第40話 ハ、ハイッッッ!エ、エルフィナ様っ!
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
(無尽蔵と言っても過言ではないほどの、
魔力量を持ち――
その魔力は、
神のみが扱えるとされる〝聖〟の魔力……神聖魔力。
そしてその姿は、
古くから幾度か人の前に顕現したと伝えられる、女神そのもの……
貴方は……女神の生まれ変わりなのではないか?
……などと、そんな事、
軽々しく口に出来る訳がないだろう……)
(アカシックよ……お前の考えは、概ね正しい……)
(だ、誰だ!? 俺の心に直接話しかけてくるのは……)
(わしはこの世界の創造神……)
(そ、創造神様……)
アカシックの意識が、震える。
剣でありながら、いや、剣だからこそか。
その言葉が偽りではない事を、本能で悟る。
(近い将来、エルフィナの前世の記憶は戻るであろう……
今は混乱させない為にも、しばしこの事は伏せ、
そっとしておいてやってくれ……)
(しょ……承知致しました。創造神様)
(そうそう、お前――アカシックレコードみたいだ、
などと言われておったが……)
(は、はい……)
(お前は、わしが誕生した時からそんざいしていた。
アカシックレコードそのものであるぞ?)
(――ッ!?)
その瞬間、アカシックの中で、幾つもの知識が、
カチリと噛み合った気がした。
だが、あまりに莫大すぎる真実は、逆に輪郭を失わせる。
(それほどの知識を持ちながら、
自分自身の記録は持たぬとは、皮肉なものよな。
本来なら、地上でそんな事をしていて、
良い存在ではないのだが……
まあ、今は良しとしよう。
エルフィナの力になってやってくれ)
(そ、創造神様……承知致しました)
その声は、ふっと消えた。
(本当に前世、神だったのか……エルフィナのやつ……
いや、神に対して〝やつ〟は、
まずいか……呼び捨ても……)
「ねえ?アカシック」
「ハ、ハイッッッ!エ、エルフィナ様っ!」
「な、何よ急に?」
「いえ!何でもございません!」
「気持ち悪いわね……」
エルフィナが、露骨に眉をひそめる。
「ねえ、アストラルって言う神様の姿を、
私に見せることってできない?」
「え~と……この方です」
アカシックは意識を同調させる。
脳裏に、一人の男の姿が浮かび上がった。
静かな威厳をたたえた、長身の男。
夜空のように深い色を宿す髪。
全てを見通しているかのような瞳。
優しさと、底知れぬ孤独を同時に抱えた、
不思議な気配の神――。
「……この神……」
「ご存知で?」
「うん、何だろ……
この神も初めて見る気がしないわ……
どこかでずっと前に会ってたような……
そんな感じがする……」
エルフィナは、
胸の奥を押さえるように小さく呟く。
空間転移で屋敷の部屋に戻ったエルフィナ達。
夕暮れの橙色が窓辺を染め、
部屋の空気をやわらかく包み込んでいた。
「この後はどうするのだ?」
スカイが、椅子の背にもたれながら問う。
「探している女が、本当に女神だとすれば、
見つけ出すのは難しいどころの話ではあるまい?
お嬢は、その女が困っているのではないかと、
そんな思いもあって探していたのであろう?
だが神であれば、本来は万能のはずだ。
困る事など無いのではないか?
であれば、探す意味もあまりないのではないか?」
「そうなのよね~……」
エルフィナはベッドに腰掛け、頬杖をつく。
「でも、なんか気になるのよね~?
放っておいちゃいけないような……」
「まだ探すつもりなのか?」
「う~~ん……」
悩みながら天井を見上げるエルフィナ。
「でも、せっかく長期の夏季休暇中なんだし、
残る五つの未到の迷宮にも、
行ってみようかなって……」
「お宝探しも兼ねて、か?」
「そうそう、それそれ」
「不純な動機が混ざっておる……」
「それの何が悪いのよ?
冒険って、そういうのも醍醐味でしょ?」
「まあ、否定はせぬ」
〝コンコン〝ドアを叩く音がした。
「どうぞ~」
「エル姉、戻ってたんだ?」
扉を開けて顔を覗かせたのはメアリナだった。
にこっと嬉しそうに笑ってから、
部屋の中を見て、ぴたりと止まる。
「声がするなと思ったらやっぱり。
おかえりエル姉。
マック兄が来てるわよ?……あれ?」
メアリナの視線が、スカイへと吸い寄せられる。
「……誰? その子」
「あら、メアリー。ただいま」
エルフィナが手を振る。
「もうバレちゃった。
あのね、この子はドラゴンのスカイよ」
「……ドラゴン?」
聞き覚えのある声が、メアリナの後ろから響く。
「何言ってんだお前?」
そこには、呆れ顔のマックスが立っていた。
「あら、マックス来てたんだって?
ドラゴンはドラゴンよ。名前はスカイ。
私の眷属……で良いのよね?スカイ」
「うむ。問題ない」
「この子は私の妹のメアリナよ。
そしてこの人は私の婚約者のマックス」
「スカイ君?」
メアリナが、身を屈めて目線を合わせる。
目が輝いてる。
「貴方本当にドラゴンなの?」
「うんそうだよお姉ちゃん」
にこっと無邪気な笑みを浮かべるスカイ。
「今は人化してるけど、本当は大きなドラゴンなんだよ。
エルフィナお姉ちゃんの眷属になったの。
メアリナお姉ちゃん、マックスお兄ちゃん。
これからよろしくね」
「おい」
エルフィナの声が、低くなる。
「どうかした? エルフィナお姉ちゃん?」
「あのね~~……何なのよ?あんた、その喋り方」
「喋り方?」
「ついさっきまで、〝うむ〟だの〝であろう〟だの、
めちゃくちゃ爺さんみたいな話し方してたわよね?
〝すぐには直らん〟とか言ってたわよね?」
「何の事かな?」
しれっと首を傾げるスカイ。
「や~だ~!可愛い~~」
むぎゅーと抱きしめるメアリナ。
身長差のせいで、
スカイの顔は見事にメアリナの胸元へ埋まる。
「ちょっ……」
もがきながらも、スカイの顔が、どこか緩む。
「ほら」
エルフィナが、じとーっとした目で言う。
「こいつ、こう見えても数千歳のおじいちゃんよ?
ほらメアリーの胸の感触確かめながら、ニヤけてる」
「そんな訳あるか!人の胸になんぞ興味あるかい!
種族が違うのだぞ?例えば……
そう、マックス」
「ん?」
「お主、牛のおっぱい触って嬉しいか?」
「全く嬉しかないな」
「そうであろう?我も同じだ。勘違いするでない」
「ほらほら~」
エルフィナがニヤニヤする。
「こんな爺さんくさい話し方なのよ?本当は」
「私のデーターによると、ただのスケベ親父ですね」
「「ペーパーナイフがしゃべった!」」
メアリナとマックスの声が綺麗に重なった。
「このナイフも、一応私の眷属よ。
豊富な知識を持ってるんだって。
名前はアカシックよ」
エルフィナがアカシックを持ち上げる。
「私のデーターによると、
〝一応〟は余計です。
メアリナ様マックス王子、
よろしくお願いいたします」
「よろしく……は良いけどよ?
なんで俺が王子だって分かった?」
マックスが目を細める。
「私のデーターには、貴方様のお顔はもちろん、
それ以外の様々な情報も保存されておりますので」
「すげ~なそれは……どういう仕組みなんだ?」
「聞いたら驚くわよ?
アカシックはありとあらゆる知識を持ってるのよ」
エルフィナが、なぜか自慢げに胸を張る。
「マックス王子は、
〝集合的無意識〟という言葉をご存知ですか?」
「いや、知らんな」
「では分かりやすく申し上げましょう」
アカシックが、少し得意げな口調になる。
「人は皆、それぞれ個別の意識を持っております。
ですがその更に深い所で、全ての人の意識は、
巨大な一つの情報の海と繋がっているのです」
「情報の海?」
「はい。
宇宙に存在する、全人類共通の無意識領域
――それが集合的無意識です。
そして私は、その領域に蓄積された、
ありとあらゆる情報と同期しております」
「……へ、へぇ~……」
マックスが、
分かったような分からないような顔をする。
「あ、それ、分かってないという反応ですね?」
「ハハハ……」
「それって……」
メアリナが目を丸くする。
「よく聞く〝アカシックレコード〟
みたいなものじゃない?
ああ……だから貴方、アカシックなのね」
「それが本当なら、とんでもない事じゃないエル姉……」
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