第8話 ゾク こわーい間取り
「お、お兄ぃ……今の、なにぃ……?」
主良の袖をつかんで、ガタガタと震える千影。
そうだ、と主良は思い出す。
「(ちーは昔から怖いものが苦手だったな)」
千影には悪いことをするが――
ここは、誤魔化すしかないっ!
「千影、実はな……
このマンションは変な家だったんだよ」
「そうなのぉ……?
えっ、っていうか変な家ってなにぃ……?」
「変な家は変な家だよ。ごく普通の一般名詞だろ? 俺も一人暮らしをするようになってから、気づいたんだ。よく見たら間取りも恐い感じがするしな……ゾクッとするし……事故物件ではないと思うけど……ラップ音?って言うのかな。たまに、部屋のどこかから音がするんだ……」
「ひいっ!」
よし、何とかオバケのせいにして誤魔化すことができた。
このまま口八丁で、部屋から遠ざけてしまおう。
「この音がするのは俺の部屋だけなんだ。
だから、千影も一旦、リビングに戻ろう?」
半べそをかきながら、千影が顔を上げる。
「……ほんとに? お兄の部屋だけ?
私の部屋は、大丈夫ぅ……?」
「きっと大丈夫……だと、思う」
ドンッ!
再び、音が響く。
「うわああん……っ! こ、怖いよぉ……!
お兄、助けてぇ……!」
「(アナエルの奴……!)」
どうやら、大分ご立腹らしい。
――気持ちは、わかるけども。
よほど千影の発言が腹に据えかねたようだ。
ここは、アナエルの機嫌を取ってやらないとっ!
主良は神妙な顔を作る。
「なぁ、千影。
実はこの部屋には必勝法があるんだよ」
「必勝法……?」
「変な音が出なくなる方法、
と言ってもいいかな……」
めちゃくちゃなことを言っているのはわかってる。
それでも――
多少、強引なロジックだが、通すしかない!
主良はコホン、と咳払いをして言った。
「つまり――アナエルを褒めればいい」
ぽかん――と千影は口を真ん丸に開ける。
「アナエルを、褒めるぅ……?
なんでぇ……? もう紙クズなのにぃ……?」
「あっ、お馬鹿っ!」
ドンドンドンドン――ッ!
「ひゃあああああっっっ!」
「千影、よく考えるんだ。
アナエルにも良いところはあるだろ!?」
「良いとこ……? えぇ……?」
千影はうんうん、と頭をひねった。
「あ、イラストアドとか……?
佐武メフィ先生のイラストは、
通常版もシク版も両方とも最高だと、思う……」
――どうだっ?
主良は押し入れの方を見る。
…………どんっ。
「いいぞ、音が小さくなったみたいだ」
「まだ、ダメなのぅ……?」
「そうだなぁ。
イラストよりも、性能を褒めてほしいんじゃないか?」
「無理でしょ。褒めるとこないし……」
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
「ふぇぇ、嘘です嘘です……!
使い道は、ありますぅ……!」
「えっ、あるのか?」と思わず主良は口を挟んだ。
主良の問いに、千影はおずおずと答える。
「あくまで、リミ1前提だけど。
全然、環境レベルではないけど……
役割は一応、主張できると思う、よ。
サーチとコスト軽減だけじゃなくて、
インクの染みだった第三の効果。
錬成素材代用効果も使う、なら……」
錬成素材代用効果――
それは、昨夜のことになるが――主良とアナエルがストレージのカードとにらめっこして、たどり着いた結論と同じものだった。
「やはり――
【神造】よりも、使うとしたらそっちか」
千影は主良にとってカードゲームの師匠のような存在だった。
カードゲーム歴は千影の方が遥かに長く、
ちょくちょく大型大会での入賞歴もある。
口と性格は悪いものの――
カードゲームにおける千影の批評眼は信頼できるはず。
「そうだ。せっかく、ちーがいてくれるなら……
デッキビルドも、手伝ってもらうか?」
そう呟くと、千影の頬が赤く染まる。
「お兄……いま。ちー、って……」
「あっ! 今のは何でもなくて……!」
不意に、小さい頃の呼び方が出てしまった。
「(は、恥ずっ!)」
急に、ほっこりした雰囲気になったところで――
青天の霹靂。
ガラリ――ッ!と押し入れが開かれる。
「……ふぇっ?」
千影がびくっと肩を跳ねさせる。
訝しげに視線を向けた、その先に――
現れたのは、人影。
銀色の長いツインテールが、押し入れの暗がりから零れ落ちる。
続いて目に入るのは、白銀の光沢を放つ、異様なほど身体のラインに密着した装い。
全身を包むのは、布というより装甲に近い、近未来的なサイバースーツだった。
ぴったりとしたスーツの下から存在を主張するのは、小さな頭くらいの大きさを誇る二対の双丘。
継ぎ目のない滑らかな質感が、肩から曲線を描く腰回り、細く伸びた脚へと流れるようにつながり、無駄のないフォルムが人間離れした存在感を醸し出している。
カードから抜け出した、精霊の少女。
そんな存在が押し入れから、一歩踏み出してきた。
「肯定します、マスターの判断を。
参加してもらいましょう、妹にも――
切札を活かすための、新デッキ構築にッ!」
あわあわと震える千影は、なんとか一言だけ絞り出す。
「へ……変態コスプレ女……っ!!!!」




