第17話 岬から潮風 トンネル抜け鉄塔へ
「……遅いな、二人とも」
シャク、シャク、とスプーンをすくって口に運ぶ。
――ピタリ、と手が止まる。
どうやら、また始まったらしい。
ラウンジでしばらく待っていると、
主良の元に浴衣姿の少女二人がやって来た。
アナエルと千影である。
「かき氷のブルーハワイ。
抗議します。
マスターだけズルいです」
「お兄、私は……」
…………ふぅ。
「アナエルはブルーハワイ、
千影はいちご味でいいな?」
「肯定します。感謝です、マスター」
「えっ……う、うん。
って、もう注文してたの!?」
「自販機だから、すぐ出たんだよ」
主良の手元にはかき氷が二つ。
二人の分を手渡すと、
アナエルと千影は美味しそうに食べ始めた。
「「おいし~~~(です)」」
なんだか、妹が二人に増えた気分……
っと。
「千影、あまり早く食べすぎるなよ。
冷たいものを一気に食べると、頭痛くなるから……」
「肯定します。
アイスクリーム頭痛ですね、マスター」
「えぇー……こういうのは体質だから、
スピードはあんま関係ないよぅ……って、
あ痛たたたたたたっ……!」
言われてみれば――
千影は子供の頃からなりがちだけど、
俺はどんなにバクバク食べても痛くならなかったな。
毎回、千影が頭を痛くするところを見るのは心が痛む。
「(次のターンでは、かき氷をあげないでみるか?)」
なんとなく、違和感に気づきつつある。
最初に違和感を感じたのは、
今から5ターンくらい前の話だが……
主良は確信した。
この温泉旅館は、何度もループしている。
「すみません、キーを……」
「どうぞ」
食い気味な勢いで、ルームキーが差し出される。
ネームプレートに「藤原」と付けた、三つ編みの女性店員さん――この人とは、何度目のターンかでアイ・コンタクトを交わすようになった。
どうやら、藤原さんもループごとの記憶を引き継いでいるようだ。
ルームキーを受け取り、藤原さんと軽く会話する。
「その、こっちは気づいてるのが、
俺だけっぽいんですけど……
店員さんの方はどうですか?」
「それが、私しかバイトがいなくて。
バイト仲間も社員も、どこにもいないんです」
「そうですか……。
とりあえず、俺はもう一周してみます」
「は、はい……」
藤原さん以外のバイトがいない?
ループ以外にも異常事態が起きているらしい。
よく考えたら、いくら午前中とは言っても――
主良たち三人しか客がいないというのは、変だ。
アナエルが無表情のまま、首をかしげた。
「マスター、先ほどの女性とは何を?」
「あ、あぁ……別に何でもないよ」
「ナンパですね」
「違うわ!」
「理解しました。ちーには内緒にします」
「目の前で会話してるだろ!」
「え、お兄……ナンパ……!?」
「肯定します。
ちー、マスターは獣族ですよ。野生開放です」
「ほら、らせんの間に着いたぞ」
純和室のふすまに、銀色のキーを差しこむ。
ん……?
何度となく繰り返してきた動作だけど。
「そういえば……和室に鍵、って珍しいな」
主良とアナエル、千影の三人は「らせんの間」を開ける。
室内は広々とした和室になっていた。
畳が敷かれた雅な部屋の風景に、
アナエルは何度目かの感嘆の声をあげた。
「まるでセイレン・パブケイブです。
元ネタなのですね、これが」
――何が起きているのかは、わからないが。
「とりあえず――調整する時間はいくらでもあるしな。
納得いくまで、デッキを試してみるか」
アナエルは不思議そうな声をした。
「否定します。
マスター、この部屋は五時間しか借りられないのでは?」
その五時間が、何度もあるんだよ。




