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第31話 ホワイダニットはお任せで

 鹿しかの出した条件――

 精霊がカードに戻る方法を教えてもらう、

 という条件を呑み……

 主良しゅらは鹿の子に協力することにした。


「質問です。 

 信用しているのですか、

 マスターは鹿の子を?」

「信用するわけないよ。

 怪盗ナラクと繋がってたことは明白だし、

 今現在どういう関係があるのかもわからない。

 犯人をナラクと決めつけた論理も強引だったし」


 主良とアナエルは、

 二人でカードショップ『オネスト』に戻ってきた。


 鹿の子からの依頼――

 「カードを大量買取に出した人物を特定する」

 を果たすために。


「疑問です。では、なぜ協力を?」

「鹿の子さんが今もナラクを操ってるのなら、

 あの子の近くにいればボロを出すかもしれない。

 それに――

 もし本当に精霊が犯人だったら、

 警察に解決できないのは確かだしね」


 口ではこう言っているものの――

 正直、鹿の子が犯人だとは思っていない。


 狡猾な知能犯と呼ぶには、

 迂闊でぽんこつな感じだし……


 そういった愛らしい態度が演技だとしても。

 鹿の子が悪人だとしたら、

 尚更、主良たちを巻き込むメリットが見えない。


「たぶん……助けが欲しいのは本当なんじゃないかな」


 アナエルは「理解しました」とうなずいた。


「ちーに報告ですね。

 マスターは、可愛い女の子なら誰でもいいと」


「なんで千影ちかげの名前が出てくるの?

 っていうか、アナエルこそノリ気じゃないか」


 アナエルはというと、

 例の元素変換でコスチュームを変更していた。


「謎ミルキィのつもり?」

「否定します。

 乗っかりました、プリキュアに」

「節操がないなぁ」


 鹿打ち帽にインバネスコートという、

 おなじみのホームズスタイルである。


「そんな恰好、ダメに決まってるでしょ。

 (可愛いけど)

 それとなく情報を聞いてこないといけないんだから」

「そんな……

 恋はスリル・サスペンスなのに!?」

「なんで『鉄人28号』に出てくる悪役なんだよ。

 ショックが抜けてる、ショックが」

「肯定します。

 切札に2点ダメージです」


 全般的にやかましすぎる。


元素潮流エレメンタイド開始アクセス――」


 アナエルには元の服装に戻ってもらうことにして。


 ちらり、と路地裏に目をやると――

 グッ、と拳を握る鹿の子がいた。

 こちらに向かって何か言っているように見える。


 えーとっ……



「(読唇術)主良くーん、ファイトですっ!」



 うーん。


 その瞳は純真そのもの――に見える。

 悪い子じゃないとは思うんだよな。


「アナエル。もしも、仮にだけど。鹿の子さんが本当に探偵で、怪盗ナラクと敵対してる場合には――彼女が真相にたどり着いた瞬間に、精霊であるナラクに襲われる可能性があると思う。そのときには……」


 アナエルは彫像の如く整った横顔を、

 凛々しく鹿の子へと向ける。


「ご安心ください。

 切札が守ります。

 鹿の子も、マスターも」

「……ありがとう。

 偉そうなことばっか言ってるくせに、

 結局、俺はアナエル頼りになっちゃうな」

「否定します、マスター」


 アナエルが短く詠唱すると、

 片腕にアナエルドライバーが具現化した。


「切札は理解しました、シケイダとの決闘で。

 精霊同士のバトルはカードパワーでは決まらず。

 カードとはあくまでデッキの部品パーツ

 決闘の行方は、

 己が組み込まれたデッキの総合力で決まると。

 だから、切札は無敵です。

 マスターの組んだデッキがあるかぎり」


「それなら……うん。

 俺とアナエルで、鹿の子さんを守ろう」


 元マスターとはいえ、

 一般人の鹿の子がナラクに狙われている可能性。


 実際のところ――

 これが心配で、協力を承諾したようなものだった。


 主良とアナエルは互いにうなずき合うと、

 カードショップ『オネスト』に足を踏み入れる。


「さて……鬼が出るか、蛇が出るか……」




 ……。

 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。




 15分後、路地裏にて。


「さて……鬼が出るか、蛇が出るか……(読唇術)

 なぁんて言ってたのに。

 ミッションは失敗のようですね、主良くん!

 ボクはガッカリですよ」


 クソデカため息をつきながら、

 声真似までして煽ってくる鹿の子。


 やはり、この子に協力しようとしたのは失敗だったかも。


「あのなぁ、鹿の子さん。俺もアナエルもがんばったんだぞ。だけど、買取を出した人の個人情報なんて、そう簡単に聞き出せるものじゃないだろ……」

「肯定します。切札もがんばりました。

 要求します、努力賞を!」


 鹿の子は艶の良い黒髪をかき上げて、言う。


「ダメです。

 努力で済んだら警察は要りません」

「犯罪者予備軍でしかありえない発言だ」

「おっと、間違えましたね。

 努力で済んだら学校は要りません」

「反知性主義ッ!?」


 危ない気配がしたので、軌道修正しよう。

 主良はかねてから考えていた疑問をぶつける。


「そもそもの話、鹿の子さんの推理が正しかったとして――仮に大量買取のカードにまぎれてカード化したナラクが店内に侵入したからといって――それがイコール、買取に出した人とナラクが繋がってるとは限らないじゃないか。ナラクがこっそり紛れ込んだ可能性だってあるだろ?」


 ふむ、と思案顔をしつつ鹿の子は答えた。


「いいですか、主良くん。かの名探偵シャーロック・ホームズはこんな言葉を残していました。――あのぉー、犯人、わかっちゃったんですけどぉ」


「鋭意継続(ケイゾク)捜査中ッ!」


「おっと、間違えました! これはホームズではなく、別の名探偵でしたね。正しい言葉は、そう――愛ある限り戦いましょう、命、燃え尽きるまで」


「それ元ネタは美少女仮面ポワトリンだからな?」


「またまたうっかりミスでした。ぺろぺろ」


「シンプルなおちょくり止めろ」


 そんな、茶番じみたやり取りをしていると。



「――マスター?」



 ぎゅっ、と柔らかい感触が腕に当たった。

 鼻孔をくすぐる甘い匂いに、主良は動揺する。


 この感触と胸を打つ芳香には覚えがあった。

 主良に密着しているのは――


「アナエルッ……!?

 ど、どうしたの急に」

「疑問です。

 切札のマスターですよね、マスターは?」

「それは……もちろん」


 アナエルは上目遣いで主良を見上げる。


「疑問です。

 ずっと鹿の子と楽しそうです。

 マスターは……

 切札の、ツッコミ眼鏡なのに」


「か、かけた覚えねえよ。

 コンタクトでもねえわっ!」


 ――これは……嫉妬、しているのか?


 主良にとって、思ってもみなかった反応だった。


「……フフッ」と、鹿の子は微笑む。


「アナエル。貴方は、主良くんのことが好きですか?」


 迷いない様子でアナエルはうなずいた。


「肯定します」

「そう。主良くんの方は――ああ、聞くまでもなさそうで」

「…………っ!」

「これじゃ、ボクが推理するまでもない。

 フフフ、手ごたえがないですね!」


 肩を揺らして笑う鹿の子。

 なぜか、その様子が……寂しそうに見える。



「お二人とも。その想いは、どうか御大切に。何事にも、いつか終わりは来るものですが――終わりが来たからと言って、それまでの価値が失われるわけではありませんから。今となっては価値を感じないものであっても――かつて、たしかに手にとったはずの価値を――今の自分ではない自分が感じた価値というものを、見失わないでくださいね?」



 なんだか、大人びたことを言う鹿の子が――

 ほんの少しだけ、年上に見えた。


 見た目の歳は変わらないように見えたけど……。


「(あっ……!)」


 そのとき、主良の中で思考の火花が走る。



★★★


「ボクは名探偵の春井夏 鹿のはるいなつ しかのこです。怪盗あるところに名探偵あり――事件がボクを呼んでいる!」


★★★



 もしかして、この人の正体って――!?


「鹿の子さん、君って本当は」

「主良くん、アナエル。

 お二人とも――

 御協力、ありがとうございました」


 スッ――と鹿の子が取り出したメモ用紙。


 そこには近所にある住宅地の住所がメモされていた。


「お二人がオトリカゲロウ……じゃない、間違えました。オトリとなって店長さんの注意を引いてくれたおかげで、店の奥の事務所に忍び込んで、買取に出した人物の住所が手に入りました。これで、ボクの目的も果たせましたので」


 普通なら、ありえない。


 カードショップ『オネスト』の店内はそう広くない。

 いくら注意を引いたからって、誰にも気づかれずに店の奥にまで侵入することなんて不可能だ――そう、普通ならば。


 だけど、鹿()()()()()()()()()()


 主良には既に、この事件の全貌が見え始めていた。


「どうやら……解決編ってところかな?」

「質問です。

 マスター、それはいったい」

「フフッ。

 では、お望み通りの解決編へ参りましょう」



 夕焼けに染まりつつある景色の中、

 住宅街へ向けて鹿の子は歩き出す。



 鹿の子は歌うように口ずさんだ。


「誰が怪盗事件の犯人なのか?

 どうやって犯人はカードを盗んだのか?

 については、既に解決済みでしたね。


 それでは残りの――


 なぜ、カードを盗まなければいけなかったのか?

 

 お願いしますね、主良くん。

 ボク……ホワイダニットは、苦手ですので」

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