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第26話 へぇー、デートかよ

 翌日のこと。


 主良しゅらは珠玉のデッキを手にして、

 行きつけのカードショップ『オネスト』に向かっていた。


 禁止制限改定が施行された新環境後、最初の週末。

 SCPの多くは握るデッキに迷っている中で――


「へへっ。完璧なデッキだ……!」


 主良の選択に、迷いは無い。

 握るのはもちろん【神造野災】である。


 カードの精霊・シケイダが起こしたリアル温泉ループの夢によって、一晩にしてアナエルのためのデッキが完成してしまった――。


「これもシケイダのおかげだなぁ。

 見た目は怖いけど、

 意外と良い奴だった……」


 シケイダ――いや、シケイダのマスターである千影ちかげが不安に思っていた「アナエルの専用デッキが紙束になるんじゃないか」という不安については、現状は杞憂になったと考えていいはずだ。もちろん、環境最強デッキだとか、全対面有利主張だとか、詳しいデッキレシピとデッキ別ごとの立ち回りは記事の有料部分でだとか、そんなところまではいかないが――新環境が想定通りのメタで回るのなら、そう通りは悪くないデッキが組めたはず。


 アナエルを実戦の場で活躍させる――

 そう思うだけで、胸が躍る。


 隣にいたアナエルがひょい、と首を寄せた。


「質問です、マスター。

 ちーとシケイダはどうしたのですか?

 朝から姿が見えませんが」


「千影の方は、朝から千葉県のCSに乗り込むらしいよ。あいつがウチに帰省するときは、だいたい関東圏のCSをハシゴするためのビジネスホテル代わりって感じだしね……。シケイダの方は、擬態するためのカードを探しに行くとか言ってたな」


 現実に具現化したスピリットは、自身の持っている能力をある程度操ることが出来るらしい。スペルを踏み倒す効果を持つシケイダは、温泉ループのときのようにスペルカードの力を操ることができる――それを使って、擬態する力を持つカードの力で人間の姿を取ろうとしているようだった。


「アナエルの場合は、見た目は人間そっくりだけど……シケイダはあの蝉頭じゃ、宇宙人かなにかだと思われそうだし。擬態する前に通報されないといいんだけど」


 アナエルは無表情のまま、

 得意げにうなずく。


「肯定します。

 切札は違和感がありません。

 どこからどうみても、

 マスターの彼女です――

 ええ。

 出るとこ出ても、

 恥ずかしくないと主張します」


「言っとくけど、彼女ではないからね……!

 従姉妹、って設定でいくからっ!」


 カドショに彼女連れなんて、

 感じ悪いことこの上ないだろ……!


「(……本当にそうだったら、嬉しいけどさ)」


 隣に立つ、アナエルの姿は――

 例のハダカみたいなボディスーツではない。


 白を基調にしたブラウスに、

 柔らかな色味のロングスカート。


 これはアナエルの能力である元素変換によってコピーした、千影の私服だ――見慣れていたはずの義妹いもうとの装いのはずなのに、カードから抜け出してきたように現実離れしたアナエルの美貌と合わさると、まるで、本当にデートでもしているかのような高揚感が湧いてくる。


「ちーの服はどうでしょう、マスター。

 不自然でなければよいのですが」


 視線を上に上げると、アナエルと目が合う。

 じっ――と互いに見つめ合うと、

 主良は自分の胸がドキリと高鳴るのを感じた。


「まぁ……似合ってる、と思うよ」


 銀色のツインテールを揺らして、

 アナエルは指でピースをする。


「勝利のVサイン。

 好感度が上がりました、マスターの。

 切札の勝ちです」

勝利宣言ビクトリー・ラッシュ・アナエル「ヘッド」やめろ」


 スッ、とアナエルは手をバッテンにする。


「それと、忠告を。

 マスターはおっぱいを見過ぎです。

 好感度が下がりました、切札の」

「さんざん、自分でアピールしてたくせに……!」


 待てよ。

 アナエルのあのサイズで、

 千影の服がそのまま入るってことは――


 いや、これ以上は考えるのをよそう。


「そう言えば」と、アナエルは言う。


「まだ、ちーがループの記憶を保持する前に……

 マスターは言っていましたね。

 ちーは可愛いと。

 それと、切札のことが好きだと」


「はぁ……っ!?」


 そ、そんなこと……言ってたっけ?



☆☆☆


「千影が可愛いことに、疑問の余地はないだろ。

 俺だってずっと可愛いと思ってたし。

 好きな女性のタイプは千影に破壊されてるんだ。

 全破壊だ。

 今思うと、アナエルを好きになったのだって、

 たぶん……千影に似てるからだしな」


☆☆☆



(回想終了)


「言ってたーーーーーーッ!?」


 そうだ、あのときは――

 アナエルは記憶を保持してないと思ってたんだった。


「どうせ記憶がリセットされるからって……

 俺は、なんてことを……!」


 アナエルはもちろん――

 義理とはいえ、

 大事な妹の千影にあんなキモいことを……!


「全破壊ですね」

「うっせーわっ!」


 なんとしてでも、口止めしておかないと。


「アナエル。

 あのときのことは、絶対に千影には内緒だからね?」

「ぷふっ……肯定、ぷくく……します。

 絶対に……けけけ、喋りま……ぶふっ、せん」

「ポーカーフェイスのまま忍び笑いするなよ怖えな」


 ここは厳重に念を入れる必要があるな。


「アナエル、もし喋ったりしたら――

 今度こそ、

 君をデッキから追放するッ!」


「ええっ!?」


 これで大丈夫だろう。


 まぁ、今更アナエルをデッキから抜いたりしたら。

 それこそ、紙束になってしまうんだけど。



「(このデッキは……アナエルのためのデッキなんだもの)」



 そんなわけで、カードショップ『オネスト』に到着すると。


「やぁ、主良。

 突然だけど、店舗大会は中止になったみたいだよ」


 友人である法人のりとはとんでもないことを言った。


「中止!? なんで……!?」

「おや、そちらの方は?」


 主良の驚きをよそに、

 法人はかたわらのアナエルの問いかける。


「ああ、こっちは従姉妹の……」

「切札はアナエルです」


 あっ、お馬鹿っ!


「切札……アナエル?」と、法人は訝しげな様子だ。


「この子は、切札アナッ!

 スピキャスだとアナエルが大好きでさ、

 こうして見た目も寄せてるんだよ。

 は、ははは」


「アナ……なるほど。

 その髪型はそういうことか。

 私も一つ、賢くなったよ……」


「そんなことよりもっ!

 中止って、何があったんだ?」


 強引に話題を変えることにする。


 法人は店内のカウンターの方に視線を向けた。


「なんでも、盗難事件があったとか。

 店のカードが盗まれたらしい」


「なるほどなぁ。

 最近は高額カードも多いし、

 カードショップがよく狙われてるっていうけど。

 強盗が入ったってことか……」


 法人は「いいや」と首を横に振ってみせた。



「強盗じゃなく――()()だそうだよ?」

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