第30話 主良はなぜ探偵に協力するのか
と、こんな感じで。
《”死ノ怪盗”ナラク》について振り返ってみたものの。
「そういえば、ナラクもリミテッド・ワンか」
主良はアナエルに問いかける。
「アナエル、君もそうだし……
千影のシケイダも」
「肯定します。
いずれもリミテッド・ワンです、
これまで実体化したとされるスピリットは」
もしかして、それが実体化の条件?
それを突き詰める前に、気になることがある。
「鹿の子さんがナラクのマスターだっていうことは……まさか、君がナラクに泥棒をさせてるのか!?」
「ふわっ……な、なぁにを言っているんですか主良くんは!?」
クールな雰囲気を投げ捨てて、
鹿の子は紅茶を吹き出す。
アナエルも「肯定します!」と緊急同調した。
「鹿の子は名探偵になりたいガール。
略してなりたガール。
そこで自分の精霊であるナラクに、
カードを盗み出させて――
自分の手で解決して、
名探偵になろうとした、と。
完璧です、マスターの推理は!」
「まぁ……そんなところだろうね」
「ぜんっぜん、完璧じゃありませぇん!
そんな穴だらけの推理、ボクは認めませんよ!」
じゃあ――もし、鹿の子が計画犯じゃないとしたら。
「なぜ、鹿の子さんはナラクが犯人だとわかるんだ? それに、鹿の子さんのそばにナラクがいないのはどうして?」
「……ナラクがいなくなった理由は、わかりません。ボクはホワイダニットは苦手なんです。探偵の本分は、フーダニットとハウダニットにあるのですから」
アナエルはきょとん、とした様子で首をかしげる。
「ホワイダニット?
フーダニット??
ハウダニット???」
わからないのも、無理はない。
「(一般的な言い回しではないもんな……)」
鹿の子が口にしたのは、
ミステリにおけるジャンルの分類だろう。
以前に、何かのドラマで見たことがある。
「たしか……ホワイダニットはホワイ(Why)――「なぜ、やったのか」。フーダニットはフー(Who)――「誰が、やったのか」。ハウダニットはハウ(How)――「どうやって、やったのか」。……で、いいんだっけ?」
鹿の子はニッコリして親指を立てた。
「バッチグーです。
主良くんとは趣味が合いそうですね」
「バッチグー、って。
鹿の子さん、ホント何歳なんだよ……」
ともあれ。
鹿の子の言うことが合ってるとしたら――
「ホワイダニット――なぜ、怪盗事件が起きたのかはわからなくても。フーダニットとハウダニットについては、もうわかってるってことなのか?」
「名探偵をナメないでください。フーダニットは、ボクの精霊であるナラクと特定済み。犯行方法たるハウダニットについても、とっくに推理が出来ています」
鹿の子の話によると――
犯行があったのは、昨夜の夜更けのこと。
前日に買取見積もりとして預かっていたカードを含めて、
店の中の金目のカードが、
ごっそり盗まれてしまった――らしい。
朝、店長さんが出勤して店に入ると、
カードがなくなっていたことに気づいた。
監視カメラに映っていた人影もなく、
鍵も壊された様子は無かったとのことだ。
ここまでの話を聞いて、
主良には引っかかることがあった。
「……買取見積もりとして預かっていたカード?
妙だな」
「疑問です。
何が妙なのですか、マスター?」
「うん……俺も以前、『オネスト』には使わなくなった中古のカードを買い取ってもらったことがあるんだけどさ。そのときには即日で査定を出してもらって、そのまま買取まで行ったから……わざわざ一晩あずかるってのが変な気がして」
閉店間際に持ち込まれたか、
あるいは――
「すぐには見積もりが終わらないくらいの量だった、か」
「主良くん、鋭いですね。そこに目をつけるとは……名探偵である、このボクの助手としての自覚が出てきたようで、何よりです」
「助手って……俺はまだ、鹿の子さんに協力するなんて言ってないぞ」
そりゃ、店長さんが被害に遭ってるんだし、
犯人は捕まってほしいけど……
「(この自認名探偵は、どうにも胡散臭い……)」
「マスター、マスターっ。
マスターが名探偵の助手になれば……
なれるのでしょうか、
切札も助手に!」
アナエルはノリ気っぽいけど。
「……で。
鹿の子さんの推理を聞かせてくれよ。
ナラクはどうやってカードを盗んだんだ?」
「それはもう、カードの精霊らしく。
カードとして侵入したのですよ」
「……なんだって?」
鹿の子は得意げに推理を披露する。
「カードの精霊であるナラクは、カードである状態と実体化した状態を自由に使い分けることが可能です。ナラクは前日に買取見積もりに出されたカードの中に紛れ込んで店内に侵入した。そして誰もいなくなったところを見計らって実体化した――ナラクには通常次元の生物には見えなくなるDステルスの能力があります。きっと、その能力で自分ごとカードを隠しながら、翌朝に鍵が開いた瞬間を見計らって逃げ出したのでしょう」
なんだか、初耳の話ばかりだが。
「ちょっと待ってくれよ。
Dステルスでそんなことが出来るなら、
最初から能力で忍び込めばいいじゃないか?」
「見えなくなるだけで、存在を消せるわけじゃありませんからね。きっと念には念を入れたのだと思いますよ。でも、そのおかげで――犯行経路の特定が出来ました」
犯行経路。
鹿の子の推理が正しければ、
怪しいのは――前日に買取を持ち込んだ人になる。
「前日に持ち込まれた大量の買取カード……その中にナラクがまぎれこんでいたとしたら、そのカードを持ち込んだ人間とナラクが手を組んでいるか、あるいは利用されていることになるが……」
それよりも、主良には気になることがあった。
「ナラクは、実体化した後も自由にカードに戻れるのか?」
「ええ。ボクの元からいなくなる前にも、
何度か見せていましたけど……
ははぁん?」
鹿の子は主良とアナエルを見て、ニヤニヤした。
「なるほど。アナエルがそんな恰好をして主良くんとデートしていたのは、単に美人の彼女を見せびらかしたいだけじゃなくって……うぷぷ。どうしても、連れまわしておく必要があったと。ボクには推理できましたよ。これは主良くんにとってはのっぴきならない事情であり……察するにアナエルは、自分がカードに戻る方法を知らないのですね?」
「肯定します。
切札はカードに戻る方法を知りません」
「推理は合ってるけど。
腹立つ笑い方だなぁ……」
「いいでしょう、ならば主良くん。
交換条件といきます」
鹿の子は口元を歪めて、指を振った。
「ボクの捜査に協力してください。
そうしたら、教えてあげましょう――
カードの精霊が、カードに戻る方法を、ね?」




