第22話 バトルフォーム
デッキを取り出したシケイダは、
ふむ――と腕を組んだ。
「記憶保持、千影お嬢は計算外――」
「576だな」と、主良。
「兄者殿、うるさいですぞ。……ループをより多く維持するため、周回ごとの記憶を保持しないようにプロテクトしていたものの……いよいよ千影お嬢様にもプロテクトの破れが生じているようですね。ここは、ふたたび記憶を保持できなくするように再プロテクトする必要があるようでございます」
主良には疑問があった。
「なぁ、どうして千影だけは記憶を保持していなかったんだ? 俺やアナエル、店員の藤原さんはループの記憶を保持していたのに」
「兄者殿や藤原殿、アナエルめが記憶を保持し始めたのは、ループ全体で言えば終盤も終盤でございます。千影お嬢様は特に厳重にかけていたので、破れが生じるのが最も遅くなっただけのこと……」
「なんだって!?」
主良が記憶してるのは、
せいぜいここ数十回程度のループだったが――
「本当はもっと多くの回数のループをしていた……!?」
「左様です。ループ総計、五億回。
端数切捨て、飛んで三万」
「とんでもないことしてたんだな、お前」
ここで記憶保持が出来なくなるように
再プロテクトされたら――
また五億回ってことになる。
「そうはさせない。
デッキ調整は終わったんだ。
あとは実戦でフィードバックしていく……!」
主良はデッキを取り出した。
ここは夢の世界――
イメージした40枚のカードが、
そのまま手にしたデッキと化した感覚がある。
スッ――と隣に立ったのはアナエルだった。
表情は凛として変わらない。
だが、そこには決意の火が見て取れた。
「肯定します。
実戦の中で理解してもらいましょう。
シケイダに――切札たちの覚悟を」
主良とシケイダ、
二人のカードゲーマーが互いに対峙する。
シケイダは傍らの千影に向かって、蝉頭を向けた。
「お嬢様、デッキをお借りします。
某はあなたの望みを叶えるため、
兄者殿を説得してみせますとも」
「シケイダ・マール……
ループをするのが、私の望みだと思ってるの?
ずっと、ここで……
お兄と、スピキャスをするのが……」
こくり、と無言でシケイダはうなずく。
「これは忠。要らざるものと、言の葉も。
真意知れとも、成すべきを成す」
シケイダが執事服に通した袖をかざすと、
そこにホルダーのような機械が現れた。
懐から取り出したのは空白のカード。
カードをホルダーにセットすると、
軽快な機械音声が響いた。
[Cicada――!]
透明なカバー越しに、
空白カードに絵柄が浮かび上がったのが見える。
《電脳執事Cicada Marl/575》、
そのイラストが色鮮やかに復活した。
同時に、和楽器の笛が奏でるような雅な音声が流れだす。
笛の音色の合間合間には、
マスターである千影のクセでもある、
カードをはじくような音が合いの手として入っていた。
「か」
アナエルが小さく呟いた。
「アナエル、どうしたの?」
「か。かっちょいい、です……!」
表情こそ変わらないものの、
アナエルの瞳はどこか煌いており、
感嘆するように、ほぅ……と口を開けていた。
待機音声が流れる中で、
シケイダは機械にデッキをセットする。
[【CicadaLoop】ッ!]
セットされたデッキが高速でシャッフルされる中、
三枚のキーカード――
銀の鍵、ウィスタリアテイカー、スパイラルウェーブ――
をモチーフにしたカードのエフェクトが出現し、
シケイダを取り囲んだ。
「礼装」
両手を広げたシケイダの元に、
エフェクトが殺到する。
光に包まれるシケイダ――
眩しい光が晴れると、
フォフォフォフォフォフォフォフォ
フォフォフォフォフォフォフォフォ
冠を被り、
笏を持ち、
黒色の単をまとい、
まるで平安時代の歌人のようないで立ちをした、
シケイダ・マール575が立っていた。
その姿はまさに、
札を取り、
札を操る、歌人なり。
「これこそが、
決闘礼装、某の」
「585。なるほど、決闘礼装か――」
よくわからないが、
バトルフォームってことだな。
「へ、へぇ……ちょっとカッコいいじゃん。
蝉だけど……」と、
どうやら、千影もまんざらではなさそう。
こんなものを見せられたら、
主良視点では次の展開が予想できる。
隣にいたアナエルを見ると、
「再錬成――」
うん、予想通りだ。
以前にもやっていた、
元素を変換して物質を生成する錬金術の力で――
「――完了」
アナエルの左腕にはシケイダのものと同じ、
謎の機械が装備されていた。
「アナエル、それは、何?」
「アナエルドライバーです」
「そう……」
もう、どうなってもいいや。
アナエルに空白カードとデッキを渡す。
空白カードをドライバーにセットすると、
[Anael――!]
失われていたイラストが復元され、
美麗なシークレット版のイラストがカードに蘇った。
「おっ、イラストが戻った!」
テンポの速い電子音声のBGMが流れ出す。
これが、アナエルの場合の待機音声らしい。
荘厳な電子オルガンのような音色がテンションを上げてくる。
アナエルはそのまま、デッキをセットした。
[【|Heart・Disaster】ッ!]
デッキがシャッフルされていくと同時に、ニンジンやカボチャ、ナスと言った色とりどりの野菜がエフェクトとして現れて、アナエルの周りを踊るように跳ねる。
「変身ッ!」
アナエルが腕を上げてポーズを取ると、
周囲の野菜が一斉に燃え上がった。
浴衣の布地は、光の粒となってほどける。赤い紋様の軌跡がアナエルの周囲を巡り、下ろされていた髪がふわりと持ち上がった。
銀色の糸のような髪はツインテールとしてまとめられていく。束ねられた髪が肩口で跳ねて、サファイヤの瞳が澄んだ湖のように強く光る。
そして、浴衣の代わりに現れたスーツには変化があった。
これまでの銀一色だったボディスーツとは異なり――アナエルの艶やかな身体曲線を包み込むスーツは、メタリックレッドを基調としていた。豊かな胸元や細い腰、すらりと伸びる脚のラインに合わせて、ゴールドの差し色が含まれている。
赤と黄。
これはデッキの色配分をそのまま反映させているようだ。
主良の組んだ新デッキは、赤色である火のエレメントを中心にしつつ、黄色である地のエレメントもタッチカラーとして採用したものである。
「これまでアナエルのスーツが銀色だったのは、
【神造】が無色エナジー単色のデッキだったから。
けれども――
新たに構築した【神造野災】は、
火のベジタリアンを中心にした有色デッキ。
デッキによってデザインが変わるんだな……っていうか」
アナエルとシケイダは声を合わせて唱える。
「「決闘、スタートッ!」」
……なんか、アナエルがバトルする流れになってないか?




