表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/65

第40話 検索結果/Zero

 それから、一時間ほど経って。


 主良しゅらは充分に戦略を練り、デッキを完成させた。


「待たせたな、楠江くすのえ


「待ちくたびれましたわ。底面のバターと砂糖をカラメル化させて、長い時間の焼成できっちりと焼き固めるクイニーアマンのように……ようやく、主良さまは準備ができましたのね?」


 ふわぁ、と車椅子に座ったまま楠江は欠伸をする。

 

「泣いても笑っても、勝負は一度きりですわよ。

 わたくしもリチャード・カズキングダムの孫娘。

 おじい様の名にかけて、勝敗には責任を持ちますわ」


「こっちこそ……!」


 絶対に負けられない戦いだ。

 主良とアナエルは頷き合う――


再錬成リ・ユニゾン――」


 アナエルはアナエルドライバーを操作して、

 バトル用のボディスーツに変身する。


 デッキを預かるのは主良だ。


 何もなかった白い部屋に、

 カードバトル用のテーブルが出現する。


 テーブルの高さはちょうど楠江に合っていた。

 主良もテーブルの前の椅子に腰かける。


 隣に控えるのは、アナエルだ。

 千影ちかげは一歩下がって、背後で見守る。


「…………」

「…………」


 シャッシャッシャッ。

 シャッシャッシャッ。


 互いにデッキをシャッフルし、

 相手のデッキをカットしていく。


 言葉は要らない。

 緊張だけが高まってきた。


「(BO1の、一本勝負か……!)」


 デッキを置いたところで――

 楠江が、動く。


「ゲームの開始前に宣言します。わたくしは今回のゲームで《波浪遊宙部プロジェクト》を使用いたしますわ」


「《波浪遊宙部プロジェクト》だって……!?」


 主良は耳を疑った。

 アンティの場で聞くとは思わなかったカード名である。


 千影は「やった、ひひ、勝った!」と小躍りしている。


 プロジェクト・マーキュリー、

 プロジェクト・ヴィーナス、

 プロジェクト・アース、

 プロジェクト・マーズ、

 プロジェクト・ジュピター、

 プロジェクト・サターン、

 プロジェクト・ウラヌス、

 プロジェクト・ネプチューン――


 ゲーム開始前の盤面に、

 楠江は8枚のカードを並べていった。


 太陽系の惑星をモチーフにしたこれらのカードは、《波浪遊宙部プロジェクト》のカード効果によってゲーム開始前から展開されるカードである。


 轟轟轟轟轟、と轟音が周囲に鳴り響く。


 このアンティデュエルは精霊のバトルだ――

 シケイダとの温泉デュエル同様に、

 精霊の力でカード・エフェクトが実体化するらしい。


 何も無かった白い部屋が、

 カードの力で塗り替えられていく。


 白は、黒へ。


 どこまでも続く広大な暗黒世界――


 宇宙空間を模したフィールドに、

 8つの惑星が現れて広大な周期を描いて公転し始める。


「《波浪遊宙部プロジェクト》は、ゲーム開始時から常にフィールドに存在し、ゲームに影響を与え続ける常在カード――相手によって破壊・妨害・無効化されることがないという点ではフィールドスペルに近いものの、実際にはフィールドスペルとは似て非なる挙動をする、特殊なカード・タイプですわ。もちろん、主良さまはご存じですわよね?」


「あぁ……カード情報が公開されたときには、スピキャスに革新を起こすんじゃないかと、びっくりしたからな」


 ゲームの開始前から効果を発揮するということは、後のゲーム展開やドローに左右されずに、確実に効果を使えるということを意味する。

 つまり、デッキの安定性が格段に上がるということだ。


 背景ストーリー的にも、コスモ・コングロマリットであるザイオンの悲願である「遺伝子技術のデータ収集と応用による旧き神の復活」を目的とした波浪計画そのものがカード化するということで、登場当初はSCPたちに衝撃を与えた……が。


 主良の後ろで、千影が嘲るようにして笑った。


「いやいや、何を使うかと思ったら……【波浪遊宙部】なんて、ファンデッカス向けのロマンカードも良いとこじゃん……! そんな実用性皆無のゴミカードでアンティ挑むとか、頭悪すぎるし。お兄、勝ったも同然だよ……っ!」


 千影の物言いは相変わらずだが、

 ある程度は正論でもある。


「《波浪遊宙部プロジェクト》には、自分ターン終了時のエンド・シークエンスごとに相手プレイヤーにドローを許す強烈なデメリットがあるはず……」


 しかもその効果は強制ではなく任意であるため、デッキ破壊への応用も出来ない。純然たるデメリット――カード・アドバンテージの点で言えば、問題外のカードとも言える。


 環境レベルはおろか、

 ファンデッキレベルでも成立させるのが難しい。


 楠江はため息をついて、長いまつ毛を伏せた。


「……おじい様が、チキったのですわ。せっかく、わたくしが美しいカードデザインを考えたと思ったのに……余計なデメリットなんか、付けるものですから」


「おじいさん、って……リチャード・カズキングダムのことか。待てよ、じゃあそのカードはもしかして――君がデザインしたカードってことなのか!?」


「そのとおり。主良さまにお見せしますわ――

 わたくしのイマジネーションの結実。

 真の《波浪遊宙部プロジェクト》をねっ!」


 広大な宇宙空間に向かって、楠江が手を広げる。


 8つの惑星が公転する、中心――

 本来の太陽系では太陽が位置する場所。


 そこに、精霊が現れる。

 Dステルスによる透明化を解除して――

 想像もしていなかった巨体が姿を生じさせる。


「う……嘘だろ……っ!?」


 ゆっくりと、影から光へ転じるように。

 徐々に、徐々に――次の瞬間には、忽然と。


 あまりにも巨大すぎる、機械の塊が出現した。


 歯車と歯車と歯車の集合体である。


 前面には真っ白な文字盤が現れて、

 二本の長短を象った針が数字を刻む。


 カチン、カチン、カチン、カチン――


 一定のリズムを奏でる、超ド級スピリット。

 惑星大のメガ・サイズ球体時計――ッ!


 ――これが、楠江が操るスピリット!?


 楠江は1枚のカードを手に取った。



「わたくしは《波浪遊宙部プロジェクト》の効果により、オールドワンまたはエルダーゴッドのタイプを持つスピリット・カードを1枚、デッキから選択し――ゲーム開始前にこのカードの下に置くことができますわ。


 選択するのは――

 《『銀色の瞳』時空観測隊員イース》ッ!」



 ――時空観測隊員、イース……!?


 主良はアナエルに出してもらったカードリストを反芻はんすうする。

 Dステルスを持つスピリットの一覧。

 だが、どこにも思い当たるカードが見つからない。


 隣にいたアナエルが、目を瞬く。


「――ありえません。

 検索結果/Zero。

 存在しないカードです、そのカードは……ッ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ