第46話 心強い味方……!?
「お兄もお兄でホイホイと無責任に精霊と契約しすぎだし大前提として何で怪盗ナラクが女になってんだよ初期のスピキャスだからまだ萌え豚オタクに汚染される前の硬派で絵画調のイラストだったはずじゃんナラクって言えばさ闇エナジーの代表的スピリットでしょ背景ストーリーでもシャドウなんだから性別とかないだろ一人称はボクだったんだからどっちかっていうと強いて言えば男なんじゃないの(チッ)あーっムカムカするそもそもの話をすれば私は以前からこの手の安易な美少女擬人化のハイレアリティカードとか気に入らないんだよねカードゲームではよくあることだけど私は古いタイプのカードゲーマーだからこういうのは飲み込めないっていうか擬人化するなら擬人化するでもう少し上品さというか節度を保ってほしいというか黙って見てれば年上でボクっ娘で敬語口調のポンコツくそチョロ成人女性って属性があざとすぎるんだよ胸は無いけどああいうスレンダー体型のボディスーツってあれはあれで需要ありそう生意気にもほっそりとした身体つきに反してお尻は大きそうだしアナエルさん見るかぎりだとお兄ってぴちスー性癖ありそうだからそれに合わせてそうなのが腹立つ絶対腹黒でしょ闇属性なだけに(チッ)もうっアナエルさんが戻ってきたら絶対あること無いこと含めて言いつけてやるんだから……ッ!」
なんかすごい早口で千影がブツブツ言っている……。
「千影……何かあったのか?
あと、ぴちスー性癖ってなんだ?」
「なんでもない……。
お兄と鹿の子……さん?
が、変態ってだけ……っ!」
ジト目でにらむ千影。
変態呼ばわりされたことで、主良は慌てて否定する。
「前にあったときの鹿の子さんは、
こんな格好じゃなかったんだよ!」
以前に会ったときの鹿の子は、名探偵を名乗るだけあって落ち着いた色合いのコート姿だった――しかし、言われてみると――今の鹿の子はワインレッドのマントを羽織った下に、マットな色合いのぴっちりとした黒のボディスーツをまとっている。
「ぴっちりとしたスーツ……
なるほど、それでぴちスーか」
「ボクのこの服装は、潜入用のスニーキングスーツです。言っておきますが、実用性しかありませんよっ! あと、ちょろくもないし、お尻も大きくないです!」
お尻が、大きくない……?
思わず、鹿の子さんの下半身を見そうになり――
強烈な自我をもって自省した。
「(なんだか、話の流れが良くないぞ……!)」
白色の手袋を着けた手で、
鹿の子はなだらかな曲線を描く胸元を触った。
「おっぱいは……アナエルや主良くんの妹に比べたら、その、あまり……大きくないかもですけど。した方がいいかな、豊胸マッサージとか……」
――まずい。
ここから先はコンプライアンス違反となるっ!
「STOPだ、鹿の子さん!」
鹿の子さんが生きていたのは20年前――
それはまだ、平成の文化が息づいていた時代。
「昔のラブコメでは、貧乳いじりや巨乳ねたみはあいさつ代わりのジャブみたいなもの――鉄板の王道だったのかもしれないが、現代のラブコメでは存在自体が忌避されている。他人の身体的特徴をみだりにいじるようなカードはリミテッド・ゼロだ。それぞれの個性を尊重する時代――現代に生きるのなら、今のコンプライアンスを遵守してくれッ!」
「そうなんですかっ!? それは、ボクみたいなタイプにも優しい……良い時代になったものですねっ!」
「お兄、自分がラブコメ環境にいるのは認めるんだ……っていうか、巨乳有利なら私も平成に行きたかったかも……」
そもそもの話、よくよく考えてみたら。
「千影の言うとおり、カードとしてのナラクには、特に人間としての姿とかは設定されてないはずだよな。鹿の子さんの今の姿って、どこから来たんだ?」
「さぁ……ボクが《アナグラ・ミミック》で《”死の怪盗”ナラク》をアルファベットに変換してから文字を入れ替えて作った名前が「春井夏 鹿の子」なので……どこかに、そういう人がいるんじゃないでしょうか」
それだと、鹿の子さんが鹿の子さんとして活動すると、どこかに実在する本物の鹿の子さんに迷惑がかかりそうな気もするが――。
「まぁ、それについては後で考えるか……」
今はとにかく、アナエルを救出することを考えよう。
精霊のカードという手札は揃った。
それも、怪盗ナラク――
カードを奪還するにはこの上ない味方である。
「鹿の子さんの力を借りて、アナエルを取り返すぞ!」
「お兄、それなんだけど……本当に、その精霊で大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。鹿の子さん――ナラクを使ったデッキは、楠江のデッキとは相性抜群だ。領域を絡めれば、一撃で詰ませることが出来る秘策もある」
「いや、それは私も想像つくっていうか……例の関係者用カードを逆に利用した、アレでしょ? たぶん、あの子も想定してなさそうな穴だし、良い意趣返しになりそうだけど……私が言っているのは、カード性能の話じゃなくて」
ピタリ――と、背中に当たる冷たい感触があった。
胸を包むように回される腕と、圧迫感。
背後からは吐息の気配を感じる。
「鹿の子、さん……?」
気配の主に顔を向けると、さらさらとした黒髪が目に入ると共に……一本一本の髪が揺れて、まるで食虫花の如くに人を引き寄せる、かぐわしい香りが漂ってきた。
ナラクとしての実体が溢れたのか、形を持った影の触覚である漆黒の触手が、じわじわと足元から這い出てくる。
「はぁ、はぁ……ボクの、マスター……これ、ボクのだから。もう、絶対に離さない……逃がさないから……ボクだけのマスター……ひ、ひひひ……ボクの……主良くん、主良くん……っ!」
本能的に危機感を感じて、身体が硬直した。
「し、鹿の子さん?
ちょっと、動けないんだけど……」
「あっ……! ボク、ちょっと、自我を失ってました!」
自我を失わないでほしい。
「頼む、自分を強く持ってくれ――!」
「は、はいぃっ!」
ため息をついて、千影が問いかける。
「本当に、この人で大丈夫ぅ?」
ダメかもしれない。
……ダメじゃないかもしれない。
「……鹿の子さんは、泥棒だけど良い人だし……」
「泥棒に良い人なんていないよぉ……!」
もしかしたら――
とんでもない精霊と、契約してしまったのかも。




