第41話 開発者特権
「《『銀色の瞳』時空観測隊員イース》……
存在しないカードだって!?」
主良は驚いた。
スピリットキャスターズNEXTには本来存在しないはずのカード――楠江の出自、元・開発部チーフデザイナーの孫娘であることを考慮するのなら。
「市販されてない、オリジナルカードってことか。
だけど……そんなカードが使用できるのか?」
「ううん、お兄。
オリジナルカードじゃなく――
たぶん、関係者用カードなんだと思う……」
千影は主良の発言を訂正する。
関係者用カード――聞き慣れない言葉に戸惑う主良。
「なんだ、それは……?」
「関係者用カードは、スピキャスのカードの中でも、ごくわずかな数だけ刷られたもの――有名なやつでは、開発部のメンバー同士が結婚したときに発行された《ポジティブマリッジ・グッドエンディング・ドラゴン》とかだね。最近ではガキの頃にスピキャスのファンだったってことで、プロ卓球選手の小山のペットをモチーフにした《未確定元素のチェシャ・キャット》が刷られてプレゼントされたりしてる。これらはナイアやハトスール、リトルクみたいな歴代世界大会の賞品とかとは違って……『公式大会では使用できない』みたいな縛りはなく、実際にゲームに使用できるんだよ。もちろん、競技の場で使ったりしたら非難轟々だろうから、本気で使う人はいないけどさ……」
「言われてみれば――《未確定元素のチェシャ・キャット》は【次元猫】の新規強化になり得るから、理論上は小山選手が最強の【次元猫】使いになってしまう――みたいな与太話が、SCPのあいだでも話題になってたな」
楠江は「そのとおりですわ」と、うなずいてみせる。
「《『銀色の瞳』時空観測隊員イース》は、世界で一枚だけ、わたくしのために発行された特別なカードですの。おじい様にねだって、叶えてもらったのよ。その存在は秘匿されてるものの……間違いなくトーナメント・リーガル(現環境における公式戦で使用可能)ですわ」
「とんだワガママ娘だな。
リチャード・カズキングダムの苦労がしのばれるよ」
世界で一枚だけ、楠江だけが使えるカード。
そんなものを持ち出してくるなんて、
卑怯なこと、この上ないが……!
まずは、冷静に対処するしかない。
このバトルにはアナエルが賭けられてるのだから。
「テキストを確認させてもらうよ」
「ええ、どうぞ」
いくら未知のカードであろうと、ゲーム開始前に《波浪遊宙部プロジェクト》の効果で指定されて場に出された以上は、このカードのテキストは公開情報となる。
対戦相手である主良には当然、テキストを確認する権利が生じるのだ。
さて、問題のカードのテキストは――?
《『銀色の瞳』時空観測隊員イース》
種別:スピリット
エレメント:光
コスト:99
タイプ:エルダーゴッド
パワー:99999
バースト:10
効果:
このスピリットは《波浪遊宙部プロジェクト》以外の効果で場に出せない。
プリベント(闇)、プリベント(火)、プリベント(水)、プリベント(風)、プリベント(地)、ライフZ、鉄壁、スナッチャー、ハイタイド、飛翔、Dステルス、セカンドストライク、貫通。
0:ターンを終了する。この能力はこのカードが場にあり、かつ、自分のターンでしか起動することが出来ない。
ふ……ふざけるなよ!?
「なんだよ、このカードは……!? ありとあらゆるキーワード能力が盛られてるじゃないか!?」
「えっ。これでも自重したんですのよ。おじい様が削れ削れってうるさいし。コストだって最初は10のつもりだったのに、99に上げられちゃったし。そのせいで《波浪遊宙部プロジェクト》の条件を達成する以外で召喚できなくなっちゃったんですの」
「当たり前だろ! バースト10でセカンドストライクを持ったスナッチャーである以上、出ただけでゲームが終わっちゃうんだから」
年齢の割に大人びた印象の楠江だったが……カード・デザインの傾向については年齢相応というか、中学生女子そのものといった感じだ。
こんな厨カード、存在が知られただけでSCPからぶっ叩かれるだろうな。
とはいえ――
「(出たら勝つ、というような強力なフィニッシャーを用意するのは《波浪遊宙部プロジェクト》の本来の運用法だ。それが厨オリカのイースであろうが、よく使われてる定番のノーデンスだろうが、大した違いは無いはず)」
【波浪遊宙部】の弱点は依然として変わってない。
一つ、気になるのは。
「自分のターンを終了させる――スピキャスでは見たことのないテキストだ。あれにはどういう意味があるんだ?」
疑問を抱えつつも――バトルの幕が上がった。




