第12話 機械仕掛けの神
「冬の女王」アナエルが規制を免れたことで、SCPは最短でも半年間はアナエルに付き合わなければならなくなってしまった。
あまりにも不可解な禁止制限改訂――
SCPのあいだでも、
当時の罪園CP運営には批判が殺到した。
一方で、いくつかの擁護論も記録されている。
擁護論は主に、
・アナエル自体は発売されてから、
半年間が経過していない。
・《神造核》に規制をかけようにも、
規制解除直後に再規制するのは体面が悪いだろう。
・【シケイダループ】や【怪異模倣案件】といった一線級のコントロールデッキが環境から消えたことで、逆に【アナエル神造】にメタを集中させることが出来るようになったので、対策は可能であるはず。
といった内容だった。
このうちのいくつかは、
ある程度は的を射ていたのは間違いない。
実際に【アナエル神造】をメインから対策したデッキが台頭することになる。
そう、【アナエル神造】ver.2である。
《血達磨将軍ヴィヴァント》はコンストラクトをサポートするカードであると同時に、相手がコンストラクトを使用している場合にはコスト無しで召喚できる効果を併せ持つ――つまり、コンストラクト・メタの性質も持っているカードだ。
これまではコンストラクト戦術をメインに据えた環境デッキが存在していなかったことで、注目されていなかったカードだったが――石を投げれば【神造】にあたる環境においては、とてつもない高コストパフォーマンスに化ける。
さらにヴィヴァントの持つサボタージュ能力でハンデスすることで、相手が手札に抱えていた後続のアナエルを落として、デッキの動きを機能不全に追い込む事も出来るのだ。
ヴィヴァントを得て、
自分自身を殺す刃を手に入れたアナエル。
まさにアナエルとアナエルの潰し合い。
同じ顔の美少女がぶつかり合うことになる。
世は正に、大アナエル時代!
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「肯定します。私が私を見つめてました」
「アナエル、
君の一人称って”切札”じゃなかったっけ?」
「ふひひ。
お兄、このライズってファルコン可愛いよね……」
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さて、では【神造】以外のデッキはというと――
前述した通り、
【神造】の展開スピードが速すぎたことで、
後ろ寄せのコントロールデッキは壊滅状態。
妨害を多く積んだメガ・パーミッションも、
インタラプトの性能がデフレした環境であったこと、
【神造】が十分な継戦できたことで対抗できず。
ビートダウンについては、
多少の対策を積んだところで、
デッキパワーとしては【神造】の下位互換に等しい。
コンボについては……
【神造】以上の速度と安定性を持ったコンボは、
スピキャスが始まって以来、一つも存在していない。
ビートダウン以上の速度でクリーチャーを展開し、
相手のライフを削りきる――
史上最強の高速コンボデッキ、
それが【神造】だった。
ここで、
《次世代神造姫アナエル》のテキストを確認してみよう。
《次世代神造姫アナエル》
種別:スピリット
エレメント:無
コスト:2
タイプ:メタヒューマン
パワー:8000
バースト:3
効果:
場にあるかぎり【神造】カードのコストを1下げる。
場に出たとき【神造】カードをデッキから選び、
手札に加える。その後、デッキをシャッフルする。
このスピリットを素材に錬成するとき、
任意のカード名・タイプ・エレメントとして扱ってよい。
このカードを見たSCPの感想は、
おおむね以下に集約される。
「なんで自分のコストも下げるんだよ」
「なんでコスト軽減効果が重複するんだよ」
「サーチ効果に自分以外って書き忘れてるだろ」
「コストは1未満にならないって書き忘れてるだろ」
「なんでコスト2でパワー8000もあるんだよ」
「なんでバースト値も3もあるんだよ」
「イラスト可愛すぎるだろ」
そう、みんなが読み飛ばしている効果があるのだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
このスピリットを素材に錬成するとき、
任意のカード名・タイプ・エレメントとして扱ってよい。
⭐︎⭐︎⭐︎
これである!
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「お兄の言いたいこと、わかったよ」
千影はふぅ、とため息をついた。
「【アナエル神造】では一切使われていなかった、第三の効果……どんなユニゾン・スピリットの素材にも出来るという万能の素材代用効果……これを使えば、リミテッド・ワンになったとしてもアナエルの専用デッキを組むことは可能。そういうことでしょ?」
主良はうなずいた。
「本来、シリーズカードとしての「神造」には錬成をサポートする第一期の効果と、コンストラクトをスピリット化させてビートダウンする第二期の効果、二種類の戦術があった。ネクストディケイドデッキにおけるアナエルの本来の役割は、この二種類の戦術を融合させることにあった――けれども」
アナエルが主良の言葉を引き継ぐ。
「肯定します。ですが、切札は一度も錬成したことがありません、マスターの指示の下では。十分に勝利できたからです、コンストラクトのコストを軽減して場に並べるだけで」
「だろうね」と、千影は言う。
「アナエルの使い方としては、それが一番丸いよ。
自分で自分をサーチして、自分を並べて、
コンストラクトで殴りきるのが一番強い。
デッキの自由枠も少ないしね。
わざわざ錬成みたいな不純物を混ぜても、
デッキのコンセプトが迷子になるだけだし……」
「迷子でもいいんだ、今は」
主良は《錬成》のスペルカードを手に取る。
「スピリットキャスターズの歴史上、錬成サポートの効果はいくつも出てきた……けれども、テーマの縛りを一切持たず、どんなカード名にも、どんなタイプにも、どんなエレメントにもなれる代用効果を持つカードは一枚だけ――アナエルただ一枚なんだよ。そしてリミテッド・ワンになったとしても、アナエルは腐っても【神造】カードだ。豊富なサポートカードを駆使すれば、確実に手札に持ってきてゲームに絡めることができるッ!」
千影は「へぇ」と呟いた。
「とはいえ、リミテッド・ワンである以上……
サルベージを考えなければ、出来る錬成は一回きり。
それなら、お兄が使おうとしてるのは――」
スピリットキャスターズNEXTにおける、
最強のスペックを誇るユニゾン・スピリット。
困難な錬成条件と引き換えに、随一の制圧効果を持つ。
背景ストーリーでは精霊界を統べるとされる、
伝説のトライ・スピリットの一体に数えられるカードだ。
最強のドラゴンである――
《ビブリオテカ・アラベスクドラゴン》と――
最悪の妖狐である――
《シルヴァークイーン・ナインテイルズ》に並ぶ――
最大にして災厄の機神。
名を――
「《ダインスレイフ・エクスマキーナ》。
勝利よりも召喚が難しいと言われるこのカードも、
錬成できるはず。アナエルの力を借りればな」
「肯定します。
これが切札とマスターがたどり着いた、
勝利の方程式です!」
主良とアナエル。二人が編み出した珠玉のデッキ。
構築プランを聞き終えた千影は――
主良に、一つの問いをかける。
「……お兄。一つ、聞いておきたいんだけど」
「な、なんだ?」
「お兄はさ、それで勝ちを目指してるの?」
「えっ……」
それは、薄々、感じていたことでもあった。
だが、見ないふりをしていたことでもあった。
千影は、はっきりと告げる。
「勝ちたいんなら……
そのデッキじゃ、勝てないよ」




