第21話 食事にしましょ?
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「で、お前が毒を盛った……それで間違いないか?」
アンカーが低く問いかける。
「あ……も、申し訳ありません……私です……」
料理人の男は青ざめ、震えながら答えた。
「誰の差し金だ?」
その言葉に、エルフィナが静かに口を挟む。
「アンカー皇子。主犯探しはやめておきませんか?」
「え……何故です?」
「首謀者を見つけ、その勢力と徹底的に戦う……
その覚悟が、おありなら止めませんが……」
エルフィナは少しだけ表情を曇らせた。
「ですが……それをしてしまうと……
帝国が混乱に陥りますよ?
私達4人には、毒をもってしても、
どうする事も出来なかった……
それを首謀者に知らしめた……
と言うだけでも良いのでは?」
「私達4人……ですか?はい!
そうですね?私達4人……」
アンカーは少し照れくさそうに頭をかいた。
「そこ?アンカー? ね?エル姉」
「すみません。なんか、
お仲間に入れて頂けてる様で……」
(そりゃそうよ。
なんたってメアリーの将来のお婿さんなんだから……
ね?メアリー)
(エル姉、し~、し~)
「あっ!メアリナ様、また顔が赤いですよ?
ま、まさか毒に……」
「違います!もうアンカーったら……」
「メアリー。失礼よ!呼び捨て?」
「良いのです。むしろ親しげで嬉しいです!」
アンカーは慌てて手を振る。
「こりゃ、決まりだな?」
マックスがニヤニヤする。
「な、何がです?」
「アンカー鈍感!私も呼び捨てで良いわよね?
私の弟になるんだから」
「えっえっえ?見えた未来って……」
メアリナ、アンカー、
2人共顔が真っ赤っかに染まっていた。
「うわ~」
メアリナが目を輝かせた。
「王城からそう遠く無いのに、
こんな景色の良い場所があるのね」
サンブルズ帝国の王都は海に面しており、
大きな港を持つ都市だ。
しかしここは――
王城から馬車で二十分ほどの距離とは、
思えない場所だった。
山に囲まれ、街の喧騒は一切届かない。
目にも、自然しか入ってこない。
丘の上からは、青い海だけが広がっている。
その丘の上のレストラン。
四人はテラス席に座っていた。
「王都に隣接しているとは思えない、
リゾート地みたいな場所でしょ?
私の母がここの景色が大好きで、
このレストランを造ったのです。
だから毎週のように来ていました。
幼い頃の、
母との数少ない思い出の場所なんです。
天気の良い日の夕方来ると、
夕陽が凄く綺麗なんですよ」
「でもアンカー……
暫くはここに来ない方がよろしくってよ?」
「何故です?」
「あそこを見てみて」
エルフィナが山の中腹を指さす。
「あれ?中腹の辺りに土煙?」
「殺意を持った100人程が、
ここに向かってますよ?」
エルフィナが平然と言った。
アンカーの顔が青くなる。
「こちらの護衛は10人程ですか?
ここは袋小路だから逃げ場がないでしょ?
貴方を狙う勢力を何とかしないうちは、
暫く来ない方が賢明よ?」
さらりと言う。
「懲りもせずに、立て続けに仕掛けてくるとは……」
アンカーの顔が赤く変わった。
「申し訳ありません。
私の油断です……どうしたら……」
「決まってるじゃない」
「……と申しますと?」
「食事にしましょ?」
エルフィナはメニューを開いた。
「ここはレストランでしょ?もうお腹ぺこぺこ」
「……え?あの賊どもは?」
「大丈夫よ?ここ一帯1kmに結界を張ったから」
アンカーが固まる。
「えっ?」
「触ると跳ね飛ばされる特殊な結界よ。
私の出来る数少ない魔法の1つよ。
結界魔法には自信があるのよ?」
エルフィナが丘の下を指さす。
「ほら見て」
遠くで。
〝ドン!〟
〝バン!〟
何かが弾き飛ばされる音。
「近づこうとして、バタバタ慌ててるでしょ?」
土煙が舞い上がっていた。
「こっそり近づきたかったんでしょうけどね」
「帰りは、馬車と護衛の方の周りに、
同じ結界を張って帰りましょ。
皆んな跳ね飛ばされるわよ?
見ものでしょ?」
くすっと笑う。
アンカーは呆然としていた。
「それにしても」
エルフィナが少し真面目な顔になる。
「昨日ああ言ったけど……
やっぱり私達を狙う勢力、
徹底的に潰す必要があるわね。
このままだと私達が帰国した後、
アンカーが危ない」
「……それにしても……エルフィナ様……」
アンカーはぽつりと呟いた。
「100人の敵を前に、
何でそんなに落ち着いておられるのですか……」
「何でかしらね?」
エルフィナが少し考える。
「昨日、メアリーや貴方の未来が見えたからかしら?
未来で皆んなあ幸せそうに暮らしてたもの。
無事やり過ごせるって分かってるから……
それに、万が一だけど、
追い込まれた時の私の魔法は、
反則級らしいわよ?」
「反則級……そこまでなのですか……」
「そうみたいよ?
だから私たちが帰った後も何かあったら頼ってね。
って言うか頼ってくれないと怒るわよ?」
アンカーは静かに頭を下げた。
「……もう既に1度、命を救われております……
これで2度目です……何とお礼を言ったら良いのか……」
「だから、貴方は、もう私の弟だって言ったでしょ?
姉が弟を助けるのは当たり前の事よ?
お礼なんて言わなくて良いのよ」
「アンカー。エル姉の家族愛はハンパないわよ?
覚悟した方がいいわよ?」
「……だな……お前達に何かあったら、
世界が滅びかねない……」
「あら?マック兄もじゃない?」
「そ、そうか?へへ……」
マックスが照れる。
「何が〝へへ〟よ……」
「エル姉顔が赤いわよ」
「さ、食事食事!お腹ぺこぺこよ」
「やっぱり食べるのね?」
メアリナが苦笑した。
「なんか私、喉通るか分からないけど……」
「もちろん食べるわよ。
せっかくシェフが心を込めて、
料理してくれているんだから」
「海が目の前ってだけあって、
魚介の料理が抜群に美味いな」
マックスが感心する。
「ありがとうございます。
この店の自慢の料理なんです」
アンカーが微笑む。
「皆んな普通に食べてるじゃない。
動じなくなってきたわね?
でも、アンカーは、
これからも油断しちゃだめよ?」
「はい。あ……あ、姉上……」
顔を赤く染めるアンカーと、
無理やり〝姉〟と呼ばせて、
満足そうなエルフィナだった。
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