第72話 貴方は神なのでしょう?
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「アカシック、急いで記録を探って、
あの人の居場所を見つけて!」
「いや、あの人、神なんでしょ?
私とは繋がっていませんよ?」
「彼に会った人、見た人の記憶よ?」
「ああなる程……少しお待ちを……」
目を閉じるアカシック。
空気がわずかに震える。
「う~ん……あっ!」
パチリと目を開く。
「今道具屋を出た?
ここ真っ直ぐですね?
急がないと、街を出てしまいそうです」
「あっ……今、誰かが転移魔法を使ったわ」
息を止めるエルフィナ。
「魔力の流れ……北……違う、西寄り……
山の方ね……頂上近くの森」
「そんな事まで分かるのですか?」
「何となく……だけどね?
魔力の流れを感じたわ。行ってみましょう」
ーー数分後。
「あれ……」
木々の合間。
ぽつん、と佇む小さな家。
「……ここかも?」
〝コンコンコン〝
「……誰かな?」
扉がゆっくり開く。
「こんな山奥に……道にでも――」
男の言葉が止まる。
「……君は……エルフロ……?」
「エルフロ?」
首を傾げるエルフィナ。
「いえ、エルフィナ・スタンリーと申します。
貴方はアストラさん……ですよね?
奥様のジュリアさんは?」
「……エルフィナ……」
男の目に、かすかな動揺。
「そうか……まだ記憶が……」
「記憶?」
「……いや、気にしないでくれ」
すぐに笑顔を作る。
だが、その奥に影が残る。
「何故君が、妻を?」
「私……貴方が描いた奥様の絵を、たまたま見かけて……
何故かとても気になって……今何方に?」
「分からない……」
少しの沈黙。
「行方が分からないんだ……」
「もしかして迷宮に行かれたのでは?」
アストラの目が見開かれる。
「な、何故そう思うんだ?」
「奥様が迷宮に入っていく姿を、夢で見ました」
静かに言うエルフィナ。
「夢とは言え、私そう言うのは良く当たるのです」
「そうか……」
アストラはしばらく黙り込む。
「詳しくは話せないんだが……
立ち話も何だから、まあ中に入ってくれ」
ーー
「確かに迷宮には入ったが……
彼女は迷宮にはいないよ……」
「その迷宮って、シドニアの迷宮ではありませんか?」
〝ぴくり〟と反応するアストラ。
「何故シドニアの迷宮だと?」
「他の迷宮には、奥様は、いらっしゃいませんでした……」
「妻を探しに、迷宮に行ったのか?
居なかったと言うからには、全階層に行った?
もしかして全ての迷宮を制覇したと?」
アストラが、息を呑む。
「ええ、そして残るのはシドニアの迷宮だけです」
「そうか……」
アストラは、ゆっくりと目を閉じる。
「……ああ、その通りだよ。
シドニアの迷宮に行ったんだ。
あの迷宮の事は、どこまで知っている?」
「コアの反応も無いらしく、ほとんど何も分かりません。
ただ、入った瞬間に異次元とか異世界……
どこかに飛ばされるのでは無いかと推測しています」
「異次元とかでは無いよ。この世界のどこかだよ」
「でも、その後の記憶を辿れないのです」
「君は記憶を辿る事が出来るのか?」
「私ではなく、このペンダント、
〝アカシック〟と言う、私の眷属が出来ます。
集合的無意識……全ての人の意識と繋がっているらしく……
膨大な記録を持っています」
「ペンダントが眷属?」
「可愛い男の子にも変身しますよ?」
「この通りだyo~」
男の子になるアカシック。
「静かにしててね?アカシック」
アストラが苦笑する。
「そうか……その子が……何故辿れないかと言うと……
世界のどこかに飛ばされる時、記憶をなくすんだよ。
膨大な記録を持っていると言うのなら、
その姿を見た者の記憶を辿ってみると良い……」
「やってみるyo~」
〝スッ……〟
「あ、本当だ……
それぞれ別の場所に飛ばされ、記憶を無くしてるyo~
でも異次元とかじゃ無い……この世界だyo~」
「普通に喋りなさいよ……」
エルフィナが顔を上げる。
「でも、アストラさん……
だったらジュリアさんも、この世界のどこかに?」
「いや、彼女はこの世界には居ないよ?
僕が作った魔道具で、コアを暴走させてしまった……
そして、彼女だけは、この世界ではなく、
どこか異次元に飛ばされた」
「見つからないのですか?貴方は神なのでしょう?」
軽く言うその一言が、重かった。
「………………」
長い沈黙。
「私の眷属のリッチが、16年前に、
神である貴方達にお会いしてるの……
別の眷属のスカイも、大昔に奥様と会っていて、女神だったと……」
「……そうか……まあ、元、神だったと言っておくよ。
そして神であろうと何であろうと、
無限に存在している異次元から、
彼女を探し出すのは不可能だ」
「そうでしょうか?」
エルフィナの声は、妙に静かだった。
「私なんだか探せる気がするのですが?」
「何故そう思うんだ?探せる?一体どうやって?
いや……君なら出来るのかもしれないね……」
アストラが、じっと見つめる。
「あの……貴方さっき、私をエルフロ?とかって……
私のことを知ってるかの様に……」
エルフィナの目が鋭くなる。
「誰かと間違えて……とかではないですよね?」
「いや良いんだ。気にしないでくれ。
そして探し出せるのなら、ぜひ探してみてくれ。
どこかで、幸せに暮らしていると良いんだが……」
「言いにくいのですが……私の見た夢では……」
エルフィナがぽつりと言う。
「どこか真っ白な不思議な雰囲気の場所で、
1人ポツンと悲しそうにしてました。
だから余計気になって……」
「……っ」
アストラの手が震える。
「……そんな……私のせいで……
そんな場所に?」
声が崩れる。
「彼女には寿命はない、永遠に1人閉じ込められるなんて……
死んでしまう方が、まだましだ……
出来るならば、何とかしてやってほしい……
本当は君に頼むのは、間違っているんだが……」
「〝本当は間違っている〟?どう言うことですか?」
「間違っていると言うか、頼める資格がないと言うか……
いや、気にしないでくれ」
「まあ、よく分かりませんが……
やるだけやってみますね」
エルフィナが、微笑む。
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