第16話 無限ループデッキって怖くね?
【シケイダループ】は、
《電脳執事Cicada Marl/575》を中心に据えた
無限ループデッキである。
清廉なる歌の魔力――
575の操る『セイレン・シャウト』は以下の通り。
召喚時効果:
手札、デッキ、墓地から異なる名前を持つスペルカードを1枚ずつ選択して、それぞれのコピーを生成して待機させる。その後、選択されたカードを全てデッキに戻す。この効果で選択するスペルはコスト5・コスト7・コスト5でなければならない。
要するにコスト5とコスト7とコスト5のスペルカードをエナジーコスト無しで踏み倒すことができる能力――自身はコスト7のスピリットでありながら、合計で17コストものカード効果を踏み倒すことができるという、強力なスピリットなのだ。
効果そのものが強力である反面――
同名のスペルカードは複数使用不可、
選択先も手札・デッキ・墓地から必ず一枚ずつ、
ログイン・ボーナスのため踏み倒しには未対応など、
下準備も必要なスピリットではあるが――
逆に言えば、専用デッキを構築したならば、
召喚させるだけで勝利に直結するカードだ。
たとえば、ほら、こんな感じで……↓
「「対戦、よろしくお願いします!」」
練習試合、五戦目――。
主良の使用デッキは【オイル&ウォーター】。
【オイル】と【ウォーター】の二種類のテーマのルートを同一のデッキに内包しつつ、専用の錬成スペルである《マザル・ド・リンク》で水と油が混合されたユニゾン・スピリットを展開していく、中堅級の地力を持つビートダウンデッキだ。
錬成素材代用効果を持つアナエルは、
このデッキなら【オイル】と【ウォーター】の両方として扱える。
アナエルの本領を発揮できる……と思っていたのだが。
対面の千影の使用デッキは【シケイダループ】。
あちらのデッキは、ゴリゴリのコントロールデッキである。
主良が展開したスピリットを一瞥すると、
無情にも地上戦を封殺にかかる。
「トワイライトから《九封城塞》をプレイします。
対応ありますか?」
「……ありません」
「エナジーを要塞化します。
場のスピリット全ては次のターンまで硬直」
これで、主良の攻め手は失われた。
威嚇するような勢いでカードをはじく千影。
パチパチパチパチ――
貧乏ゆすりのように忙しない音を立てながら、
千影はデッキからカードをドローする。
「……きひっ」
これで、千影側のエナジーは7枚目に到達。
コスト7のカードをプレイ可能となった。
「《電脳執事Cicada Marl/575》をプレイ……!
お兄、対応ありますかぁ?」
「……ありません!」
後ろから観戦していたアナエルも、
思わず「……また、始まるのですね」と呟く。
この光景を見るのは、五度目。
千影の勝利へのロードは確定していた。
「なら、ログイン・ボーナスを処理しますね、ひひひ」
手札からコスト5の《銀の鍵》を選択。
デッキからコスト7の《望郷歌・ウィスタリアテイカー》を選択。
墓地からコスト5の《スパイラル・ウェーブ》を選択。
それぞれの効果のコピーがネットに待機される。
ネットからの解決前に575の効果処理が優先されて、
選択された3枚のカードはデッキに戻る。
パチパチパチパチパチパチ――
カードとカードを高速で擦り合わせて、
小雨が降るような音を立てながら、千影は早口になりだした。
「まずは《望郷歌・ウィスタリアテイカー》を解決。このターンの終了時にエクストラ・ターンを追加します。ウィスタリアテイカーをゲームから追放する処理が入りますが、追放対象のウィスタリアテイカーはネットに存在しないので、不発。次に《銀の鍵》を解決。デッキから《銀の鍵》と《スパイラル・ウェーブ》を選択。どちらを選びますか? はい、では《銀の鍵》を手札に、《スパイラル・ウェーブ》を墓地へ。最後に《スパイラル・ウェーブ》の効果で場のスピリットを最大3体まで持ち主の手札に戻します。575を手札に戻します。これで、処理終了です」
これで手札に《銀の鍵》、
デッキに《望郷歌・ウィスタリアテイカー》、
墓地に《スパイラル・ウェーブ》が置かれることになった。
(途中、《銀の鍵》で《スパイラル・ウェーブ》を選択された場合には、手札と墓地に置かれるカードが逆になるが、処理に問題はない)
追加ターンを得た状態で、手札には575。
追加ターン中に575を唱えれば、
また同じことを繰り返して追加ターンを取れる。
これで、千影は無限にターンを追加できるようになった。
手札とエナジーを充分に溜めたなら、後は《お菓子まみれの夜・ストロベリーナイト》を連打していくことで、主良のデッキを削りきることが可能となる。
こちらの手札のカードには……インタラプト無し。
打つ手は、無い!
主良は手札を盤面に伏せて、投了を宣言した。
「俺の、負けだな。
サレンダーします」
「マスター……!」
「ふひひ、これで五連勝!
わかった、お兄?
次環境の覇権が【シケイダループ】だってことがさぁ!」
見事にわからされてしまった。
やはり、こっちのデッキの練り込みが足りてない。
「……確かに、規制されてもシケイダは強いな。でも――助かるよ、千影。【アナエル神造】みたいなキルターンが極端に短いデッキが環境から消えたことで、きっと禁止制限改訂後の環境には、シケイダみたいな後ろ寄せのコントロールデッキが帰ってくる。アナエルのリペアを試すには、仮想敵にちょうどいいよ」
「コントロール以外でも、環境級はTier2までは全部揃えてるし。どうする、お兄? デッキ変えて、もう1回やってみるぅ?」
「いや……【オイル&ウォーター】の他にも、試したいデッキがある。ちょっと組み替えるから、待っててくれ」
「はーいっ!
ひひ、またボコってやるし……」
ボロ負けはしたものの――
千影の助言で、可能性は見えてきた。
そんな主良に、アナエルが疑問を挟む。
「質問です、マスター。
錬成戦術で切札を活かす、
という方向性でしたが……
何故ですか、ダインスレイフを使わないのは?」
「まずはダインスレイフをデッキから抜く――
千影の出した宿題のことだよね。
俺も最初は意味がわからなかったんだけど……
こうやってデッキにまとめることで、
理解してきたんだ。
たぶん、千影が言いたかったのは――」
ふふん、と得意げに千影が言う。
「デッキパワーの問題、ね」
主良はうなずいた。
「ダインスレイフは【暗黒物語世界】専用のクロス・ユニゾン。もちろん、出ただけでゲームを終わらせる力はあるよ――特別なことをしなくても、10バーストで2回殴れば勝てるし、生半可な除去も通用しない。けれども、ダインスレイフ本体は強くても……【暗黒物語世界】というテーマ自体が、現代の環境では通りが悪いんだ」
ちっ、と千影が舌打ちをする。
「っていうか、普通に時代遅れなんだよね。もう2年くらい、まともなサポートが刷られてないし。流石に足回りの時点でガタガタ。実際、アナエル……さんが登場したときに、ロマンコンボとしてダインスレイフはSCPのあいだでも検討されたけど、全然実戦で出るまでは行かなかった。アナエルさん使ってる時点で【神造】以外を握るのは逆張りでしかなかったしね。――ただし、リミテッド・ワンになった今なら。クロス・ユニゾンの素材として、万能素材であるアナエルさんを使うっていう、お兄のアイデア自体は悪くないと思う」
「本来、クロス・ユニゾンはユニゾンスピリットと素材スピリット、ユニゾン用のカードと(ユニゾンスピリットを2枚換算した場合には)最低でも合計5枚を消費する。だからこそ、強力なフィニッシャーが多い……ならばいっそ、ダインスレイフにこだわらず、現代級の出力があるテーマで、かつ、クロス・ユニゾンを抱えるテーマでアナエルを試した方がいいんじゃないか――っていうのが、千影の言いたいことだったんだよな?」
「そういうことっ! へへへ」
一通り、聞き終えたアナエルが言う。
「なるほど。
……なるほど。
なるほど?
……なるほど」
うんうん、と頷く。
「理解しました。
ええと……
マスターと、ちーが……
一生懸命に、考えてくれたことが」
アナエルは、主良のデッキに細い指先で触れた。
「今は、カードから離れた身ですが。
マスターが切札を使ってくれるたびに、
あったかな気持ちになります」
「アナエル……」
「もっと、もっと使ってほしいです。
マスターに使われるたびに……
ぽかぽかになっていく……
この感じはまるで、そう……温泉です」
「また、温泉に入りたがってそうだね……」
「肯定します。
あの素晴らしい湯をもう一度、です」
ここにいるうちは温泉に入り放題なのだし。
しばらく回したら、温泉休憩してもいいのかもしれない。
カードのアナエルを眺めていた千影は「あれっ」と呟く。
「そういや、お兄……。
いつも自慢してた、シク版はどうしたの?
私、実際に見たことは無かったけど」
「今はこうなってるんだ」
主良はイラストが空白になったカードを見せる。
「他ならない、アナエルが実体化したのがこのカードなんだよ。だから、イラストの部分がこうなっちゃってさ。仕方ないから、デッキに使いまわしてるのは通常版なんだけど……って」
ぽかん――と千影は目を丸くしている。
「どうかしたか? 千影」
「ううん、なんでもないっ……!」
気のせいだろうか?
ブランクカードを見た千影の様子が、少しおかしい気がしたけど。
「(まぁ、いいか)」
さて――じゃあ、デッキ調整の続きをしよう!
……。
…………。
……………………。
…………………………………………。
「……遅いな、二人とも」
シャク、シャク、とスプーンをすくって口に運ぶ。
風呂上がりのかき氷は、やはり格別だ。
ラウンジでしばらく待っていると、
主良の元に浴衣姿の少女二人がやって来る。
「かき氷のブルーハワイ。
抗議します。
マスターだけズルいです」
「お兄、私はいちご味ね……」
アナエルと千影だった。
すっかり温泉を満喫してきたらしい。
「そういえば、
アナエルは人間の食事が食べられるんだっけ?」
「肯定します。
切札も希望します、マスターと同じものを」
「お兄、私はいちご味~~~!」
二人分のかき氷を買ってくると、
アナエルと千影は嬉しそうに食べ始めた。
「「おいし~~~(です)」」
なんだか、妹が二人に増えた気分になる……。
うん。
なんだろう?
このやり取り、前にもしたことがあったような。
ズキリ――と頭が痛む。
「あ痛たたたたたたっ……!」
「ちー、アイスクリーム頭痛です。
一気に食べてはいけません、冷たいものは」
額を押さえる千影を見て、我に返った。
さっきまで……何を考えていたんだっけ?
そんなことよりも、デッキ調整を始めなければ。
この温泉施設……名前はなんだっけか……は、宿泊施設も兼ねており、昼間は宿泊用の個室をフリースペースとして貸し出すサービスがある。
誰にも迷惑のかからない、人目の無い個室。
そうとなれば、やることは決まっている。
カードゲームだ!
ロビーでルームキーを借りることにしよう。
「すみません、らせんの間の鍵をお願いします」
「……あっ、はい!?
すみません、少々お待ちください……!」
ぼーっ、とした様子の店員さんだった。
なにか、様子がおかしい?
名札に目をやると「藤原」と書かれている。
それにしても――
「まだ午前中とはいえ、全然お客さんがいないな」
連休初日なのに、やっていけてるんだろうか?
だから優待券を配ってたのかもしれないが。
藤原さんからルームキーを受け取り、
主良とアナエル、千影の三人は「らせんの間」を開けた。
さぁ、デッキ調整を始めよう。




