第46話 それって私のことですよね?
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「あらやだ……」
その光景を、背後から眺める少女が一人。
「あの攻撃、まだ続けてるの?」
エルフィナは、呆れたようにため息をついた。
「私はもちろん、もう誰もいないのに…
貴方達、未だ続けるおつもりですか?」
「当たり前だ!
危険極まりないあの女を、
このままにしておけるか!」
振り向き叫ぶ魔道士。
「あの女……それって私のことですよね?」
にこり、と微笑む。
「私、別に危険じゃないですけど?」
「うるさい! 貴様――って……」
その顔を見た瞬間、血の気が引いた。
「お、お前……まさか……
エルフィナ……!?」
「はい、そうです」
あっさり肯定する。
「ど、どうしてここに!?」
「質問いいですか?」
エルフィナは、淡々と続ける。
「ここにいる約千人の魔道士……
各国の主力ですよね?」
「だ、だから何だ……」
「この人たち全員に、
魔力封じの結界を張ったら――」
一歩、前に出る。
「各国、ほぼ魔道士不在になりますね?」
「なっ……馬鹿なことを言うな!
人間そのものに結界など張れる訳が――」
「できますよ?」
即答だった。
「以前、私にはそういうもの、
が掛けられていましたから」
一瞬、場の空気が凍る。
「それに――」
さらりと続ける。
「私の家族には、攻撃を弾く結界を、
常時展開していますし?」
「……仮に出来たとしてもだ!
この人数だぞ!?
全員に張れるはずが――」
「それも出来ます」
にこり、と笑う。
「百聞は一見にしかず……ですね」
そして――
「――はい」
軽く手を振った。
その瞬間。
〝シィィィィィン…………〟
世界から、音が消えた。
放たれていた魔法が、全て、止まる。
炎は消え、
雷は霧散し、
詠唱は途中で途切れた。
誰一人として、魔法を発動できない。
「な、何だ……!?」
「魔力が……流れない……!?」
ざわめきが広がる。
「お前……何をした……?」
「さっき説明した通りです」
あっさりと返す。
「あ、それと――」
さらりと、付け加える。
「気付いてません?」
「……?」
「今ここ、
サンブルズ帝国の援軍20万と、
エスティア王国軍10万――」
指を軽く鳴らす。
「合計30万に、囲まれてますよ?」
その一言で、完全に空気が凍り付いた。
「主力兵と魔道士がここで壊滅したら――」
くすり、と笑う。
「貴方達の国、終わりません?」
「……っ!」
「まあ、後はお好きなように♡」
ひらりと手を振る。
「……あ、言い忘れました」
最後に、振り返る。
「貴方達〝全軍〟の周囲にも、
結界、張ってあります」
優しい声で、恐ろしいことを告げた。
「もうここから、誰一人出られませんよ?」
そして、にこり。
「食料、何日持つんでしょうね?」
「…………」
「――じゃあ、改めて。さようなら」
その場に残されたのは、
音の消えた戦場と、
絶望だけだった。
ーーーー
通信の魔道具越しに、
各国首脳を見据えるアンカー。
「だから、あれほど止めるように、
申し上げたではありませんか」
静かだが、明確な怒気を孕んだ声。
「エルフィナ様は、紛うことなき神の愛し子。
そして……私の姉となる、大切なお方です」
一呼吸。
「その御方に刃を向けるなど――
サンブルズ帝国を敵に回すに等しい、愚行だと」
やれやれと、首を横に振る。
「魔道士は魔法を封じられ、
兵は結界に閉じ込められている……
もはや貴国らに残された道は一つ」
冷たく言い放つ。
「降伏し、慈悲を乞うことのみでは?」
答えは明白。
もはや、降伏以外に国を存続させる道はない。
「……それでは」
アンカーが淡々と続ける。
「兵が飢える前に……
手遅れになる前に会談を設けましょう。
一週間後――我がサンブルズ帝国にて」
ーーーー
一週間後――会談の場。
「さて」
マックスがゆっくりと口を開く。
「今回の一方的な宣戦布告と開戦。
その責任を、どう取られるおつもりなのか、
お聞きしましょう」
「もし何もしないと言ったら?」
ヤバレス国王サイレスが、嘲るように言い放つ。
場の空気がわずかに軋んだ。
「他の4方も同じお考えですか?」
「「「「………………」」」」
沈黙。
それが答えだった。
「……そうですか……
マックス王太子?こう言っておられますが?」
マックスは一度だけ頷き、
「エルフィナ」
視線を向ける。
「どうする?」
「え?私?」
きょとん、とするエルフィナ。
「なんで?」
「標的は、お前だったし、
戦を収めたのもお前じゃないか?
エルフィナに決める権利があると思うが?」
「そう?」
小さく息を吐き、
「だったら言わせていただくわね」
にこり、と微笑む。
「〝皆様は責任を何も取らない〟
そう言う事で宜しいのですね?」
一瞬の間。
「ならばそれで構いませんわ。それでーー」
「お……お前が、かけた結界はどうする?
兵は無事返してもらえるのか?」
「……誰に向かって〝お前〟呼ばわりしている……」
空気が凍る。低く、鋭い声。
アンカーだった。
いつものアンカーからは想像できないその声……
そして、続けた。
「立場を弁えろ……」
その一言は、剣よりも重かった。
場の空気が一気に張り詰める。
「アハハハ」
だが、その緊張を軽く崩したのは、
エルフィナだった。
「いいのよ、アンカー」
くすくすと笑う。
「この方々、どうせ私たちのこと、
若いって理由で軽く見てるんでしょ?」
視線を首脳たちへ向ける。
「頭の弱い可哀想な方々なんだから、
許してあげて?」
「き、貴様……たかが公爵家の娘の分際で……!」
「今度は〝貴様〟?」
マックスが肩をすくめる。
「アンカー」
一歩、前へ。
「せっかく骨を折ってもらったこの会談だが、
これ以上話しても無駄な様だ」
「ちょっと待って」
エルフィナが、軽く手を上げる。
「逆に、私から聞いてもいい?」
視線が、まっすぐ首脳陣へ刺さる。
「貴方達は、結界に閉じ込められている兵達を――
見殺しにするつもりなの?」
「何の役にも立たなかった兵など、
返さないと言われればそれまでだ。
代わりはいくらでもおるのだ」
「……代わりはいないでしょう?」
声の温度が、すっと下がる。
「少なくとも、その兵の家族にとっては」
一歩、近づく。
「そして彼らは、間もなく食料が尽きる。
餓死しますよ?」
静かに問いかける。
「それでもいいと?」
「だったら貴様が今すぐ結界を解けばいい!」
「そんな都合のいい話が通ると?」
ふっと笑う。
「やっぱり……ただの可哀想な方々ね」
その言葉に、場の温度がさらに下がった。
「あんた達の国は今……」
マックスの目が座る。
「主力戦力の大半をここに集めている。
つまり――丸腰も同然」
はっきりと言い切る。
「今、どこかに攻められたらどうなる?」
一拍。
「犠牲になるのは、民なんだぞ?」
「今は民などどうでもいい」
「……どうでもいい?」
その一言で、
完全に〝線〟が切れた。
「民あっての国じゃないの?」
「綺麗事を言うな、小娘」
「〝小娘〟だと?」
――空気が裂けた。
「もう二度と言わぬぞ」
アンカーの声。
それは先程までとは別物だった。
「今度、姉上に向かって
〝お前〟〝貴様〟〝小娘〟――」
一歩、踏み出す。
「その類の言葉を一つでも口にすれば」
冷徹に告げる。
「この場で斬る」
沈黙。
「我が呼びかけに応じ、
我が帝国に来ている以上、
死ぬ覚悟は出来ているはず……」
視線が突き刺さる。
「違うか?」
「……っ」
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