第8話 ダンジョンへ向かおう
これから街へ出ると言う時になって、ヨッちゃんが俺のマントを掴む。
「ちょっと待って下さい」
「ちょ、それ引っ張ると下半身だけ前に進んで危ないから」
「あ、すみません」
「で、なに」
「そのビキニアーマーの姿で外を歩くの本当に止めてくれませんか?」
「何を今更……昨日だってこれで歩いてたし、ここはもう日本じゃないし気にする程の事じゃないでしょ。それに猫っぽい冒険者の娘なんてほぼ紐みたいなブラしてたよ?」
「ええ、私もそう思うんですが。夜になって思い返すと、自分じゃない誰かが私の体を他人に見せびらかしている状況がどうも……」
んー、これは参った。ヨッちゃんは俺にこの身体を使われて他人に見せられるのが嫌みたいだ。……わからなくもないが、こればっかりはなぁ。
参ったと頭を抱えそうになった時、イシスがズイっと前に出て。
「陽子さん、自分の顔をした大介さんが陽子さんの身体を見せているのが気になるんですよね?」
「ま、まぁそうね」
「ならこれを着けてはどうですか?」
イシスがゴソゴソと自分の後ろの空間に手を突っ込む。
「それ、空間魔法か?」
「魔法じゃないですよ?四次元ポケットみたいなものです。イノシシも昨日ここに入れてたじゃないですか」
そういやイノシシ売りに出したな。てか四次元ポケットって……。
「出しますね」
イシスの言葉に俺とヨッちゃんが息を呑む。
「女騎士のかめーーん」
イシスが取り出したのは俺がここへ来る前に着けていたコス用の女騎士の仮面だった。カーボンに鉄、合金アルミで作ったフルフェイスの逸品。
「ほらこれで顔を隠せますし、そのアーマーとも会いそうですよ?」
俺はイシスから仮面を受け取り装着すると、ヨッちゃんへと振り返り。
「どうだろうか」
「ま、まぁアリと言えばアリかな……」
マジマジと俺の仮面を見るヨッちゃん。気に入ったのかな?
「ねぇイシス。この仮面もう一個ない?」
「無いです」
いや、道着に騎士の仮面なんて変質者ぽくなっちゃって確実アウトだから……。
ーーーー
ーー
漸くサマリの街へと繰り出した俺達は、宿屋の女将から聞いた防具屋へと向う。
「でも大介さん、私達昨日売ったイノシシの5万ゼニしか無いですよ?宿代も払いましたし」
「うん、今日は取り敢えず物価調査がメインかな。物価が分からないと、どれだけの収入を得ないといけないのかもわからないしね」
「そうですよね」
武器屋は多くの品揃えがあり、男心を擽る。そして武器は非常に高かったーー
「この見た目普通の剣で30万ゼニ……マジ?これで30万円するんだ……」
「大介さん見てください、この直刀800万ゼニですよ」
「……」
「あ、これは魔法の杖ね、300万ゼニなのね」
安い剣でも30万……イノシシ6匹かぁ。まぁイケると言えばなんとかなるけど、それまではヨッちゃんに頼るしかないな。
「他の冒険者とかどうやって装備揃えてるんですかね、最初からこんなに高いと誰も冒険者なんて出来ませんよ」
ヨッちゃんの話しはもっともだ。こんな高いと初期装備が整わず、冒険どころでは無い筈だ。
「ギルドに行ったらその辺りの話しも聞いてみるか」
「そうですね」
ーーーー
ーー
「ダンジョンで揃いますね」
そう言ったのは三つ編み眼鏡の受付。
「いえ、だったらあの店で売ってる高い武器はなんなんですか?」
「武器屋の価格設定は基本自由ですからねぇ、宿屋の紹介なら紹介した宿屋にもバックが支払われますし。大方足元見られたんじゃないですか?皆さんの装備高そうですし」
言ってイシスの黒いドレスへ視線を向ける受付嬢。
ーーあぁ、確かに高そうだな。
「え、私のドレスが原因ですか?まぁそこそこ高いと言うか人間では買えませんしね」
「人間は買えない?」
「あ、気にしないで下さいこっちの話しなので。取り敢えずダンジョンに行けば武器がドロップするって感じなんですね」
「ドロップ?なんですかそれは」
「え?」
「あ、宝箱の湧きの事ですね。そうです、宝箱から集めるか魔物から奪うって感じになります」
「りょ、了解です。では早速ダンジョンに行ってみますね」
「それじゃコレがダンジョンまでの地図と、こっちがダンジョン一階の地図です。クエストで請けれる物があれば一緒に請けた方が効率良いですから忘れずにですよ」
ツンケンしている受付嬢だが、地図までくれて親切なのは間違いないだろう。兎に角、ダンジョン行きは決まったので、今度は戦闘スタイルの確認だな。
「それとビキニアーマーの剣士さん」
受付嬢の呼び止めに足を止め振り向く。
「そのフルフェイス、素敵よ」
ほっほ~、この仮面の価値がこの世界にも居るのか。この受付嬢への評価をかなり上方修正する必要がありそうだな。
俺は無言で手を上げ、挨拶とした。
ーーーー
ーー
俺達は昨日通ったサファリへと到着する。ここはダンジョンへの通り道になっておりイノシシ魔物も出るので生活費稼ぎにも、皆の戦闘スタイルの確認にも丁度いい感じだ。昨日も人間には誰とも会わなかったし、何をするにしても本当に丁度いい。 それに俺にはまだ剣が無いが、超絶剣神スキル。是非にとも使ってみたい。
わくわくしていた俺を余所に、その時ギルドではある事件の事でざわついていたのだった。
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ーー
「そんな話し聞いてません!」
三つ編み眼鏡の受付嬢が、とある冒険者のチームへ抗議の視線と怒りをぶつけていた。
「いや、そう言われても他の冒険者達は知ってるから最近誰もダンジョンへは近付いてないぜ?」
「そうだぜ。そもそもギルド長が王都にS級冒険者の派遣を頼んだりしてただろ?」
「なんですかその話し。私、初耳なんですけど」
受付嬢は受付を離れ、ギルド長の部屋へ駆け込んで行く。
「ギルド長!」
「どうしたギャリー君。眼鏡と三つ編みを止める気になったのかい?」
ギャリーと呼んだ受付嬢を見る事なく、金髪の壮年で口髭の男が本を片手に彼女へ声を掛ける。
「そんなどうでもいい話をしに来たんじゃありません!S級冒険者の話しです!」
「あぁ~あれね、君のお父様へ話しを通していたからもう君の耳へ入っているだろうと私からは言わなかったんだが。聞いてないのかい?」
「聞いてません!」
「でもそんなに血相を変える話でもないだろ。あのダンジョンは初心者専用と言っても差し支えない場所だ。今のサマリに初心者の冒険者が居るわけでもないしね」
「いるんです」
「なんだって?」
「昨日成り立てホヤホヤの冒険者がいるんですよ!それに朝からそのチームはダンジョンへ向かったんですよ!」
「それは不味いぞ」
「だから来たんじゃないですか!」
「こ、この時期にうちから死人を出すと来季の予算が削減されかねんぞ!」
「予算の話しはどうでもいいんです!今は彼らの命をゴールデンサーペントから守る事が最優先です!」
「し、しかしダブルSと言われるゴールデンサーペントだぞ……S級が来る迄うちでどうしろと言うんだね」
「…………私が行きます」
「は?いやしかしギャリー君……」
「私一人でなんとかなるとは思えませんが、元A級以上の冒険者もこの街では私かギルド長しか居ませんから」
その言葉を聞いたギルド長は一瞬考え、直ぐに答えを出す。
「君の装備は万全か?」
「引退してから手入れを欠かしたことはないですよ」
「よし、ならそのチームなんとか救ってやってくれ。見付けたら直ぐに帰って来るんだぞ」
「では行って来ます」
「あぁ頼む」
ーーギルド長はギャリーの後ろ姿を見送ろうとするが、一度呼び止める。
「ギャリー君!……予算も大切だが、君は逃げてるとはいえ公爵家のお姫様だ……無理はしてくれるなよ」
「……」
ギルド長は無言で駆け出すギャリーを今度こそ見送った。
ーー「行き遅れの姫、か……」
彼女の字名を口にして椅子へ深く腰掛けるのだった。
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