第7話 (威嚇するようにしてカードをはじく音)
「(始まってしまった……)」
主良は心の中でため息をつく。
才色兼備の自慢の義妹である千影には、誰から見ても明らかな欠点が存在している。
普段はおどおどした様子で可愛らしい千影であるが、カードゲームのことになると急に態度と性格が悪くなり、口汚い語彙と意地の悪い思考で罵倒を繰り返すようになるのだ。
聖ハイリース学園での寮生活で、
そのあたりは改善したものと思ってたのだが……。
光と影、二つの心を持つ少女。
主良はこっちのちかげのことを闇千影と呼んでいる。
そういった性質も、
カードゲームではよくあること、かもしれないが……。
「千影。あの、まだやってるのか?
威嚇するようにカードをはじく……」
ちっ、と千影は舌打ちで答える。
「シャカパチはカードゲームの文化だもの。別に他人に迷惑をかけてるわけじゃないし、お兄になにか言われるようなことじゃなくない? 私だって、止めろって面と向かって言われたら止めるようにしてるし。まぁ、お兄と違って、ネットでしかイキれないチーにはそんな度胸無いかもしれないけどw そもそも、ハンドシャッフルはランハンで抜かれづらくなるっていう戦術的メリットがちゃんとあるんだし、むしろシャカパチ止めろって言ってるオタクで強いヤツ見たこと無いよ。競技やってないカジュアル勢のカスが大半でしょ。ああ、なんか最近は新興TCG出してる会社が、シャカパチは止めましょうとか偉そうに言ってるけどさァ……ちょっと既存の人気IPを持ち込んで紙を刷ってコピペカード量産して小遣い稼ぎしようってくらいの志が低い新参者の分際で、歴史ある先人の文化にケチをつけるとか、普通に考えてありえないと思うんだよね……」
「早口すご」
闇千影のスピードは通常の千影の3倍である。
――さて。
アナエルが押し入れに隠れてくれたことで、
ひとまず千影にはバレずに済んだのだけど。
主良は千影の指先にある、アナエルのカードを見つめた。
「ゴミ、ってのは流石に言い過ぎじゃないか?」
千影の言っていることは正しいかもしれない。
だが、すぐそこで……
ふすま一つを隔てた先にアナエル本人がいるのだ。
どうしても、反抗心が芽生えてしまう。
「リミテッド・ワンになっても、
まだ使いどころはあると思うけどな」
「無いでしょ。3つあるテキストのほとんどが【神造】専用だから汎用性はゼロの中で、じゃあ【神造】で採用するかって言ったら、そもそも【神造】のコンセプト自体がコンストラクト戦術っていう現代スピキャスでは問題外の悠長な動きで、環境のスピードについていけてないのを、アナエルみたいなコスト論が崩壊したぶっ壊れを投入することで無理やり高速コンボデッキに仕立てることでテーマ強化って言い張ってただけだし……」
「アナエル自体はレコンキスタとドラコニアの二種のサーチに対応してるんだし、リミテッド・ワンの状態でも手札に入れること自体は出来るじゃないか……!」
「で、入れてどうすんの? アナエルの壊れてるとこって、アナエルがアナエルを引っ張ってくるから事実上除去が効かないとこと、重ねることでコスト軽減が重複して0コストで運用できるとこにあったわけじゃん。ピン刺しだったらコストは普通に払わなきゃいけないし、1ターンで殺しにいけるような展開力が【神造】に無い以上は、返しのターンで除去されたら終わりでしょ?」
「うっ……! そ、それは」
「ドラコニアで引っ張れるのはハダリーだって同じだし。リミ1の枠を消費してまで汎用性の高いハダリーよりアナエルを優先する理由は無し。採用する価値ゼロ。そもそも環境的には【神造】自体がTier外の終わコン。実質的に禁止みたいなもんだよね。まぁ無くていいでしょ、こんなクソカード。ふひひ……!」
ドンッ!――と、大きな音がした。
「うわっ!」
「ふ、ふえぇ!?」
千影は一瞬で闇千影から表千影に戻り、
主良に抱きつく。
音の出処は、たぶん――押し入れだ。
今のはもしかして……壁ドン?
「(まずい……アナエルが、怒ってる!)」




