第44話 リベンジ・チャンス!
楠江とイースが去ってから――
すっかり、元通りの日常が戻ってきた。
連休が終われば、千影は寮に帰ることになる。
それまではゆっくりするとのことだった。
「お兄、お腹すいた……。
ご飯作って~」
「ったく、仕方ないな」
千影は相変わらず甘えん坊で。
苦笑しながらも主良はご飯の支度をする。
主良はリビングの冷蔵庫を開けた。
「そういえば、一昨日の残りのビーフシチューが……」
そう、
言いかけて、
兄妹のあいだの空気が凍る。
★★★
「おかえりなさい、マスター。
ご飯にする?
お風呂にする?
それともデ・ッ・キ・ビ・ル・ド?」
★★★
「……シチューは、夕飯でも間に合うよな。
冷凍してたし。
どこかに食べにいくか?」
「ううん。食べるよ、シチュー。
アナエルさんが……作ってくれたやつ」
意識して、話題に出さないようにしていた。
千影との共通言語である、カードゲームのことも。
カードの精霊と過ごした不思議な時間。
それが失われたことを、直視しないようにしていたのだ。
「――お兄。あれは、お兄の負けじゃないからね」
「いいや、俺の負けだよ」
何度も、何度も棋譜を反芻した。
敗因はイースのカード効果を理解していなかった点にある。
「俺がプレイミスで《貯蔵の書》を不発にしてしまったんだ。そのせいでパノプティコン・レオの着地が1ターン遅れた――あれが無ければ、アナエルを失うことも無かった。きっと、千影の元にシケイダを取り返すことだって」
「プレミじゃないって! ターンを終了させる、なんて――スピキャスには本来は存在しない効果処理だもの。それがどういう処理になるかって、アイツのさじ加減次第でしょ。だいたい、あのガキしか使えない関係者用カードなんてチートも良いとこだし……反則も反則。サマ師みたいなもんでしょ、あのクソガキ。それに、イースはまだしも――二枚目の関係者用カードなんて、使い方次第では撃っただけで勝てるようなぶっ壊れのインチキカードだし。だから、お兄は悪くないよ……!」
言葉遣いこそ、早口で刺々しいが――
千影なりに、慰めてくれてることは感じた。
「ありがとう。兄貴のくせに、ダサいとこ見せちゃったな」
「ううん。お兄はカッコいいよ。……安心して、お兄。あのガキの所業、細部はボカした上で実名を晒してSNSに書き込んで、会社ごと炎上させてやるからっ!」
「それはやめてくれ」
精霊がどうのって話は絶対に信じてもらえないだろうし、下手なことを拡散したら罪園CPに訴訟されそうだ。
温め直したシチューを食べながら、千影は言う。
「はふはふっ。だいたい、あんなの初見殺しでしかないんだから……。もう一度挑めば、いくらでもやりようはあるよ。チートカードで補強しようが、そもそものコンセプトが環境外デッキの【波浪遊宙部】なんだし……!」
「まぁ――それをさせないための特殊構築レギュレーションと、BO1の一回勝負っていうルールだったんだろうな。今思えば、その時点で俺は楠江のペースにハメられてたんだ。まるで四角い型にハメられた食パンみたいにな」
「……お兄、あの子の口癖が伝染ってる」
楠江の精霊であるイース。
コスト99である以上、通常の召喚は不可能であり、《波浪遊宙部プロジェクト》の効果で出すしかない――精霊のカードをデッキに含む特殊構築レギュレーションの場合、必然的にイースのマスターである楠江が使うデッキは【波浪遊宙部】となる。
もし、再戦があれば――か。
★★★
「安心してください、マスター。精霊同士のバトルには強制力が働きます――きっと、その作用を利用してアンティデュエルは行われるものかと」
★★★
主良はアナエルが言っていたことを思い出した。
「精霊同士のバトルには強制力が働く。つまり、こっちに精霊のカードがあれば……もう一度、アンティデュエルを仕掛けることが出来るのか?」
精霊のカードがあれば。
主良はリビングの椅子から立ち上がる。
「……千影、小遣いって余ってるか!?」
「え、うんっ。先週はオリパで散財したけど、バイトの分があるから……」
「バイト? 待て、俺は聞いてないぞ」
「あっ。ふぇ、そ、それはなんでもなくて。そんなことよりも、お金が欲しいの、お兄? ちょっとなら貸せるけど……」
「頼む。ご飯を食べたらカードショップに行こう」
精霊が宿るカード――
1枚だけ、主良には心当たりがあった。
「初期カードの美品だから、値が張るだろうけど――背に腹は代えられない。売れる前に、早く買いに行かないと!」




