第55話 基本に帰れ! 作中カードゲーム解説(前編)
☆☆☆
聖ハイリース学園。
そこは、淑女たちが学問を学ぶ乙女の花園。
鳥がささやき、花が咲きほこるハイリースの中庭にて――
「千影さん。私にスピキャスを教えてちょうだい」
「ふぇ……ふぇっ!?」
乙女の花園には似つかわしくない会話が幕を上げる。
中庭に鎮座する、白作りの東屋の下で、
高貴なたたずまいを見せる黒髪の乙女――
神米花流光は、
スピリットキャスターズNEXTのスターターを取り出した。
唐突な申し出に、千影は困惑する。
「な、な、なんで……花流光さんが、
よりにもよって、スピキャスなんかに興味を持ったの?」
「だって。今更だけど……千影さんは、いつもカードゲームの話ばかりするのに……私ったら、ルールも何も、よくわかっていなかったんですもの」
「ご、ごめんなさい……」
「謝ることはないのよ。これまでも、ね――千影さんが楽しそうにしていたから、私にもそのことが伝わっていたから、私は良しとしていたの。そう――良しとしていたことが、私の怠慢よ。理に適っていない。私は、あなたのフェアトゥラング・エンゲルとして……もっと、お互いを理解し合う必要があるわ」
フェアトゥラング・エンゲル――
日本語に訳すと、代行天使。
聖ハイリース学園では、同級生の女子二人がフェアトゥラング・エンゲルとなってペアを組む制度が存在する。
代行天使となった二人は、学問は元より、その私生活においても互いを支え合うことになるのだ。
「で、でも……私、あんまり初心者へのインストとか慣れてないし……」
「……そう。無理を言ってごめんなさい。そうよね、まずは独学が理に適っているのかも――次の外出日にでも、行ってみようかしら。カードショップとやらに」
「ダダダダダダダメッッッ!!!」
千影は反射的に椅子から立ち上がり、絶叫する。
「ち、千影さん?」
「花流光さんみたいに可愛い女の子が、一人でカードショップに行ったりしたら……あっという間に、チーに囲まれちゃって、ゲームどころじゃないからッ! 無防備を通り越して、それは無謀ッ! ノミの勇気と同じッ!」
「チ、チー?(麻雀の話かしら)」
「スピキャスなら、私が教えたげるから……!
だから、勝手にカドショなんかに行かないでッ!」
「千影さん、言葉遣いが乱れているわよ。
教えたげる、ではなく、教えてあげる、ね?」
「あっ……うん」
「それと、ありがとう。やっぱり、千影さんは優しい子ね。フェアトゥラング・エンゲルとしての、私の誇りよ」
「ふへへ……そんな、花流光さんったら。
いつも、お世辞がうまいんだからぁ」
「本心なのに……」
そういうわけで、慣れないインスト(※)が始まったのだった。
※【インスト】
インストラクションのこと。
ボードゲーム用語では、
ゲームのルールを教えて遊べる状態にすることを指す。
まず、スピリットキャスターズNEXTについて――
このゲームは二人用のトレーティング・カードゲームの一種である。
プレイヤーはまず、最低40枚以上のメインカードで構成されたメインデッキと、15枚ちょうどのエナジーカードで構成されたエナジーデッキを用意する。
「このスターターデッキのことね。40枚のデッキと、15枚のデッキが入っているわ。さっそくだけど、なぜデッキが二つあるのかしら?」
「メインカードは、主にゲーム中にプレイするカード。エナジーカードは、カードのコスト支払いに必要となる、エナジーとして使用するの……。デッキを分けてる意図は……開発ノートによると、二種類のカードが一緒のデッキになってると、エナジーが引けなくてコストが足りなくなったり、逆にエナジーばっかり引いてカードが使えなくなったりするから……なんだって」
「理解したわ。そう考えると、理に適っているわね。ところで、メインデッキが最低40枚、ということは……上限は何枚でもいいのかしら?」
「やろうと思えば、200枚でも300枚でもいいよ。もっとも、同じ名前のカードはデッキに4枚までしか入れられないし、デッキの枚数を増やせば増やすほど引きたいカードを引ける確率は下がっていくから、そんな枚数のデッキは【ハノイ】ぐらいだと思うけど……」
「【ハノイ】って?」
「古典的なパズルに『ハノイの塔』ってあるでしょ。三つの塔に穴の開いた円盤が重なっていて、一定のルールで円盤を動かしていくパズル……【ハノイ】はデッキを40枚ごとに分けることでそれぞれを”塔”として扱い、デッキの一番上にあるカードのコストをパズルにおける円盤の大きさに対応させて『ハノイの塔』を再現するデッキなの……『ハノイの塔』では円盤が移り終わった塔が出来た瞬間に宇宙が終焉するけど、そこでLOを特殊勝利に反転させてるわけ。スピキャスの原作では「反円卓の騎士」の一人であるスライが使うデッキだったんだけど、塔を増やせば増やすほどパズルが解けるスピードが早まっていって」
「ちょ、ちょっと。千影さん。急に、早口にならないでちょうだい。いきなり、そんなに細かいことを言われてもわからないわ」
「あっ……や、やっちゃった」
千影は肩を落として、うつむく。
「こういうインストって、まずは基本的なルールを教えるのに集中して、例外的な処理は後で伝えた方がいいんだよね……でも、オタクってどうしても例外が大好きだから……サイクル・カードのコストが後のカードでは全部6で統一されてるのに、最初の一枚目だけサイクル化することを考慮してなかったので5になってたりするやつとかさ……」
「よくわからないけど、千影さんは頑張ってるわよ。気を落とさないで。あと、反省してる風でいて、また細かいことをつついてるみたいだわ」
「ふぇ……と、とにかくっ! 特に理由がないなら、初心者の場合はメインデッキは40枚にしとくのが板ッ!」
「板……?」
「あ……丸いってことね」
「丸い……?
ど、どういうことなの……?」
次回は――メインカードのタイプについて解説ッ!




