第4話 アナエル、キミにきめた!
「うーん……」
主良はポリポリと頭をかく。
打てば響くようなアナエルとの会話が楽しくて、
ついつい、まくし立ててしまったけれども。
よく考えたら、アナエルはカードのスピリット。
そのスピリットに対して――
「採用する価値が無い、デッキに入れるメリットが何一つない、だなんて……いくら何でも、失礼だったよな……」
「ひ、否定しますっ。
そこまでは言ってなかったかとっ!」
すまない、言い過ぎだった!
主良は話題を変える。
「そう言えば、アナエルはどうして実体化したの?
まずはデッキを組む、とか言ってた気がするけど」
めそめそと泣き真似をしていたアナエルは、
今度は、けろりとして答えた。
「使ってもらうためです。
マスターに、切札を」
誇らしげに胸を張り、
アナエルは主良に宣言する。
「リミテッド・ワンになったとて、
切札はまだまだやれます。
だから……切札はマスターと、
また、一緒に戦いたいです……!」
すっ、とアナエルは眉を寄せる。
初めて表情を変えたアナエル。
その切なげな様子に、思わず主良の胸が高鳴った。
「俺と、一緒に……?」
「おっしゃっていましたね、マスターは。抜くしかないよな、って……もう、マスターと一緒にデュエルできないかと思ったら……切札は、とても悲しくなりました。マスターと離れたくない……そう思って、気づいたらこの世界に来ていました」
「アナエルは、俺に会うために実体化した?」
「肯定します。このままコレクションファイルの中で余生を過ごすなんて、まっぴらです。デュエルのためのカードは、デュエルの中でこそ輝くと、切札は信じています。マスターと共に、デュエルで戦うためにあるのです、切札の製造目的は」
「どうして」
主良は疑問を覚える。
――どうして、俺なんだ?
「カードのスピリットが実体化するなんて、聞いたことない。なのに、アナエルがわざわざ――俺と一緒に戦うために、この世界に実体化してくれるなんて」
言うまでもなく、アナエル軸の【神造】デッキは競技環境におけるTier1だった。それについては、競技勢の中では異論はないだろう。日本全国を見渡せば、アナエルを握っていたプレイヤーは星の数ほどいるはず。
それでも――
「俺じゃないと、いけないのか?」
「肯定します」
間髪入れずに、アナエルは答えた。
迷いのない様子だ。
「どうしても、か?」
「どうしても、です」
主良の胸の中で、ほのかな熱が生じる。
興奮……あるいは、歓喜。
《次世代神造姫アナエル》を手に入れてから――
もう、1年ちょっとの時間が経っていた。
寝ても覚めても、アナエルのことを考えていた。
どのカードよりも研究し、使い込んだカードだった。
大好きなカードだったんだ。
何よりも大事な、相棒だったんだ。
そのアナエルが、主良を選んでくれた……!
「(アナエルが……俺の力を求めてくれている)」
どうもこうもないだろ。
だったら、やるしかだろ。
この子にはまだ、可能性が残されているはず。
現実が厳しいのはわかってる。
それでも、やるだけはやってみなきゃだ。
「……わかった。俺なんかで良かったら」
決意を込めて、拳に力を込める。
今度は目を逸らさない。
主良はまっすぐに、アナエルの思いに答える――
「アナエル、俺と一緒に戦おう!」
「まっ」と、アナエルは丸く口を開けた。
アナエルの怜悧な雰囲気が、
どこか暖かく柔らかい印象になる。
――表情は、相変わらず変わらないけど。
「……嬉しい。
感謝します、マスター。
末永く、よろしくお願いします。
ふつつか者です、けど」
ぺこり、とアナエルは丁寧にお辞儀をする。
その律儀な様子がおかしくて、
主良の口元が吊り上がった。
「よーし、そうと決まれば早速……!」
「体のシャッフルですか?」
「……デッキ構築だよ!
ストレージから相性の良いカードを探さないと!」
主良は慌ただしく、押し入れに背を向ける。
カードを探すため――というのは、方便。
本当は、アナエルに顔を見られないため。
――鏡を見なくてもわかっていた。
妙に熱っぽい感覚がある。
きっと主良の頬は、
真っ赤に紅潮しているはず。
「(あのアナエルと……二人っきり、か)」
ずっと憧れ続けていたカードの美少女が、一つ屋根の下の、同じ部屋にいるということを……今更ながら意識してしまう。さっきから「実戦」だとか「体のシャッフル」だとか、際どいことばかり言っているけど――これは主良をからかっているんだろうか?
《次世代神造姫アナエル》――イラストや背景ストーリーからの印象では、外見こそ彫刻のように美しいものの、ザイオンの指令に従う冷酷な破壊サイボーグという印象だったけど。
「(本物は……可愛い女の子だよな……)」
ふと、手元にあったシク版のカードのことを思い出した。
「やっぱり、イラストは変わってないか」
カードを眺めてみると、イラストにあるのは黒い虚空の渦だけ――本物のアナエルが実体化して抜け出すと、カードの方はこうなってしまうらしい。
――よし。
そろそろ、頬の紅潮も収まっただろう。
主良は振り返り、気になることを尋ねてみた。
「ねぇ、アナエル。
実体化したのはいいけど……
そこから、
どうやってカードに戻るの?」
「ど」
アナエルは石のように固まった。
「……アナエル?」
「…………」
「おーいっ」
「…………どうやって」
アナエルはふらふらと歩いて、主良の手を取る。
ひんやりとした体温が伝わるよりも前に、
アナエルは震える声で呟いた。
「その。どうやって……戻れば、いいですか?」




