第37話 訪問者
翌日のこと。
三連休二日目の中日――
千影は今日もCSに出る予定だったのが。
予定をキャンセルした千影は、
イライラした様子で家の中を歩き回っていた。
親指の爪をかじり、千影は悲壮な声を絞り出す。
「……私、シケイダを探しに行く」
主良は千影を刺激しないように問いかけた。
「探しに行くのはいいけど……
当てはあるのか?」
ちっ、と一際大きく千影は舌打ちをする。
「当てなんて、無いよっ……でも、変だよ。シケイダの奴、全然帰ってこないし……あいつ、もしかして宇宙人だと思われて捕まったのかも。私から連絡とる方法も無いし……このまま待ってるのは、嫌だもの……っ!」
念のため、空白カードも確認してみたが――
カードにはシケイダの姿は無かった。
「(鹿の子さんみたいにカードに戻ったわけじゃないか……)」
――でも、なにか嫌な予感がする。
震えて小さくなった千影の肩を、
主良の手が優しく抑えた。
「お、お兄……」
自分の怯えが伝播しないように、
主良は息を吸って気を奮い立たせる。
「シケイダは神出鬼没だからさ。ひょっこり、帰ってくるかもしれないだろ? だから、千影は家で待っててあげてくれ。外には、俺が探しに行くから」
「う、うん……っ!
お兄……ありがと」
アナエルも立ち上がった。
「同行します。
マスター、切札も連れていってください。
ちーの力になります、切札も」
「助かるよ、アナエル。
君が来てくれたら百人力だ」
千影はすがるような目つきでアナエルを見た。
「ねぇ、アナエルさん……もしかして精霊のアナエルさんだったら、同じ精霊の……シケイダの気配がわかったり、しない?」
「肯定します。先ほど、作業が完了しました。前回のバトルのログを辿ることで――シケイダがまとう水のエレメント……中でも既出のデータにあるセイレン・パブケイブ特有のノース・コーライルの潮の気配を、切札の集感センサーに記録しました。これで辿れるはずです、近くに接近すれば」
「えっ、そんなことが出来るのか!?」
アナエルはうなずくと、
私服の上からアナエルドライバーを錬成する。
ドライバーは変形し、
丸いレーダーのようなものが現れる。
主良と千影は緑色の画面をのぞき込んだ。
「この光の点は?」
「シケイダ、あるいはシケイダに接触した者です」
「えっ、すぐ近くまで来てるのっ!?」
千影の言うとおり、
光点は移動しながらこちらに近づいてきた。
「もしかして、シケイダが帰ってきたのか」
良かった。
これ以上、千影のつらそうな顔を見るのはこたえる。
千影は寝起きでボサボサの髪を整えると、
慌てた様子で玄関に向かって走っていった。
「シケイダ……っ!
お、おかえり……」
ガチャリ、とドアを開ける千影。
ドアの先――
マンションの廊下にいたのは、思ってもいない人物だった。
車椅子に座った少女である。
ここまで一人で来たのか、背後には誰もいない。
まるで精巧な人形のような少女だった。
透き通るような白い肌に、淡い光を含んだ金髪。
レースが走る黒いヘッドドレスの下、少女の髪は丁寧に整えられ、柔らかな波を描きながら肩口へと落ちている。その一本一本が細くきらめいて、光を受けるたびに錦糸のように作りものめいた艶を返していた。
顔立ちは西洋的で、整いすぎるほどに整っている。
小さく端正な鼻筋に、薄く形の良い唇。
ひときわ目立つ大きな瞳。
年の頃は十代の前半といったところだろう。
幼く華奢な身体を包むのは上品なゴシック調のドレス。
磁器人形の如き少女はちょこんとお辞儀すると、
千影に向かって挨拶した。
「ごきげんよう。わたくしは罪園CPの楠江です。不良品のカードを回収しに参りました。貴方さまが、黒羽 千影さまですの?」
「は、はいええと、そそそ、そうです……!」
「まぁまぁ。
そんなに堅くならないでくださいまし」
口元に手を当てて、上品に笑う楠江。
「送ってこられた口汚いメールの文面ではあんなに語彙豊かで勇ましかったのに、実際に会うとこんなに可憐で……まるでパン粉に加工されて削り尽くされる前の、乾燥したパン生地みたいにカチコチ……うふふ、可愛らしいですわ」
「ふぇぇ……」と、半ベソになる千影。
「パ、パンだって?」
少女の奇妙な言動に、主良は困惑した。
楠江――たしか、昨日届いたメールにあった名前だ。顧客相談室の室長、とか書いてあった気がしたが……こんなに小さな子が?
「ええと……楠江さんは一人で来たの?」
「いいえ、一人ではありませんのよ」
ニコリ、と人形じみた笑顔をする楠江。
途端に、すさまじい風圧が主良に向かって走る。
衝撃――
主良の前に飛び出したアナエルが拳を振るい、
空中の”何か”と激突して弾き飛ばされた。
「アナエルッ!?」
壁に向かって飛ばされたアナエルは、身体をしならせると空中で体勢を転換し、足で壁を蹴って主良の前に降り立つ。
アナエルは主良を庇うように平手を構えて、武道の立ち姿をした。
「一体、今のは……」
「Dステルスです。
マスターを襲いました、透明化したスピリットが」
鹿の子と同じ、Dステルスだって!?
うふふふふふ、と楠江はいやらしい笑いをする。
「やっぱり、もう一匹いましたのね。
ここで――処置、させていただきますわ」




