第42話 絶望のアンティデュエル! 脅威の時間停止スピリット!(前編)
アンティデュエル、主良vs楠江――
先攻をもらったのは、主良だ。
「《跳躍の書》をプレイします。
デッキから地のビブリオを二枚まで選択します」
「あら、【ビブリオマン】を使うんですのね。精霊のカードを使う特殊構築レギュレーション――てっきり、主良さまの精霊であるアナエルを主軸にしたデッキを使うものだとばかり思ってましたけれど」
「…………っ!」
「まぁ――レギュレーションを守っているのでしたら、どんなデッキを使おうが主良さまの自由ですわ。パンがなければブリオッシュを食べればいいようにね」
――本当なら、【神造野災】を使いたかった。
【神造野災】は現環境でアナエルを最大限に活かすために組んだ、主良にとって最優のデッキである。ただし、デッキパワーにおいては最強のデッキとは言えない。
「(このバトルは、遊びじゃない……!)」
隣に立つアナエルの様子をうかがう。
その表情はいつも通りの無表情――
主良の抱く罪悪感が、
そこから寂しさを読み取ってしまった。
「アナエル、ごめん……」
「切札はマスターの判断を信頼します。
ちーとも相談していました、マスターは。
そこに間違いがあるとは思いません」
千影も精一杯にフォローする。
「そうだよ、お兄。現環境での最強デッキは、私が知るかぎりでは【シケイダループ】――でも、リミテッド・ワンのシケイダをキーカードにしてる以上、アナエルさんを使用する縛りがある今回のレギュレーションでは【シケイダループ】は使えない。だとしたらデッキパワーが高く、リミテッド・ワンに依存しない【ビブリオマン】は選択としては最も丸いはずだし。それに、アナエルさんにも全く役割がないわけじゃないから」
「ああ……そうだよな。
おっと、《跳躍の書》の処理を継続します」
主良がサーチしたのは《太陽の書》と《王者の書》。
そして、《跳躍の書》の手札コストとして――
「俺は手札から無色のカードを墓地に送る。
墓地に送るのは、
《次世代神造姫アナエル》だ……!」
【ビブリオマン】デッキはその性質上、手札コストとして一定枚数の無色カードをデッキに入れておく必要がある。【神造】テーマのカードを手札コスト枠として採用することで、《神造核》の隠された効果である「場以外から墓地に送られたとき、墓地から【神造】と名のつくスピリット・カードを2枚まで手札に加える」効果を活用できる。
【神造】テーマに属するスピリット・カードは《神造人間ザイオンX》《次世代神造姫アナエル》の二種類――アナエルは5枚目のザイオンXとして扱うことができる、という意味では採用することにインセンティブがある。
実際、温泉デュエルの調整時にも【ビブリオマン】はアナエルを活用できる環境デッキとして候補に挙がったことがあった。
最終的に【ビブリオマン】ではなく【野災】を選んだ理由は――
「(【ビブリオマン】の手札コスト枠は必ずしも【神造】である必要はない、という点と……アナエルを手札コストにしか使わないデッキを、果たしてアナエルのデッキと呼んでいいのかという葛藤があったからだ)」
本当なら、もっと楽しいスピキャスをしたかった。
それなのに今の自分はアナエルを賭けの道具にしている。
罪悪感を振り切るように――
主良はターンエンドを宣言した。
キィ、と楠江は車椅子の肘掛けに手を置く。
「わたくしのターン。ターンが開始したことで《プロジェクト・マーズ【生存報告☆生きてるだけで優勝です】》の効果を発動します。遺伝子登録者数トークンを1億人、加算しますわ」
「……《波浪遊宙部プロジェクト》のミッション効果だな」
《波浪遊宙部プロジェクト》はゲーム開始時にデッキからスピリットを1枚選んで場に置くことで封印する。
そして太陽系の惑星を模した8種類のミッションをゲーム中にクリアしていくことで遺伝者登録者数トークンを稼いでいき――登録者数が70憶人を突破した時点で封印されしスピリットを解き放ち、コストを無視して場に踏み倒し召喚する効果を持つ。
背景ストーリーにおける「遺伝子アーカイブの登録者数を増やしてデータを充実させることで、太古の旧き神を復活させる」という波浪計画の流れをゲーム的に再現したものであり――踏み倒し召喚されるスピリットがゲームエンド級の怪物であることを考慮すれば、「スピリットキャスターズの勝利条件をミッション達成へと変更するカード」と解釈することも可能だ。
「プロジェクト・マーズはターンを経過するごとに1億人ずつ登録者数を増やしていく――だけど、それだけじゃ登録者70億人を目指すのは難しい。そして《波浪遊宙部プロジェクト》にはターン終了時のエンド・シークエンスごとに対戦相手に追加ドローを許すデメリット効果があるッ!」
《波浪遊宙部プロジェクト》のデメリット効果は存分に活用させてもらう――!
「俺の【ビブリオマン】は手札を稼ぐごとに強力なスピリットを召喚できるデッキだからね。追加ドローはありがたいよ」
「うふふ。それは、わたくしのエンド・シークエンスが来たら、の話でしょう?」
「何だって……?」
「いきますわよ。
わたくしは、イースの効果を発動――!」
楠江がカード効果の発動を宣言する。
カチン、カチン、カチン。
カチン、カチン、カチン。
――ピタリ。
規則的に時間を刻んでいた、時計の針が静止した。
心臓の音、
衣擦れ、
互いの息遣い。
あらゆる音が止まり――静寂が支配する。
息を吸うことも、吐くことも許されない無。
永劫とも感じられる無音。
「(なんだ、この効果は……!?)」
そして、時は動き出す。
「――さぁ。
主良さまのターンですわよ」
「…………はっ!?」
気づくと、楠江のターンは終了していた。
一体、何が起きたのか。
数瞬の後、主良は理解へと至る。
「まさか――これが、イースの効果なのか!?」
★★★
0:ターンを終了する。この能力はこのカードが場にあり、かつ、自分のターンでしか起動することが出来ない。
★★★
「強制的なターン終了効果――ッ! 時間を吹き飛ばすことで、エンド・シークエンスごと《波浪遊宙部プロジェクト》のデメリット効果を踏み倒したッ!?」
だが、今のイースはスピリットではない。《波浪遊宙部プロジェクト》の効果により、スピリットではないオブジェクトとして場に置かれてるだけの存在のはず。
「なのに、どうしてイースは効果を起動できるんだよ!?」
アナエルも首を横に振る。
「理解できません。スピリットであるときにしか使用できないはずです、スピリットのカード効果は」
いいや――と、千影は補足する。
「あのカードのテキスト、だけど……”このカードが場にあり”って書いてあったよね。普通、ああいうカードは”このスピリットが場にあり”って書かれてることが多い……っていうか、既存のカードの場合はそういう書式しかないはず。イースは関係者用カードだから、公式の裁定は出てないけど……”このカード”指定の場合は、オブジェクトとして置かれてても効果を使える裁定なのかも……というより、クソマンチなやり口だけど……《波浪遊宙部プロジェクト》とのデザイナーズコンボとして、リチャード・カズキングダムがテキストの書式を創作した可能性がある、かも……!」




