第29話 ”死ノ怪盗”ナラク
《”死ノ怪盗”ナラク》と言えば、
スピキャスでも群を抜いて知名度が高いカードである。
登場したのは、今から20年ちょっと前だ。
現代ではおなじみになったキーワード能力「Dステルス」が初めて実装されたカードであり、その優秀なスペックから、グッドスタッフカードとして闇エナジー絡みのデッキではとりあえず4枚採用から始まることが多い強力なスピリットだった。
では、早速効果を見ていこう。
《”死ノ怪盗”ナラク》
種別:スピリット
エレメント:闇
コスト:3
タイプ:シャドウ・スライハンド
パワー:3000
バースト:2
効果:
Dステルス
このスピリットの攻撃によってプレイヤーにダメージが与えられた場合、ダメージの代わりにこのスピリットのバースト値に等しい枚数のカードを相手のデッキから選んでゲームから除外する。その後、デッキをシャッフルする。
相手のデッキを見てカードを選択し除外するという、”相手のカードを盗む”怪盗のフレーバーを再現した特殊な効果を持つカードである。
自身の攻撃が通った際に発動するサボタージュ能力とDステルスの噛み合いは良いものの、登場当初の評価は低く、意外にも、いわゆる”カスレア”扱いされているカードでもあった。
評価が振るわなかった原因は、その効果が直接的に勝利に結びつくものと考えられていなかったためだろう――。
デッキ破壊戦術に貢献するという見方もあったものの、当時のカードプールでは実戦レベルのデッキ破壊は一部の瞬殺コンボデッキしか存在せず、ナラクを採用する余地はない。
このまま、数多のカスレアと同様に、ストレージの山に埋もれていくものと誰もが思ったカードの一枚だったのだが――実際に当時環境トップだった【水闇グッドスタッフ】に採用されると、その評価は一変した。
スピリットキャスターズNEXTにおけるデッキ枚数は(エナジーデッキを除いたメインデッキに限れば)40枚。
一種類のカードは最大で4枚まで。
ナラクの攻撃が一回通るたびに、デッキからはカードが2枚奪われていく――つまり、ナラクの攻撃が2回通った時点で、4枚投入されたカードもデッキから全滅することになってしまう。
これはあらゆるデッキの動きを否定しかねない強力なムーブである。
中でも、数種類のキーカードに頼るタイプのコンボデッキは、ナラクの攻撃を通した時点で事実上の敗北が決定してしまう。
これらのデッキは、ナラクの登場によって競技シーンからことごとく駆逐されることになってしまった。
スピキャス独自のシステムである、リミテッド制もナラクの活躍を後押しした。
どのデッキにも切札として採用されている、1枚投入のリミテッド・ワンや2枚投入のリミテッド・ツー……こららはナラクがワンパンするだけでデッキから消滅する。
”リミテッド・キラー”の異名を取ったナラクが、皮肉にも自身がリミテッド制によって処されることになったのも不思議な話ではない。
そうしてついに、ナラクが規制される時が来た。
等級はリミテッド・ゼロ。
デッキに1枚も入れることができない、
名実ともに”禁止”の烙印を押されたカードである。
その重すぎる規制については、カードパワーもさることながら、”スピキャスの売りであるリミテッド制を否定している”、”ゲーム中に対戦相手のデッキに触る機会が生まれるので、競技環境ではトラブルが続発した”など複数の理由が重なったものと言われている。
そうして、ナラクは伝説のカードとなったのだった。
全ては歴史上のクロニクルだった。
数日前――リミテッド・ワンに緩和されるまでは。




