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第36話 破滅の終幕

 千影ちかげからの電話を受け――


 主良しゅらとアナエルはスーパーに寄り、

 飲み物とお菓子を買って帰宅することになった。


「お兄、アナエルさん、見て……っ!

 優勝プロモと、こっちはベスト8賞。

 にひひ、【シケイダループ】は覇権で確定っ!」


 千影のCS行脚は大成功に終わったらしい。

 その祝杯といったところである。


 アナエルは手と手を合わせると、

 指先をぺしぺしと叩いて拍手した。


「祝福します、ちー。すごいです。

 おめでとうございます!」


「へへ、アナエルさん、ありがと……。

 お、お兄も……褒めて?」


「えっ、なんだよ急に。千影が強いのはいつものことだろ? 普段は別にお祝いなんてしてなかったのに……さっきもいきなり電話してきたからびっくりしたんだぞ」


 むーっと、千影は真紅の瞳で主良をにらむ。


「いいじゃん……このデッキってば、久々に、お兄とスピキャスして、それで調整したデッキなんだし。お兄も喜んでくれたって……」


 アナエルは千影の隣に立つと、

 ビシッ、と主良に指を指して言った。


「マスターに要求します。

 もっと優しくしてください、ちーに」


「わ、わかったよ!

 おめでとう、千影。

 ほら――コーラだって買ってきてあげたから」


 機嫌を直してもらうべく、

 スーパーから買ってきた飲み物を出したのだが。


「………ちっ。

 これ、偽のコーラじゃん」


「カロリーゼロをなんだと思ってんだよ」


 珍しく可愛げが出たと思ったら、これか。


「ぷはーっ、このわざとらしい人工甘味料感!」

「肯定します。甘くておいしいです」


 しかもグビグビ飲んでるし。


 ま、いいか。

 ええい、俺もやけ酒(※酒ではありません)だ!



「「「かんぱーいっ!」」」



 飲まなきゃやってられないって。


「ところで、お兄……お兄の方は、勝てた?

 店舗大会に行ったんだよね……っ?」


「あぁ……大会は中止になったんだ。

 代わりに名探偵の助手になって、

 怪盗を追ってた。

 色々あって結局、

 怪盗の正体は名探偵だったんだけど」


「ふぇっ――怪盗ぅ?」


 千影は心配そうに主良を見上げる。


「お兄ぃ、大丈夫?

 頭の病院、行く……?」


 可愛らしい声で、

 発言の切れ味が鋭すぎる。


「(ま、普通に聞いたらそうなるよな)」


 そういえば――


「シケイダはまだ帰ってないんだな。

 擬態するカードを探しに行ったって話だけど」


「うんっ……せっかく、CSでのシケイダ無双を自慢してあげようと思ったのに……あんだけ調子良く、お嬢様、お嬢様とか言ってたくせにさ。肝心な時にいないし。シケイダは私の精霊なんだから、お兄とアナエルさんみたいに、一緒にいないとダメだよ……っ!」


 主良は思わず、アナエルと目を合わせる。

 ――マスターと精霊は一緒、か。


「……肯定します。

 とっちめましょう、シケイダが戻ってきたら」


「まぁまぁ。千影があいつの蝉頭を怖がってたから、

 擬態のカードを探しに行ったって話でもあるんだろ?」


 千影はバツが悪そうにそっぽを向く。


「それはそうだけどぉ……。

 ちょっと、慣れるまでびっくりしただけ。

 別に、私はそこまで虫とか苦手じゃないし。

 シケイダの方が気にしすぎなんだよね――」


「言われてみれば、ちー……

 千影は、子供の頃からそういうの気にしないな」


「カードゲーマーだもん。ドラゴンだろうがオッサンだろうが萌え豚寄せの美少女だろうがゴ〇ブリだろうが気にしないよ。強ければ入れるし、弱ければ抜くだけ。一時期のスピキャスなんて、全SCPがデッキに4枚ゴキ〇リを入れるところからデッキ構築が始まるゲームだったし……」


「Gか。よく考えたら変なゲームだったな」

「肯定します。強敵でした、Gは!」


 そんな風にカードゲーム談義をしていると――


 ピッ、と通知音が鳴る。


 千影のスマホだった。

 どうやら千影にメールが届いたらしい。


「えっ――!」


「どうかした、千影?」


「う、うん。前に空白ブランクカードが不良品だと思って、罪園ザイオンCPにクレームのメール入れたって話したよね……っ? それの返信が届いてて」


「ええと、なになに……」



 罪園ザイオンコンシューマ・プロダクツ

 コンテンツ企画部・企画課

 特命顧客相談室・室長

 リヒェルデ・カズキングダム・楠江くすのえ



「”処置が完了しました。代替品を送りますので、不良品を回収させていただきます”だって――どうしよ、お兄?」


「待てよ。代替品はわかるけど……

 ()()って――何のことだ?」


 ポツリ、ポツリと雨音が窓を叩き始める――



☆☆☆



 ――降りしきる雨の中、蝉頭の精霊は路地に倒れ伏していた。


「……お嬢様。それがしは、もう一度、貴方と……」


 ふり絞る声をあざ笑うのは、ゴシックドレスの少女だ。


「あらあら。まだ喋る元気がありますのね。

 いけませんわ。静かにさせないと、人が来てしまいますもの」


 街路灯の光を照り返す金髪――


 車椅子に座る少女には、

 不思議なことに雨粒が一つも落ちていない。



「頼めますわね、イース?

 暫定的な処置にはなりますけど――

 この子を黙らせておやりなさい。


 冷凍しておくことで、

 発酵が止まったパン生地のようにね」



「承諾」と、女性の低い声がどこからか響く。


 カチ、カチ、カチ、カチ――

 時計の針が刻む音が、いくつも重なり――

 ピタリ、と止まる。


 一瞬だけ、全ての音が奪われた。


 直後――


 雨音に溶けるかのように、

 路地裏にいたはずの人影は忽然と消え失せていた。

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