る暇もなく。
アナエルは自身の身体に手を向ける。
「元素潮流、開始――」
次の瞬間。
シルバー色のサイバースーツが、まるで紐のようにほどけた。
裂けたわけでもなければ、脱いだわけでもない。
白銀の装いは微細な光の粒子となって宙に浮かぶ。
粒子と粒子の隙間から覗くのは、アナエルの生まれたままの姿。
「うそ、だろ……!?」」
「ふえぇ……っ!」
主良と千影は、目の前の光景に息を呑んだ。
光の粒子は幾何学的な模様を描きながら、その色を変えていく。
赤、青、緑、黄、白、黒――
この六色には、見覚えがある。
いつもカードの裏面に描かれている六色。
火、水、風、地、光、闇――
スピリット・キャスターズを象徴する六大元素と同じ。
粒子は互いに絡み合うようにして、再び組み上がっていく。
今度は全く異なる設計図に従うかのように。
「再錬成――完了」。
アナエルの声と同時に、光が収束する。
現れたのは――見覚えのある色と形だった。
落ち着いた黒を基調としたロングスカート。
露出を抑えた端正な上衣。
どこか教会のシスターを思わせるような厳粛さと清楚さ。
「……それ、って」と、千影の声が震える。
アナエルの全身を包んでいたのは、
千影と同じ、
聖ハイリース学園高等部の制服だった。
アナエルは表情を変えないまま答える。
「肯定します、妹。ファイロ・ゲノミクスからダウンロードした文化的様式と、妹の外見から取得した視覚情報をベースに、切札の錬金武装を再錬成しました」
銀色のツインテールを揺らし、
蒼いサファイヤの瞳が千影をまっすぐ見据えた。
「理解できましたか?
コスプレではないことを。
理解できましたか?
切札が――変態では、ないことを」
千影はぶんぶん、と首を縦に振る。
そのやり取りをみて、主良は吹き出すのをこらえていた。
「(アナエル……変態コスプレ女って言われてたの、気にしてたんだな……!)」




