第32話 冒険者エルフィナ
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「ティアとブルズだっけ?」
「そう、エスティア王国とサンブルズ帝国……
それぞれの国から、メルフィーが名前を付けたのよ?
私が名付けするとあれでしょ?
さすがに聖獣を眷属にはね……」
「いや、そうじゃなくてだな……」
マックスが目の前の二匹を見上げる。
「分かってるだろ?俺の言いたい事」
「ああ、大きくなったって事?」
「大きくなったってレベルじゃねぇだろ!?」
思わず声が裏返る。
「なんだこのサイズ……馬どころか、
ちょっとした魔獣レベルだぞ?
まだ一週間も経ってないだろ?
いくら聖獣でも、この成長速度は異常だ」
「ああ、それね」
エルフィナはあっさり言う。
「成長したわけじゃないのよ。
〝戦闘形態〟になれるようになったの」
「……変身ってことか?」
「そういうこと」
「子犬の姿にも、戻れるって事か?」
「メアリーの前では、今も子犬の姿で、甘えてるわよ」
「へ~」
マックスが感心したように頷く。
「訓練は順調って事なんだよな?」
「順調どころじゃないわよ?
戦い方も、遠距離での意思疎通も……
教えようと思ってたこと、全部もう出来るのよ」
「……早すぎるだろ」
「それだけじゃないわよ?更に驚く事に、
魔法まで使える様になったの」
「魔法が使える?」
「そうよ?あの子達の中に、大量の魔力を感じたの。
私は魔法が苦手だから、
先生を付けて訓練しもらったら、
見た事すぐに覚えて、使えるようになるのよ。
さすが神の使いって感じ」
「……チートかよ」
「しかも全属性よ?
特に女の子のティアは、風魔法と水魔法が得意で、
男の子のブルズは、火魔法と雷魔法が得意。
この子達と対等に戦おうと思ったら、
既に1個師団が必要なんじゃない?
もう直ぐ、1つの国位、滅ぼせる程強くなりそうね」
「おい、サラッと物騒なこと言うな」
「大丈夫よ」
エルフィナが優しく撫でる。
「この子たち、頭が良くて、すごく良い子だから」
「アンカーやメアリーの護衛には、もってこいってか?」
「この子達の訓練は、もうそろそろ終わりよ?
……どっちかアンカーに届けないとね」
ーー
「ちょっと!エル姉」
メアリナが目を輝かせる。
「その衣装、めちゃくちゃカッコいいじゃない!
いかにも上級冒険者って感じ」
「……でも」
じっと見て、少し眉をひそめる。
「ちょっと肌、出しすぎじゃない?」
白を基調とした、しなやかに体に沿うミニドレス。
膝上までの丈は軽やかで、動きを一切妨げない。
腰には細身のベルト。
随所に散りばめられた、深く澄んだブルーの装飾。
それは彼女の瞳と同じ色で、
光を受けるたびに、淡く輝きを放つ。
長い髪が揺れるたび、
その装飾がきらりと反射し、
まるで〝加護を纏っている〟かのような、
神秘的な印象を与えていた。
「この方が動きやすいのよ?
結界張ってるから怪我しないしね」
「いやいやいや……」
メアリーがじっと見る。
「それ、絶対マック兄が見たら止めるやつ」
「そうかしら?」
「タイトなドレスが体の線を強調するし、
そんだけ肌出したらね?
キモい男の人たちが、たくさん寄って来そう……」
「ウエッ……だったら、オーク作戦でいく?」
「無理!想像しただけで……無理!
その衣装と、オークは似合わなすぎ!
どうせ人目避けて動くんでしょ?
だったら、そのままで良いんじゃないかな?」
「そうね。うん、問題なし!
マックには内緒!先ずはこの国の迷宮からね」
「気を付けて行ってね?」
「うん、ありがとう。
使える魔法は数少なくて、心許ないけど、
剣には自信あるわよ?
剣技自慢のマックスにだって負けないわ」
「〝学園始まって以来の〟って言われてたものね。
か弱そうな女の子の体なのに、不思議よね?」
「アルガルド先生が言うには、
以前から、無意識に身体強化魔法を、
掛けてたんじゃないかって?」
「ああ……それなら納得よ。これ迄のことを思えば、
その身体強化ってって言うのも、
規格外のレベルなんじゃないかしら」
「かもね?でも剣技と勉強は、
必死にやってたのよ?
それしか私には無かったし」
「うんそうよね。それあってのエル姉だもんね」
メアリナが優しく頷く。
ーーーー
「うわ~不気味~ 何この入り口」
迷宮の入口を前に、思わず声が漏れる。
「帰ろうかな~ なんちゃって」
「あら、入らないで帰るの?」
背後から声。
振り返ると、そこにはいかにもベテラン……
という佇まいの女性冒険者。
「貴方見かけない顔ね?まさか1人?
それならやめた方がいいわよ?
ここ、この国一の難関迷宮……
未だに誰も制覇してないんだから、
ってあれ?消えた?
た、確かに、今女の子が居たわよね?
ここお化けでも出るんだったかしら?
うわ~夏なのに、なんか寒気してきた……」
「うわ~油断した。人が居たなんて……」
姿を消したまま、小声で呟くエルフィナ。
「いきなり人に見られるとか最悪……」
――この日を境に。
この迷宮には、
〝謎の美少女の幽霊が出る〟
という噂が流れ始める。
しかも――
〝とんでもなく美人で、やたら露出が多い〟
という、妙に具体的な情報付きで。
結果――
男の冒険者が増えたとか、増えなかったとか。
「あ~びっくりした……油断大敵ね……
ここは20層までは攻略されてるんだっけ?
じゃあ――そこまで一気に行きましょうか」
「キャ~いきなりモンスター?って、
お約束の最弱スライムね」
透き通るゼリー状の体。
ぷるぷると揺れて、どこか愛嬌がある。
「……ちょっと可愛いかも。
倒すのは可哀想ね?避けて通りま……」
〝ペッ〟
何かを吐いて飛ばした。
「……は?」
地面がじゅわりと溶ける。
「……強酸?」
〝ペッ〟
「……」
「……前言撤回。
全然可愛くないわね?バイバイ」
エルフィナの剣が、一瞬で振り抜かれる。
核ごと、正確に真っ二つ。
だが――次の瞬間。
ぬるり、ぬるりと。
次々と現れるスライム。
⸻
「ちょっと待って……多くない?
やだもう~~!
こんなに出てこなくていいってば!!」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




