第19話 ループの黒幕、アナエルで確定か マスターのデッキ、切札によく馴染むぜ
「……遅いな、二人とも」
シャク、シャク、とスプーンをすくって口に運ぶ……ところで気づいた。
ループが再開している。
口元に残るのは、
ブルーハワイ味のシロップ。
だが、そんなことはどうでもいい。
「アナエルもループの記憶を保持していたのか……!?」
これまでは、そんな様子が無かったのに。
まさか、この旅館は――
困惑している主良の元に、
浴衣姿のアナエルと千影が現れる。
「かき氷のブルーハワイ。
抗議します。
マスターだけズルいです」
「お兄、私はいちご味ね……」
その様子は、これまでのループと何も変わらない。
アナエルは完璧なポーカーフェイス――
しかし、主良はもう同じではいられなかった。
「アナエル……!
もしかして、このループは君が起こしているのか!?
俺にデッキを組ませるためにッ!」
アナエルは表情を変えずに、ただ、首をかしげた。
「ループ……?
それは切札の効果ですか?
まだ、デュエルを始めてはいませんが」
予想外のリアクションである。
まさか、誤魔化せるとでも思っているのだろうか?
「前回のループで、君は言ってたじゃないか。
次の五時間でまた温泉に入る、って!」
「肯定します。
らせんの間をレンタルできるのは五時間です、
マスターが言ってたとおりに。
ですが、それを何回も繰り返せるようです。
なので、次の五時間と。
ちーと……また温泉に入るのが楽しみでした」
「温泉に?」
「ちーと温泉に入ります、時間が巻き戻ると。
ぽかぽかで、暖かいです」
ループの開始点の話、か。
「俺はループが開始すると、かき氷を食べている。
それから二人が来るまで時間があるから――
仮に同時刻にループの開始点が設定されてると、
アナエルと千影は温泉からスタートするのか」
主良とアナエルのやり取りを見て、
困惑してる様子なのは千影だった。
「ふぇ、お兄……ループって何?
アナエルさんも……
時間が、巻き戻ってるって……?
私、いちご味食べたい……」
「千影はループの記憶を保持してないみたいだな。
じゃあ……
アナエル、君はずっと記憶を保持してるのか?」
「肯定します」
「それなら言ってくれれば良かったのにさ。
毎回毎回、同じ台詞でかき氷をねだってたし」
アナエルは両手を頬に当てて、言う。
「美味しいです、ブルーハワイは。
何度、食べてもです。
ズルいです、
マスターだけ食べるのは」
かき氷は、美味しいけども。
お風呂上がりなら尚更だけど。
「それに、時間が巻き戻ってるって……
どう考えても異常事態じゃないかっ!?」
「謝罪します。そういうものかと思っていました、切札は。まだ詳しくありません、この世界について。それに実際のところ、そう言うマスターの方もループには順応していた様子だったかと」
「まぁ……デッキ組むのに都合よかったし、ね」
「付け加えるのならば――時空間の切り取り及び始端と終端の循環によるループは、切札の世界では珍しいものではありません――水のエレメントの魔術としては。フォールスカイ魔術学院でも、真カゲ流でも、蒼の一族でも、セイレン・パブケイブでも――時空間操術は、いたってオーソドックスな術式です。現に何度も繰り返していました、デュエルしていた時のちーも」
「千影が……?」
意外な名前が出てきたので、主良は千影に注目した。
「……いちご味、食べたいのに。
お兄が、無視するぅ……
私のこと、嫌いになったのぉ?」
「俺が千影を嫌いになるわけないだろ。
そんなことよりも、
千影がループを繰り返してたって……」
ふと、思い当たることがある。
「エクストラ・ターンの追加による無限ループ――!
そうか、【シケイダループ】かッ!」
スピリットキャスターズには、
「色の役割」と呼ばれる概念がある。
六色六種のエレメントには、
それぞれ得意とする戦術が振り分けられているのだ。
中でも、水のエレメントが得意とするのは――
「相手のスピリットの動きを封じたり、ネットに乗っかっている処理を強制的にスキップしたり、エクストラ・ターンを追加したりする強力な効果――それらはカードのフレーバーとしても「時間停止」や「時間の跳躍」といった、時を操る魔法とされてたな……!」
【シケイダループ】の核となるスペル、
《望郷歌・ウィスタリアテイカー》もそうだ。
これまで感じていた違和感に、
答えが与えられつつある。
「アナエル、千影。ロビーに来てくれ!」
主良はロビーの受付に走り出す。
この空間には、
主良・アナエル・千影の他にも、
もう一人だけ人間がいた。
ルームキーを渡してくれていた、店員さんだ。
もしかしたら……!
「ループコンボを完成させていたのは――
アナエルでも、
千影でもなく。
俺自身、だったのかもしれない……!」
「驚愕です。そうだったのですね、マスター」
「はぁ? 何言ってんの、お兄!?
まだスピキャスなんてしてないじゃん!
ってか、リミ1のアナエルで
ループするデッキなんてあんの!?」
そうだ、千影は俺よりもスピキャスに詳しい。
「千影、スピキャスwikiに載ってたセイレン・パブケイブのカード名の元ネタについて覚えてるか? wikiの記事によくモチーフとか載ってるよな!?」
「え……セイレン・パブケイブのカードモチーフは全部、百人一首に選ばれた歌人になってるけど――たとえばシケイダ・マールの場合は、シケイダは蝉、で蝉丸だし……」
蝉丸は百人一首に選ばれた歌人の一人。
たしか、坊主の札で……
これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
逢坂の関
ならば、あのカードも。
「でかした! じゃあ、
《望郷歌ウィスタリア・テイカー》の場合は!?」
千影はwikiの文章を思い浮かべながら、
まるで暗記のようにそらんじる。
「ええっと……”『聖決闘会戦挙編』の回想シーンにおいて、イサマルがエルに選挙の仕組みを計100枚のカードで説明する際に使用している。カードのモチーフとなったのは平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した歌人にして、『小倉百人一首』の撰者である藤原定家だろう。カード名の「ウィスタリア」とは「藤色(青紫色)」をさし、「テイカー」は「定家(ていか、あるいは、さだいえ)」をしめしている。「望郷歌」がさす意味には諸説あるものの……」
「そうだ、藤原!」
ルームキーを渡してくれた店員さんの、
ネームプレートにあった苗字は「藤原」。
それだけじゃない。
全ての回において、ループは主良自身が回していた。
★★★
いつも通り、
藤原さんからシルバーのキーを受け取り。
いざ、らせんの間にて――
★★★
夢うつつの世界において、
究極の門を開く《銀の鍵》は、
常に、俺の手にあったんだ。
藤原さんからルームキーを受け取り、
永劫のらせんに落ちていく。
★★★
「まずは《望郷歌・ウィスタリアテイカー》を解決。このターンの終了時にエクストラ・ターンを追加します。ウィスタリアテイカーをゲームから追放する処理が入りますが、追放対象のウィスタリアテイカーはネットに存在しないので、不発。次に《銀の鍵》を解決。デッキから《銀の鍵》と《スパイラル・ウェーブ》を選択。どちらを選びますか? はい、では《銀の鍵》を手札に、《スパイラル・ウェーブ》を墓地へ。最後に《スパイラル・ウェーブ》の効果で場のスピリットを最大3体まで持ち主の手札に戻します。575を手札に戻します。これで、処理終了です」
★★★
この空間はループコンボそのもの。
ルームキー/銀の鍵、
藤原さん/ウィスタリア、
らせんの間/スパイラル、
全てはコンボパーツの「見立て」なんだ。
真実に到達した今、
霧が晴れるように脳にかかったノイズが消失する。
温泉旅館の名前も思い出した。
この場所の名前は……
「決闘天然温泉・死刑打流布!
なにが【シケイダループ】だ……!
ふざけた名前しやがって!!!」
ロビーにたどり着く。
そこにいたのは、
藤色の三つ編みをした店員さんではなかった。
「蝉の……スピリット!?」
フォフォフォフォフォフォフォフォフォ
フォフォフォフォフォフォフォフォフォ
奇妙な動作で腕を揺らすのは、
異形の蝉頭に、蝶ネクタイの正装をした紳士。
主良たちSCPは、
このスピリットの名前を知っている!
「《電脳執事Cicada Marl/575》ッ!」
ここに来て、なぜ温泉なのかもわかった。
★★★
「千影の気に入ってた【シケイダループ】のキーパーツは575だったよな。あいつもリミテッド・ワンになっちゃったから、次の環境では使いづらいだろうけど……」
★★★
「規制されたカードは、温泉送りになる!
この旅館を構成する、
最後の「見立て」は……お前だ、シケイダ!」
シケイダは少年とも少女ともつかぬ、
怪しげな声で応えた。
「兄者殿――
決闘温泉、良い夢かな?」
アナエルに続く……第二のカードの精霊ッ!




