第28話 第三のマスター
「猫草は吉良吉影が勝手に利用してるだけだし、セッコは本心ではチョコラータへの情が無かったし、恥パはこう……諸説あるし(俺は好きだけど)」
「ジョジョが通じるとは……
いまどきの若者にしては見どころがありますね」
「君だって俺とそう年齢は変わらないだろ?
ええと……」
いまいちピントがズレた喩えを連発する少女は、
気取った様子で自己紹介した。
「ボクは名探偵の春井夏鹿の子です。怪盗あるところに名探偵あり――事件がボクを呼んでいる!」
「あ、あぁ……俺は黒羽 主良」
鹿の子で「しかのこ」って読むのは珍しい気がする。
普通は「かのこ」って読むことが多いんだが。
まぁ、そんなことよりも――
「名探偵って……何か実績とかあるの?」
「CS ①×1 ②×2 ③×5 ベ4×4 ベ8×16」
「それはSCPとしての実績だろ!」
カドショにいるって時点で予想はしてたけど……
どうやら、この子もカードゲーマーらしい。
「実績なら」と、
店長さんと話していたお巡りさんが言った。
「一応、あるみたいですよ。先ほど、カードショップ強盗団『ゾンビズ』のアジトを突き止めて、警察が逮捕する手助けをしたみたいで」
「えっ、じゃあ本当に名探偵なのか!?」
「尊敬します。名探偵、かっちょいいです……!」
サファイヤの瞳を輝かせるアナエル。
鹿の子は、ふふんと気持ちよさそうに笑う。
「ご依頼なくとも、おせっかい。
ボクがいるかぎり、世に悪の種は栄えません」
まぁ、とお巡りさんは続ける。
「それはそれとして。名探偵であろうと、
一般人に捜査情報は共有できないんですけどね」
「そんなぁ!
名探偵と警察は蜜月の仲のはず。
せっかく、そのために実績を積んだのに」
鹿の子の言い方が少し引っかかる。
「そのために、って……鹿の子さんは、この怪盗事件を捜査するために実績を積んだってことなのか?」
「怪盗に対抗できるのは名探偵だけ。
この事件は警察には解決できません。
なぜなら……犯人は正真正銘のナラクなのですから」
「えっ……!?」
名探偵を名乗る少女の、
漆黒の瞳が妖しく光った。
鹿の子は不意に主良に近づくと、
周りに聞こえないように耳打ちする。
「どうやら、君の協力が必要かもです。
お願いできますか――
アナエルの、マスターさん?」
場所を変え、喫茶店にて。
「どうして……
俺がアナエルのマスターだってわかったんだ?」
「初歩的な推理ですよ」
ズズズ、と紅茶を飲む鹿の子。
「隣の女の子を見れば一目でわかりました。アナエルそのものの美貌。アナエルそのもののスタイル。それに”カッコいいものが好き”、という奇矯な言動までもが、スピキャスのアナエルと一致していますからね――その上で、なぜか主良くんのような冴えない男の子が彼女同伴でカドショ通いしているという違和感」
「冴えなくて悪かったな……」
あと、設定的には彼女じゃなくて従姉妹だから。
「それら全ての違和感は”カードの精霊が実体化している”という前提に立てば解決可能です――つまり、主良くんは実体化したアナエルのマスターなのだと。これがボクの推理です」
「まぁ、結果だけ見れば合っているが……」
アナエルは声色を低くして言う。
「否定します。
冴えなくなどありません、マスターは。
切札のために一生懸命にデッキを組んでくれました。
要求します、推理の訂正を」
「ひっ……!
わ、わかりました。
推理を一部訂正します……!
主良くんとアナエルは、
お似合いのゲロマブ☆カップルです」
「だからカップルじゃないって」
待てよ。
その推理には、穴が存在する。
「鹿の子さんはどうして”カードの精霊が実体化している”ことを知っているんだ?」
「何故も何も。
ボクとて、マスターの一人ですからね」
先ほどの醜態を忘れたかのように、
鹿の子は両手を広げて、くすりと笑った。
「怪盗事件の犯人――
《”死ノ怪盗”ナラク》は、ボクの精霊ですから」




