第39話 アンティデュエル!
楠江が取り出したのは、カードデッキだった。
「おいおい……」
主良は戸惑いの声をあげる。
「まさか、カードゲームで決着つけるって言うつもりか?
アニメかなにかじゃあるまいし」
「そう、おかしくはありませんことよ。カードゲームの勝敗によって、得るものと失うものがある――アンティルールは、おじい様が大昔に作ったカードゲームでも、公式ルールとして採用されていましたわ。そも、ゲームの歴史を紐解けば――現代では占術の道具とされているタロットカードも、遊戯の道具とされているプレイングカード(トランプ)も、元々はカード賭博のために生み出されたもの。カードゲームの勝敗にスピリット――カードを賭けるのは、言ってみれば、基本に帰るということになりますのよ。いわば、残忍な先祖帰りと言ったところかしら」
くすくす、と挑発的に笑む楠江。
アンティルールに絶対の自信があるようだ。
「こっちが勝ったら、シケイダを返す――
じゃあ、負けたとしたら?」
「当然。そこのアナエルをいただきますわ。
我が社の不良品は、全て回収しておかないと」
予想はしていたが、やはり。
「そんなの……っ!
受けられるわけないだろ!」
どうして? と、楠江は首をかしげた。
「アンティデュエルは互いのカードを賭けるもの。
こちらがシケイダを賭けるのですから、
そちらもアナエルを賭けるのが道理のはず」
「アナエルは……ただのカードじゃない!」
アナエルが、ここにやって来て――
この数日、主良はずっとアナエルと一緒にいた。
それで、わかったことがある。
変なことばかり言う子だけど……
カードの時の印象とは違って、
意外と図太くて、いい性格した子だけど……
「アナエルは一人の女の子だ。
それを賭けるとか賭けないとか、
出来るわけないだろうがっ!」
主良が啖呵を切ると、楠江は気圧された様子だった。
「……っ! そう。ずいぶんと精霊に絆されていますのね。回収が遅れた弊害――それについては謝罪しましょう。こういったことが無いように、次回からは迅速な業務の遂行が必要になると――再発防止に向けた報告書を書かないといけませんわ……」
主良の横にアナエルが立つ。
「マスター。マスターが切札を大切にしてくれるのは嬉しいです。それでもカードです、切札は。マスターと共に、デュエルで戦うためにある。最初にそう言いました」
「アナエル?」
アナエルの表情は読めない。
けど、その言葉には確固たる意志があった。
「切札は戦う覚悟が出来ています。
――ちーの元に、
シケイダを取り戻すために必要ならば!」
「取り戻すための、戦い……か」
でも、負ければアナエルを失う。
そんな戦いが、出来るのか?
主良は戸惑う。
しかし――
拒んでも、この妙な空間から出れるかどうかわからない。
アンティデュエルを受けなければ、
楠江はまた精霊を暴れさせるだろう。
「(千影に危害が加えられるかもしれない……)」
既に、退路は断たれていた――。
念のため、楠江に条件を確認する。
アンティで楠江が差し出すのは、
シケイダの身柄。
加えて、今後はアナエルたちに手出ししない――。
逆にこちらが差し出すのは、
アナエルの身柄と――
アナエルとシケイダの空白カード。
「空白カードを求めるってことは……処置とやらに必要になるってことか。無理やりカードに戻すつもりなのか……?」
勝負はスピリットキャスターズNEXTを用いたデュエル。
一本勝負のBO1。
また、使用するデッキには――
必ず精霊のカードを採用していること、という条件がある。
条件を聞いて、千影は舌打ちをする。
「最悪。アナエルさんはリミテッド・ワンだから――特殊構築レギュレーションでアナエルさんの採用を強制されることで、自動的にこっちは他のリミテッド・ワンが使えなくなる」
「それが楠江の狙いか――?」
条件を聞いた主良・アナエル・千影は、
楠江から離れてデッキを組むことにした。
「アナエル。一応、周囲を警戒して、楠江の精霊にデッキ構築を覗かれないようにしてほしい。出来るかな?」
「肯定します。お任せください、マスター」
「お兄、冴えてる……! BO1の一本勝負である以上……情報戦のアドはクソデカいもんね……!」
「ああ。楠江はこちらに一度も精霊の姿を見せていない。きっと、デッキを読まれないために……最初からアンティデュエルを想定して立ち回っていたと思うんだ」
楠江が操る精霊――
ヒントとなる要素はDステルスだけ。
「Dステルスを持っている精霊、加えてある程度の大きさがある――人間よりも巨体のスピリット。だけど、これだけだと推理するには条件が広すぎるな」
「ファッティ(重量級のスピリット)にはとりあえず配られがちなキーワード能力だもんね。まぁ、色の役割的に、多いのは水か風か闇あたり……」
「肯定します。ですが、ファイロ・ゲノミクスのデータでカードリストを検索したところ――六つの色と無色を含めて、現在のカードプールでは全ての属性のエレメントにDステルスを持ったスピリットが存在していることがわかりました」
「アナエルさん、それホント? 火水とか火闇はいた気がするけど……火単色っていたっけ?」
「《限りなく透明に近いレッド》」
「村上ドラゴンサイクルかぁー……」
「俺が気になるのは……仮に勝ったとして、楠江が約束を守ってくれるかどうかなんだよな」
「安心してください、マスター。精霊同士のバトルには強制力が働きます――きっと、その作用を利用してアンティデュエルは行われるものかと」
「なるほど」
「ちっ、こっちの負けも踏み倒せないじゃん」
「千影……お前……」
「ドン引きです」
「うそうそ、言ってみただけっ!」
ともあれ――問題は、デッキ選択になるな。




