第69話 対マックス戦
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「2年生、エルフィナ・スタンリーです。
受付お願いします」
「エルフィナさんですね……
あっ、エルフィナさんは、こちらじゃありません。
ここのコロシアム会場じゃなく、ドーム会場の方ですよ?」
「え?去年はここだけじゃなかった?」
「今年は出場者が多くて、二会場に分かれているんです。
両方の優勝者がコロシアムで決勝を行います」
「へぇ……そんなに増えたの?」
「シドニアの勇者が〝そこまで強くないらしい〟
という噂が広がってまして……
名を上げたい人が一気に集まったんです。
しかも、前年優勝者のエルフィナさんは、
出ないと思われてましたし」
「あらら……そうなんだ……
昨日、急遽出場が決まったので、何も知らなかったわ」
ーーーー
「それではBグループ一回戦――
昨年優勝者、エルフィナ・スタンリー!
対するは三年、スタルトン!」
⸻
「いきなりお前かよ……
〝掠れば勝ち〟だと?舐めてんのか?
去年の借りはきっちり返えさせてもらうぞ」
「去年?私、貴方と対戦しました?」
「クッ……覚えてないのかよ?」
「全く覚えていません……申し訳ありませんね」
「去年は、あのオーク顔に少し腰が引けただけだ……
今年は、そうはいかないからな?」
「はいはい、お手荒かに」
「始め!」
「えっ?」
〝始め〟の合図がかかると同時、
土埃を残して目の前からエルフィナが消えた。
「はい、これで終わりですね?」
気付くと、エルフィナは背後に立っていて、
剣が自分の首筋の裏に当てられていた。
「な……っ……!?……何だこのスピード……」
「試合終了!勝者エルフィナ!」
「ちょ……ちょっと待ってくれ!
俺は未だ、構えてもいなかったんだぞ?
卑怯じゃないか?やり直しだ!」
「私が、〝始め〟の合図を出したんだ。どこが卑怯なんだね?」
審判が冷静に言い放つ。
「……っ」
「ああ、良いですよ?やり直します?」
エルフィナが首を傾げる。
「本当に良いのか君は?」
「はい、後々何か言われるのも嫌なので……」
「では改めて。君は、ちゃんと構えなさい。」
〝始め!〟
「うおおおおお!!」
〝ビュン!!ビュン!!〟
風が裂ける。なかなかに鋭い剣。
速度もある。
言うだけあってなかなかの実力者だ。
だが――
当たらない。
〝スッ……〟
紙一重で躱される。
〝ヒュン……〟
髪一本すら触れない。
エルフィナは、動いていないように見える。
だが実際は――
最小限の動きで、全てを見切っている。
〝ふうふうふう……〟
「ど、どこだ?また後ろか?……っ……どこにも居ない?」
次の瞬間、観客がざわめく。
観客の目線を辿ると、自分の真上だった。
そこには、逆立ちの様な格好で、
こちらを見ているエルフィナが居た。
「もう気が済んだかしら?」
そう言うと、頭に〝コツン〟と、剣を落とした。
「改めて!勝者エルフィナ!」
〝ザワザワザワザワ……〟
歓声――というより、
困惑と恐怖のざわめき。
ーーーー
〝トントン……〟
「はいどうぞ」
「エルフィナさん、お昼をお持ちしました」
「あの……2回戦はまだでしょうか?
随分待たされているのですけど?」
「ああ、2回戦は無くなりましたよ?聞いてませんか?」
「えっ?」
「1回戦のエルフィナさんを見て、Bグループ全員棄権だそうです」
「えっ?本当?」
「はい、ですからお食事が済みましたら、
決勝の行われる、コロシアムの会場に移動して下さい」
ーーーー
〝ガチャッ!〟
ノックもなく扉が開く。
「お前がエルフィナか?
ほ~……なかなか可愛い顔をしてるじゃないか?」
「貴方は?
レディの部屋にノックもせず、
〝マナー〟と言う言葉、知りません?」
「へっ、俺はジュン……シドニア王国の勇者だ。
俺には、早々お目にかかれないんだぜ?光栄に思え」
「やっぱりただのお馬鹿さんだったか……
ねえ、貴方……私を可愛いって言った?これでも?」
「うわっ!オーク」
腰が抜けて座り込む勇者。
「フフッ……貴方の顔は、少し間抜けね?
オーク顔にビビるなんてガッカリよ……」
「き……貴様……」
「貴方と話す事は無いわ。じゃ、私はコロシアムに行くから……
後で、剣で話しましょ」
「お……覚えてろ!」
「プッ……カッコ悪い台詞……」
ーーーー
「それではこれより、記念すべき、
第200回エスティア王国王立学園、
武道大会決勝戦を始める。
マックス・エスティア。
そしてエルフィナ・スタンリー前に!」
「「何でこうなった?」」
「マックス、あんたサンブルズ帝国で、
会議じゃなかったの?」
「お前こそ……何でここにいるんだよ?」
「だって……アルガルド先生に頼まれちゃって……」
「あっ、勇者か?俺も親父から言われてさ……出ろって……
シドニア王国の王と、学生時代一緒で、
ライバルだったとか何とか……」
「嘘?動機が、ほぼ一緒… …
で、どうするの?やる?」
「そうだな……こんなに盛り上がっているのに、
やらん訳にもいかないよな……
お前とは手合わせした事がなかったし……
レベル150の強さに、興味がないといってら嘘になるな」
「そ?じゃあお手荒かに」
――空気が変わる。
〝ブンッブンッ!ビュンビュン!〟
「マックス殿下の剣圧、とんでもないな?
ここまで風が吹き荒れてるぞ」
「いや、よく見ろって……あっ……早くて見えないか……
エルフィナ嬢、もしかして、剣を振ってないか?
とてつもない剣速で、
音もなく空気を切ってるんじゃないか?
見ろよ、彼女の足元を……
地面が切れて、線が無数に出来てる」
「始め!」
その掛け声と共に視界から消える2人。
〝キィィィィィン!!〟
空間が軋む。
〝ギィン!!ガギィン!!キィン!!〟
2人の姿は見えないが、音と火花が、花火の様に見えていた。
〝ドンッ!!〟
――一瞬の静止……二人が距離を取る。
「ハアハアハア……何ちゅうスピードだよ……
剣を受けるだけで、一杯一杯だよ……」
突然中央に姿を現して、囁くマックス。
膝に手を置き、かなり苦しそうだ。
「そう?」
エルフィナは、平然。
「まだまだ、こんなもんじゃないんだけど……」
その一言で。会場の温度が下がる。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




