第42話 悪魔の迷宮
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「アカシック」
エルフィナが改めて口を開く。
「次はどこの迷宮が良いかしら?」
アカシックは、エルフィナの瞳とよく似た、
透明感のあるブルーの宝石を中央に抱いた、
小ぶりで上品なペンダントに姿を変えていた。
銀細工の繊細な装飾が、
その青をより美しく引き立てている。
「ゼネザール王国が宜しいかと」
胸元から、落ち着いた声が響く。
「ですが、お気を付け下さい。
あそこの迷宮は、悪魔の巣窟と呼ばれております」
「悪魔か……」
「私には悪魔に関する知識は、
みなさんと同程度しかございません」
「え、何でも知ってる訳じゃないの?
貴方の持っている記憶は、人のものだけ?
悪魔の意識には繋がっていないの?」
「私が繋がっているのは、人と、獣人……
そして、知能があり、意思のある一部の動物と魔物です。
アンテッド系もそうですが、
悪魔の様な霊体には繋がっておりません。
それらは別の集合体に分類されます」
「悪魔の情報は持ってないのか……」
「全然と言う訳ではありません。
他種族と接触……あるいは遭遇した時の、
その情報が有りますので……
例えば悪魔の技術など、
それらに接触した人がおりますので、
ある程度の情報は持っております」
「……それで、悪魔の対策なんだけど……」
「悪魔は死にませんよ?
今回も〝死ね!〟は通用しません……霊的存在なので」
「じゃあ今回も〝消え去れ〟で良いのかしら?
他になんかアイディアある?」
「そうですね……」
アカシックが少し考える。
「〝消え去れ〟ですと、
悪魔を何処か別の場所へ、
飛ばしてしまう可能性があります。
霊的存在だけに、
場合によっては即座に戻って来るかもしれません」
「何でも知ってるんじゃ無いの?
それなのに〝かも〟なの?」
「ですから、悪魔の情報は、
あくまでも人の目を通してのものですから、
そこまでしか分からないのです」
「……今の、わざと?」
「はて?なんのことでしょう?」
「ちょっと?そう言うの親父ギャグって言うのよ?
データーに入れときなさい」
「失礼しました……」
「で、さっきの話……
悪魔を倒すには、どうしたらいいって言うの?」
「ただこれも人を通しての情報……
真実を映し出したものとは限りませんが……
今回は少し言葉を改めて……
〝消えて無くなれ〟がよろしいかと……」
「なるほどね……」
エルフィナが、少し悪い顔で頷く。
「じゃあ、それでいこっと」
ーーーー
「ハァ……ハァ……ハァ……」
迷宮の石壁に背を預け、
マックスが肩で息をする。
「エルフィー……少し……休憩しないか……?」
「また?」
エルフィナは振り返るが、息一つ乱れていない。
「これじゃ今日中に最下層まで辿り着けないじゃない」
「お前な……」
マックスが顔を上げる。
「未到の七大迷宮の一つ、
ゼネザール王国の〝悪魔迷宮〟を……
まさか一日で攻略するつもりだったのか?」
「そんな訳ないでしょ?」
「だよな……」
「お昼前には終わらせて帰るつもりだったのよ?」
「はあぁぁぁ!?」
マックスの絶叫が、迷宮に反響した。
「何百年も誰も攻略出来てない迷宮を、
半日で終わらせるつもりだったっていうのか!?」
「前の二つは、ものの数時間だったわよ?」
エルフィナは、きょとんとしている。
「夏季の長期休暇とは言え、休みは有限なの。
そんなに何日もかけてられないでしょ?
だから、ついて来なくて良いって言ったのに」
「悪魔が出ると言われている迷宮に、
お前1人で行かせる訳にはいかないだろ?」
「一人じゃないわよ」
エルフィナは、すっと剣先で周囲を示した。
「スカイもいるし、チッチもいるし、
エレーナちゃんもいるし」
「それに、その格好……」
マックスが、つい視線を逸らしながら言う。
「他の男共に見せたくない」
「良いじゃない……
こんな所、誰もいないわよ?」
エルフィナは平然としている。
「それに……これが一番動きやすいんだから」
白を基調とした軽装の戦装束は、
動きやすさを最優先しながらも、どこか気品を失わない。
身体のラインに沿って仕立てられた上衣は、
腰から脚にかけてのしなやかな動きを邪魔せず、
透明感のある青の装飾が、彼女の美貌をより際立たせていた。
揺れる髪、白い肌、すらりと伸びた脚。
戦う為の衣装のはずなのに、妙に目のやり場に困る。
「結界張ってるから、怪我もしないしね」
「そういう問題じゃねえんだよ……」
「大体、何でお前、魔法を使わないんだ?」
マックスが息を整えながら言う。
「〝消えて無くなれ〟で一発なんだろ?」
「ああ、それ?」
エルフィナは嬉しそうにレイピアを持ち上げた。
「ねえ聞いてよ、マックス。
アカシックから教えてもらったの。
このレイピア、魔物を倒せば倒すほど、
聖剣みたいに成長するんだって」
「成長する?」
「そう!
どうせなら、すんごい剣を、
世界一の、すんごい剣にしたいじゃない?」
エルフィナは、くるりと剣を回して微笑む。
「ママの剣、ぴかぴかになってきてるよ?」
「ぴかぴか?それって成長してるってことよね?
エレ〜ナ〜〜!」
小さな顔に頬ずりするエルフィナ。
「……はあ」
マックスは盛大にため息をついた。
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