表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第4話 アナエル、キミにきめた!

「うーん……」


 主良しゅらはポリポリと頭をかく。


 打てば響くようなアナエルとの会話が楽しくて、

 ついつい、まくし立ててしまったけれども。


 よく考えたら、アナエルはカードのスピリット。

 そのスピリットに対して――


「採用する価値が無い、デッキに入れるメリットが何一つない、だなんて……いくら何でも、失礼だったよな……」


「ひ、否定しますっ。

 そこまでは言ってなかったかとっ!」


 すまない、言い過ぎだった!

 主良は話題を変える。


「そう言えば、アナエルはどうして実体化したの?

 まずはデッキを組む、とか言ってた気がするけど」


 めそめそと泣き真似をしていたアナエルは、

 今度は、けろりとして答えた。


「使ってもらうためです。

 マスターに、切札を」


 誇らしげに胸を張り、

 アナエルは主良に宣言する。


「リミテッド・ワンになったとて、

 切札はまだまだやれます。

 だから……切札はマスターと、

 また、一緒に戦いたいです……!」


 すっ、とアナエルは眉を寄せる。


 初めて表情を変えたアナエル。

 その切なげな様子に、思わず主良の胸が高鳴った。


「俺と、一緒に……?」


「おっしゃっていましたね、マスターは。抜くしかないよな、って……もう、マスターと一緒にデュエルできないかと思ったら……切札は、とても悲しくなりました。マスターと離れたくない……そう思って、気づいたらこの世界に来ていました」


「アナエルは、俺に会うために実体化した?」


「肯定します。このままコレクションファイルの中で余生を過ごすなんて、まっぴらです。デュエルのためのカードは、デュエルの中でこそ輝くと、切札は信じています。マスターと共に、デュエルで戦うためにあるのです、切札の製造目的は」


「どうして」


 主良は疑問を覚える。


 ――どうして、俺なんだ?


「カードのスピリットが実体化するなんて、聞いたことない。なのに、アナエルがわざわざ――俺と一緒に戦うために、この世界に実体化してくれるなんて」


 言うまでもなく、アナエル軸の【神造】デッキは競技環境におけるTier1だった。それについては、競技勢の中では異論はないだろう。日本全国を見渡せば、アナエルを握っていたプレイヤーは星の数ほどいるはず。


 それでも――


「俺じゃないと、いけないのか?」

「肯定します」


 間髪入れずに、アナエルは答えた。

 迷いのない様子だ。


「どうしても、か?」

「どうしても、です」


 主良の胸の中で、ほのかな熱が生じる。

 興奮……あるいは、歓喜。


 《次世代神造姫(ネクス・ハート)アナエル》を手に入れてから――

 もう、1年ちょっとの時間が経っていた。


 寝ても覚めても、アナエルのことを考えていた。

 どのカードよりも研究し、使い込んだカードだった。


 大好きなカードだったんだ。

 何よりも大事な、相棒だったんだ。


 そのアナエルが、主良を選んでくれた……!



「(アナエルが……俺の力を求めてくれている)」



 どうもこうもないだろ。

 だったら、やるしかだろ。


 この子にはまだ、可能性が残されているはず。

 現実が厳しいのはわかってる。

 それでも、やるだけはやってみなきゃだ。


「……わかった。俺なんかで良かったら」


 決意を込めて、拳に力を込める。


 今度は目を逸らさない。

 主良はまっすぐに、アナエルの思いに答える――



「アナエル、俺と一緒に戦おう!」



「まっ」と、アナエルは丸く口を開けた。


 アナエルの怜悧な雰囲気が、

 どこか暖かく柔らかい印象になる。


 ――表情は、相変わらず変わらないけど。



「……嬉しい。

 感謝します、マスター。

 末永く、よろしくお願いします。

 ふつつか者です、けど」



 ぺこり、とアナエルは丁寧にお辞儀をする。


 その律儀な様子がおかしくて、

 主良の口元が吊り上がった。


「よーし、そうと決まれば早速……!」

「体のシャッフルですか?」

「……デッキ構築だよ!

 ストレージから相性の良いカードを探さないと!」


 主良は慌ただしく、押し入れに背を向ける。


 カードを探すため――というのは、方便。

 本当は、アナエルに顔を見られないため。


 ――鏡を見なくてもわかっていた。


 妙に熱っぽい感覚がある。

 きっと主良の頬は、

 真っ赤に紅潮しているはず。


「(あのアナエルと……二人っきり、か)」


 ずっと憧れ続けていたカードの美少女が、一つ屋根の下の、同じ部屋にいるということを……今更ながら意識してしまう。さっきから「実戦」だとか「体のシャッフル」だとか、際どいことばかり言っているけど――これは主良をからかっているんだろうか?


 《次世代神造姫(ネクス・ハート)アナエル》――イラストや背景ストーリーからの印象では、外見こそ彫刻のように美しいものの、ザイオンの指令に従う冷酷な破壊サイボーグという印象だったけど。


「(本物は……可愛い女の子だよな……)」


 ふと、手元にあったシク版のカードのことを思い出した。


「やっぱり、イラストは変わってないか」


カードを眺めてみると、イラストにあるのは黒い虚空の渦だけ――本物のアナエルが実体化して抜け出すと、カードの方はこうなってしまうらしい。


 ――よし。

 そろそろ、頬の紅潮も収まっただろう。


 主良は振り返り、気になることを尋ねてみた。


「ねぇ、アナエル。

 実体化したのはいいけど……

 そこから、

 どうやってカードに戻るの?」


「ど」


 アナエルは石のように固まった。


「……アナエル?」


「…………」


「おーいっ」


「…………どうやって」


 アナエルはふらふらと歩いて、主良の手を取る。


 ひんやりとした体温が伝わるよりも前に、

 アナエルは震える声で呟いた。


「その。どうやって……戻れば、いいですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ