第4話 君と僕のはじめては血にまみれ
このサファリから数キロ歩いた所にサマリと言う名の街があると言う女神イシスの言葉を信じ、俺達は取り合えず歩く事にした。
「もっと身体を隠して歩けませんか?」
その声はヨッちゃんの物だが、俺の姿をしたヨッちゃんが言う。
「この白いマントで露出部分はなんとか隠してる積りなんだけどね。隠れてない?てかそもそも俺達しかこのサファリ歩いてないんだし、隠す必要性が――」
「隠して下さい、見ないで下さい、日中お風呂は勿論の事トイレも禁止です!それから私の姿で大介さんの声を発しないで下さい!」
「なんて理不尽な!許されるのかそんな理不尽が!今は俺の身体なんだぞ!?叩こうが縛ろうが俺の自由じゃないのか!?」
「なんで叩いたり縛ったりするのがデフォなんですか!普通モムとかナデルとかじゃないんですか!?」
「あ、もしかしてそっちはいいの?」
「ダメに決まってるでしょダメに!」
「なんて理不尽な……。しかしトイレに付いてはアレだね、飲み物すら無いからそれ処じゃないね」
「確かに。既に喉がカラカラです」
俺とヨッちゃんは顔を上げ、照り付ける太陽を睨みつけ、そのまま視線をイシスへと向ける。
「え!私ですか!?太陽までなんとか出来る力流石にありませんて!」
そーじゃねぇ。
「太陽をどうにかしろなんて言ってないでしょ全く。転移させるなら場所を考えろって言ってるのよ」
「考えましたよ!」
おぉ初めてイシスがヨッちゃんに反論してる所を見た。
「考えてなんで草原の真ん中なのよ!しかも飲み水もなし!お金も食料もなし!どーすんの?」
首を振る俺の代わりにヨッちゃんが代弁してくれる。
「え、えーっどですね。それは玉木さんの創造魔法でちゃちゃーとどうとでもなるかなぁ~なんて……あははは」
言われて俺とヨッちゃんはハッとする。
このアホ女神は分かっていないみたいだが、確かにそうだ、創造魔法だ!
なんて便利でチートな能力なんだ!
「ヨッちゃん!取り合えず水を!」
俺はカラカラの喉を押さえ右手を差し出す。
「わ、わかったわ。私、やってみる」
ヨッちゃんは右手首を左手で掴み、眉間にシワを寄せて唸り出す。
「ムムムムムムム。水水水水水水水。ムムムムムムムムム――」
集中するヨッちゃんを俺とイシスは見ている事しか出来ない。
「ムムムムムムムムムーーーーーむっはぁーーーーーっ!」
どうやら集中力が切れた様だ。
「「………………」」
彼女はそれから何度か試したのだが一向に腕から魔法らしき物、水とか出る気配は無かった。
「イシス?スキル特典付け忘れてたりしてないよな?」
俺の質問に彼女はめい一杯首を振る。
「そんな事はないです!ちゃんと創造魔法付与されてます。玉木さんのスキルデータにもちゃんと載ってますし」
と言う事は……どう言う事だ?
――創造魔法。創造……ん?
「なぁ女神イシス」
「はい!」
元気のいい返事だ。
「俺達が思う創造魔法って言うのは己のイメージで魔法を作れるみたいな感じなんだが、それで合ってるよな?」
「へ?」
「え?」
「イメージとかそんな安易な(笑)」
「(笑)ってなんだ!」
「創造魔法と言うくらいですから、それの元となる物は必要ですよ?」
「元となるもの?」
「はい、魔法の基礎学力くらいはないと魔力有っても魔法使えませんて。それくらい世界中の園児でも知ってる常識じゃないですか。あはははは」
「ん?世界中ってお前。それこの世界の人達の話しだろーが」
「あははは、あはは、あは…………」
流石のイシスも自分の言っている事に気づいたのか、笑いが消えて行く。
それと同時に、先ほどまで一生懸命水を出そうと頑張っていたヨッちゃんの方角から、途方も無い殺気を感じた。
「おい、カス女神。お前、地球人類の私が魔法のマの字も知らない事を承知で私に試させたな?」
「ち、違います!忘れてたんです!それに魔法の基礎知識くらい地球の人でも知ってるかなぁって少し思ってたんです!なんで指をポキポキ鳴らすんですか聞いて下さい!大介さん助けて!そもそもですね、イメージで魔法がどうとかあるわけないじゃないですか!常識ですよ常識!」
「だからその常識をちゃんと教えろって言ってんだろこのカスめがみーーーー!」
尋常じゃない殺気と共にヨッちゃんの拳が振るわれる。
グーパンは先ほど見たが、これはいけない。
魔法が使えなくても今は男の俺の身体を使用しているのだ。
鼻血どころじゃすまなくなる。
そう思い、咄嗟にイシスの腕を掴み抱き寄せる。――瞬間。
――ドドドドドドドドーーーーン
ヨッちゃんから放たれた拳は空を切り、その風圧は地面を抉り、勢いは収まらず数十メートルに及ぶ溝を地面に作り上げていた。
「……なんだ今の」
「うそ」
「え、なに今の!私なにしたの!?」
放った本人が一番びっくりしていたのは言うまでもない。
――――
――
「今のは魔力を感じました。完全に風魔法です」
イシスの言葉に開いた口が塞がらない。
「基礎勉強しないと使えないんじゃないのか?」
俺の言葉を聞き、そのままヨッちゃんへ真剣な表情を向けるイシス。
「……玉木さん。私を殴る時どんな感じで拳を振るわれたんですか?もしかしてそれが魔法発動になんらかの関係性があるかも知れません」
確かにイシスの言う通りだ。
まさにアレは人外の力だ。魔法を纏った攻撃にしか見えない。
ならあの瞬間、何かをヨッちゃんは感じていたはず――
「殺す気で殴ったわ」
「はい?もう一度いいですか?」
今度は身振りを交えて。
「こうね、一撃で殺してやる気で殴ったの♪」
「…………」
「――要は死ぬ気……相手をマジ殺る気でやれば出来ると言う事だな、うん。魔法使えて良かったねヨッちゃん」
「うん、水も出せるかマジやってみる!」
「あはは、その意気その意気!それとイ、イシスもそう気にするな!人間だれしも1回や2回殺されそうになる事もあるさ!な!」
俺は蒼白でガクプルなイシスの肩にそっと手を置く。
「私女神だけど殺されかけた……人間怖い、玉木怖い、人間怖い、玉木怖い――」
――兎に角だ、異世界の最初から女神の血まみれを見ずに済んだ事でよしとしておこう。
――その後、水どころか、温水も難なく出せる様になったヨッちゃんのお陰で、無事サマリの街へと到着する事が出来た。
道中、大きな牙を持つイノシシの倍程の魔物らしき物にも襲われたが。これもヨッちゃんの活躍(拳)により難なく倒す事に成功していた。
――「さぁ、ここがいずれ歴史に残るであろう私達異世界冒険旅行記、最初の街!サマリよ!」
サマリの街へ到着する頃には、すっかり先程の出来事を忘れた元気なイシスの姿。
――異世界冒険旅行記ってなんだ。
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すみません、魔物との戦闘2行でした。
次回、第5話「男一人と女二人で一泊お願いします、同室で」




