第49話 明るく美しい未来
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「皆。今日は――
国が混乱し、大変な状況の中――
この場に集まってくれた事、心から感謝する」
エスティア王城にある会議場。
各国から選ばれし代表六名。
張り詰めた空気の中心に、
マックスは立っていた。
「私がエスティア王国、
次期国王のマックス・エスティアだ」
一度、全員の顔を見渡す。
まだ若い。
だがその声音には、
王としての責任を背負う覚悟が宿っていた。
「若輩者ではあるが――
民の為、出来る限りの尽力を約束する」
「発言お許しいただけますでしょうか?」
「会議の場だ。遠慮は不要だ。
皆、思うところを率直に述べてくれ」
「ありがとうございます……」
一人の代表が一歩前へ出る。
「ありがとうございます……
さて、この度、
我ら6人が代表となり、参じました。
帰還した兵士達から聞きましたが、
我ら6人が、後の領主候補となるとの事……」
わずかな緊張が走る。
「領主はエスティア王国から、
出さなくて宜しいのですか?」
「ああ」
マックスは迷わず頷く。
「不適合と判断した場合は別だが、
基本的には、貴方方に、
領主をお願いしたいと思っている」
ざわり、と空気が揺れる。
「ただし」
一拍置く。
「統治の安定の為、
エスティアから代官は派遣する。
あくまで補佐だ。主は――貴方方だ」
「一度は戦争を仕掛けた我ら……」
別の代表が低く言う。
「それでエスティアの皆様は、
納得されるのでしょうか?」
「その件については心配いらない」
マックスの声は揺るがない。
「貴方達の意思でない事は、皆承知している」
視線が真っ直ぐに向けられる。
「……色々改革したい事は、
有るは有るのだが、
各地の事を最も理解しているのは、
貴方方だ。
外から来た者より、
よほど適任だと私は考えている」
「その御言葉――ありがたく拝受致します」
代表が深く頭を垂れる。
「我らは、エスティア王国の発展の為――
誠心誠意尽くす事を誓います」
「「「「誓います!」」」」
声が重なる。
「頼もしいな」
マックスは小さく笑い、
「――それと」
軽く視線を横へ。
「彼女から、話しがあるそうだ」
すっ――と。一歩前に出るエルフィナ。
ただ一人が歩み出ただけで、空気が変わる。
「お初にお目にかかります」
柔らかな声。
だが、どこか抗えない力を孕んだ響き。
「私は、エルフィナ・スタンリーと申します」
その姿を見た瞬間――
代表達の呼吸が、止まった。
「先程、マックス王太子が、
〝不適合者がいれば〟と申しましたが――」
にこり、と微笑む。
「貴方方の中に、
不適合な方はいらっしゃいませんね」
静かに、断言する。
「マックス王太子。私が保証します」
「「「「貴方様が、神の愛し子!」」」」
ざわめきが一気に広がる。
「何と神々しい」
「「う……美しい……」」
思わず漏れる本音。
「皆の中にはエルフィナが、
醜く見えるものがいない様だな。
そう言う事だろ?エルフィナ?」
「……分かった?フフフ……」
笑うエルフィナ。
「変な目で私を見ている方は居なかったわ」
「「「「……??」」」」
きょとんとする代表達。
「何を言っているのか分からないですよね?」
少しだけ悪戯っぽく微笑む。
「おいおい説明しますね」
そして、軽く手を差し向ける。
「それと紹介いたします。
こちらがサンブルズ帝国の次期帝王、
アンカー皇太子です」
「おお~貴方様が……」
どよめき。
「アンカー・サンブルズです。
宜しくお願いします。
姉上。聖獣の訓練が終わったからとの事で、
参上致しましたが、
この会議に呼ばれたのは?」
「私ね?凄い事に気付いたのよ」
ぱっと表情が明るくなる。
「凄い事ですか?それは?」
「産業よ?う~ん……例えばだけど、
貴方のサンブルズ帝国の医療技術は世界一でしょ?
でも、薬学はエスティア王国が1番。
だけど、その基盤になる薬草や化学素材は――
どちらの国も、十分とは言えない」
そこで、代表達へ視線を向ける。
「でもね……」
微笑む。
「今日からエスティアに加わってくれた、
貴方達の土地には――
それが豊富にある……」
場の空気が、ゆっくりと動き始める。
「こうして改めて見ていくとね?」
両手を軽く広げる。
「様々な分野で、まるでパズルのように――
足りなかったピースが、ぴたりと嵌るの」
一瞬、言葉を区切り。
「……美しい未来の形が、見えるのよ」
静かな確信。
「なるほど……」
アンカーが頷く。
「新生エスティア王国と、
我がサンブルズ帝国が手を組めば――
その〝パズル〟は完成に近づく。
明るく美しい未来が見えるわけですね?
凄い事になるかもしれませんね?」
「そういう事」
エルフィナは笑う。
「ねえ、アンカー」
少しだけ声を落とす。
「そこで提案なんだけど――
しばらくの間、関税を撤廃できないかしら?」
場が、静まり返る。
「一気に経済を押し進めようと言う訳ですね?
帝国としても願ったりです姉上」
アンカーは即答した。
「それとね」
さらに一歩踏み込む。
「学問……つまり知識の共有も、
推し進めないかしら?」
「そんな事をやって大丈夫か?
知識の流出を、
良く思わない者も多いんじゃないか?」
マックスが眉をひそめる。
「大丈夫だと思いますよ?
マックス兄上。なにしろ姉上は、
神の愛し子って事で、
帝国の民からも、
絶大な信頼を受けていますから」
「あのね、マックス。
全ての最先端知識は――
既に私の手の中にあるの」
「……は?」
マックスの思考が一瞬止まる。
「ん……あっ……アカシックか!?」
「アカシック?」
アンカーが首を傾げる。
「姉上の眷属になったって言う剣ですか?」
「ハハハ……アカシックはもう、
剣でもナイフでもなくて、今はこのペンダント」
「えっ?光るペンダントですか?」
「ううん。それじゃなくて、
こっちのブルーの宝石の方よ」
青く輝く宝石を指でつまむ。
「アカシックは、全ての人の意識と繋がっていて、
世界の、ありとあらゆる知識を持っているの」
「既に最先端の知識、が姉上の元に有るのであれば、
平等に知識を共有すると言う事は、
エスティアにとって何の利益もないのでは?」
「知識も財産と同じよ。
血の滲む努力の末、
得た知識を搾取する気は無いわよ?」
真っ直ぐな視線。
「そんな事をしたら泥棒と同じ……
アカシックの知識は有用だけど、
そう言う事に、
アカシックを使うつもりはないの」
静かに、しかし強く言い切った。
「なる程。必死の努力の末、開発したものを、
最も簡単に他で使われたら、
馬鹿馬鹿しくって誰も研究しなくなり、
技術の発展が、滞りますよね」
アンカーが深く頷く。
「私が全知識を持っている事を、
公表するの……その上で、
それを開発者の許可無く勝手に使わないと、
そう説明して理解して貰えば……
知識を共有する事に後ろ向きな意見は、
出てこなくなるんじゃないかしら?」
「まあ本当だったら、
いつでも全ての最先端の技術を、
勝手に使える訳だからな。
独占しようと思えば、
逆に利益を損なうって考えるわな」
エルフィナはアンカーを見る。
「両国の知識共有の細かい事は、
アンカーが中心になって検討してくれる?」
「はい、分かりました」
「俺が中心じゃないところが、
的を得ていると言うか……」
「プッ……分かってるんだ?」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




