第25話 温泉郷でデュエル三昧! 紙じゃない、神だ!(後編)
「プレイします、
《DNA混成術-アクロバクテリウム-》を」
「無駄と知れ。
一切合切、通しはせぬ。
《全否定》で妨害――ッ!」
次ターンには7エナジーに到達し、
シケイダが着地するという局面。
既に無限ループコンボの仕込みも終わり、
シケイダは自身を召喚するだけで、
悠々と勝ちを拾いに行く構え。
しかし現代スピキャスにおいて――7エナジー域のスピリットがゲームエンドをもたらすというのは、当たり前のこと。
アナエルの方でも、
いつでもゲームを終わらせる準備は出来ている。
アナエル自身を素材とした錬成さえ通れば。
主良も千影も、
ここまで来たら後は趨勢を見守る他ない。
「(アナエル……動くなら、今だ!)」
「シケイダ……がんばって……っ!
私のデッキで、
アナエルさんをぶっ殺せ……!」
《全否定》の妨害を吐いて、
シケイダのエナジーがロールした。
スピキャスではカードを使用するためにはエナジーのロールが伴う――この状態でなら、シケイダはこれ以上の妨害を打てない――本来ならば。
「俺の読みでは、シケイダはきっと《インターフェア》を抱えている。手札を2枚切ることによって、エナジーをロールしなくても代用コストで唱えることが出来る強力な妨害カードだ。だが、3枚ものカードを使うハンド・アドバンテージの喪失は、シケイダにとっても痛いはず……。それにシケイダ本体か、コンボパーツのどちらかがコストとして墓地に落ちれば、次ターンでのコンボ成立は咎められる――!」
それでも、返しのターンでの今引きはケアできないが。
ここで動かなければ、どのみち負けだ――!
アナエルが動く。
手札からカードをプレイする――
錯覚だろうか?
その動きが、光る軌跡のように見えた。
ここで唱えたのは、
スピリットキャスターズの頂点に立つカードの一つ。
「フィールドスペル。
《ジーン・マッピング》を発動しますッ!」
妨害するべく手札に触れたシケイダが、
まるで凍りついたように静止した。
そうだ。ここは止まる他ない。
「フィールドスペルのプレイには、インタラプトしてカードの発動・効果の発動をすることが出来ず――フィールドスペルで展開された領域効果は、領域効果以外でのいかなる効果によっても無効化されず、妨害されない。これがスピリットキャスターズNEXTの基本ルールだからな……!」
スピリットキャスターズNEXTの前身となったDCG、スピリットキャスターズには「フィールドスペル」という特殊なスペルカードが存在した。
それは「フィールド」という特殊な領域を展開し、互いのプレイヤーに対して平等に総則を強いるというもの。
「フィールドスペル」最大の特徴は――領域の展開は同じ領域の展開でしか咎めることができず、領域の押し合いでしか領域を無力化できない。
これは「フィールドスペル」こそが全てのカードの至高に君臨する究極のカード・タイプである、というゲームストーリー上の要請から生まれたトップダウン・デザインだったのだ。
☆☆☆
何事にも例外は生じる。
スピリットキャスターズにも、もちろん。
他のカードゲームには存在しない、
究極のトップダウン・デザインがある。
☆☆☆
スピリットキャスターズを継承した、
スピリットキャスターズNEXTにも――
10周年を記念したタイミングで、
ついにフィールドスペルが実装されることになった。
DCG時代とは異なり、スペルカード自体が場に残るような処理になったり――領域の押し合いについては領域のグレードが関係なくなり無条件に相殺されるようになるなど、いくつかの修正はあったものの。
妨害が通用しないという、
最大の特性はそのままで実装されたのだ。
「これ不覚。
妨害カード、無力とは……」
シケイダが妨害しなかった――
否、できなかったことで領域が展開され始めた。
精霊同士のデュエルは、
カードのエフェクトが実体化する。
フィールドスペル《ジーン・マッピング》
によって、新たなルールが敷かれる――
これは、そのルールの具現。
地面から屹立するのは、
複雑な計器が付いた謎の機械柱。
機械柱と機械柱のあいだには、プラズマ放電によって発生した球が飛び交い、周囲に張られた電線には青白い電光が走っている。
続いて、透明なカプセルがいくつも現れた。
それぞれのカプセルは植物の塊のような生態標本が浮かび、それぞれのDNAを解析した設計図がコンピュータのコンソールに描画されている。
空想科学の世界を具現化した、
秘密の研究所――
アナエルはその名を宣言する。
「多層世界拡張命令――
[新時代蝕霊寺宮ディザスター・プラント]ッッッ!」
領域が展開されると同時に、
アナエルは領域効果を行使する。
対応して、シケイダもカードを使用した。
「発動します、
ディザスター・プラントの領域効果を!」
「インタラプト。代用コストで、
《簡易空処―ノーカントリー》をプレイしますぞ!」
コストの支払いとして、
シケイダは手札から水のカードを墓地に送る。
墓地に落ちたのは《銀の鍵》。
手札の枚数から逆算して、
《インターフェア―》は無かった可能性が高い。
そう考えると、序盤のシケイダの動きは――
「千影仕込みのブラフか……っ!?」
「《インターフェア―》を意識させれば、
動きを縛れるからね……っ!
きひひ、お兄ってば騙されやすぎ」
シケイダの唱えたインタラプト・スペル――
ノーカントリーで展開された空白の領域によって、
アナエルの領域は相殺される。
”空”に塗りつぶされて、
ディザスター・プラントは消滅していった。
領域の発動は妨害できないが、
一度発動した領域を新しい領域で上書きすることは可能だ。
「だが――
発動を宣言した領域効果が消えることはない!」
拳銃を破壊したとしても、
既に発射された弾丸は止まらない。
これはカードゲームの基本的な挙動である。
止められるか、アナエルを!
「[新時代蝕霊寺宮ディザスター・プラント]の領域効果により、切札は1ターンに1度だけ、墓地のベジタリアンをコストにして錬成を実行できます」
アナエルが墓地から選択したのは、
《瞬足の野災キャロット》と、
《次世代神造姫アナエル》だ。
アナエルは錬成時には任意のタイプになることが出来る――ベジタリアン扱いとして使用可能だ。
それだけではない。
任意のカード名として扱うということは――
「切札は切札のカード名を《一代貴種災嬢クリムゾン・ペッパー》として扱い、実行します。――クロス・ユニゾンをっ!」
クロス・ユニゾンとは、ユニゾン・スピリットを素材にした錬成の俗称だ。カード消費の激しいユニゾン・スピリットを素材として、更にカードを消費するため――本来ならば錬成の難易度は非常に高い。
錬成素材代用カードが存在するテーマならば、ユニゾン・スピリットの代用を用いることでクロス・ユニゾンの要求値を下げることは出来るが――【野災】はテーマ内には素材代用カードを有していない。
そこで、アナエルである。
アナエルの代用効果には一切の縛りが存在しないのだ。
主良の想定通りにデッキは回っている!
「地のベジタリアンと、アナエル。
この2枚のカードを素材に、
墓地錬成さえ出来れば……!」
アナエルはアストラル・ゾーンに手を伸ばす。
「ファイロ・ゲノミクスに申請。
共鳴条件は
《一代貴種災嬢クリムゾン・ペッパー》と、
地のベジタリアン1体。
燎原を駆ける野火の具現よ、
肥沃なる大地に埋もれし災いの種よ。
二重らせんの導きに従って、
蝕霊計画の一翼を担え!
虚ろなる大樹――
《空心災龍ヴォイドマター・ドラゴン》ッ!」
決まった――!
異次元たるアストラル・ゾーンから召喚され、
盤面に出現したのは、
その巨体が植物で構成された龍だった。
高木神を思わせる体内の虚無には、火のエレメントが燃え盛り、目と口からは行き場を失くした緑色の炎が瘴気のように噴出している。
虚ろなる大樹――
世界樹タカミムスビの落胤、
ノヴァウルドーの黒炎に鍛えられ、
命なき大地に芽生えた、
存在しない竜の似姿をとる疑似生命樹。
偽・ファイロゲノミクス――
虚数灰子は命あるものを灰燼に帰す。
「発動します、
ヴォイドマター・ドラゴンの効果を。
ご存じですね……シケイダ?」
「――無論っ!」
ヴォイド・マターが吼える――ッ!
このスピリットの効果こそが、
対・コントロールデッキにおける最終兵器。
「このスピリットがログインしたとき、相手の場のスピリットと手札と墓地を全てデッキに混ぜてシャッフルし……その枚数分まで、切札はデッキからカードを墓地に送ることが可能です。
――イベント・ホライズンッ!」
シケイダの墓地から、コンボパーツが消失する。
それだけではない――
手札も全てデッキに戻る。
次のターンに着地するはずだった、
《電脳執事Cicada Marl/575》も。
一方、アナエルの墓地は更に潤沢になった。
墓地に《再帰の野災ビーン・スプラウト》が落ちた以上、次のターンになれば再びユニゾン・スピリットを展開できる。
これで、勝負は着いた。
次のターンのドローに賭ける
シケイダだが、振るわず。
一方のアナエルは
返しのターンに続けて錬成し、
シケイダのライフを削り切った。
アナエルは表情を変えないまま、跳ねる。
「切札の勝ちです。いぇい」
アナエルが両手で現すのは、
勝利のVサイン。
シケイダは笏を取り、フォフォフォと笑った。
「勝負あり。
負けは負けです、某の――」
次期環境における覇権候補テーマに、一勝。
当初の目的である――
「デッキの可能性」を見せるには。
まだ、足りない気がする。
「ああ。まずは一敗、だな」
主良がそう言うと、
シケイダは蝉頭を不思議そうに傾けた。
「まずは、とは……?」
「スピキャスはBO3(3本勝負)が基本なんだから、まだ1戦目が終わっただけだろ? 今のはシケイダも初動につまずいてたしな。わからん殺しもあっただろうし」
千影もうんうん、と同調する。
「っていうか、シケイダはプレイング下手すぎ。後ろから見てたけどさァ……対面的にアナエルさんのキルターン考えたなら、まずは《ショウマスト・ゴーオン》を探しに行った方が丸いでしょ。あれ1枚で全然詰ませられるんだし。二戦目はサイチェンから枚数増やしていくよ?」
「ぎょ、御意です……」
というか、あらためて調整熱が湧いてきた。
「うーん。っていうか、次は俺がやってみようかな」
「肯定します。
切札も、マスターのプレイングが見たいです」
「あーっ! じゃ、次は私がやるぅ!
シケイダ、デッキ貸して……!」
「お嬢様、ここは某に、お任せを。
まだまだやれる、存じますとも」
「58577だ……」
「切札は指摘します、俳句の質が低いと」
「んーっ。
っていうか、俳句って季語が必要なんじゃない?
……ねぇ、シケイダ?」
「季語?」
「そこからなのかよ」
そもそも環境にいるのは【シケイダループ】だけじゃない。
デッキを変えて、対面ごとの立ち回りを研究しないと。
なぁに――
主良は《銀の鍵》こと、ルームキーを手にする。
「時間はまだまだ、あるんだもんな」
あ。でも、藤原さんは帰してあげた方がいいよな……。
(※帰してあげることになった)
ここまでご愛読ありがとうございます!
シケイダ編はここで完結、次回からは新たな精霊・ナラクが現れます。
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