第3話 君が私で私が君で
――俺たちが到着したのはファンダリア王国の外れにある小さな街、サマリ。
特に特徴は無い街らしいのだが、身分証が無いと何かと不便だとナビが言うので付いて来た。
確かに俺たちはお金も無い状態なので、その日の食事代くらいは稼げるかも?と言った次第だ。
「しかしナビ。何故に初期設定に所持金がゼロなんだ?クソかよ」
黒い道着に龍の金文字を背負った男が、銀髪の女性に詰め寄っている。
「イ、イシスです!ナビなんて名前じゃありません!」
たじろぐ女神イシスは正直この世界へ来てからと言うもの、ずっと半泣き状態だ。
「あのヨッちゃん?その顔と声であんまり汚い言葉使いとかやめない?」
「ふん。しるかボケ」
この世界に降り立ってからヨッちゃんの機嫌はよろしくない。
それは俺に原因があるのだが……。ヨッちゃんの言葉遣いがもう大変だ。
しかしヨッちゃんの言いたい事も解るので、俺は敢えて無言を貫く事にする。
そう、このいたたまれない空気。それは数時間前、この世界へ到着したその時にまで話は遡る――
――――
――
「大介さん!陽子さん!起きて下さい!」
「んあ?」「ん?」
「異世界に到着しましたよ!いつまで寝ているつもりですか」
目を覚ました俺が見た光景は、青い草原の地平線だった。
「うお~すげーな!ここが異世界かぁ」
「本当に凄いですね。まるで写真で見るサファリパークみたいです」
確かにサファリパークと言えなくもないが、そこは国立公園とか言って欲しかった気もする。
「あ、装備は既に装着済みなのでこの辺りの魔物くらいでしたらバーンとやっちゃえますから気にしないで下さいね」
「「魔物?」」
その不穏な言葉に首を傾げながら起き上がる俺とヨッちゃん。
俺は立ち上がり、自分の姿を確認する。
うむ。女神イシスが言う様に、俺は既にビキニアーマーを装備している様だ。
しかも豊満な胸もあり、ウエストもキュッと締まっていい感じだ。
最後にヒップをパンパン!と叩きながらこれもいい締まりだと実感する。
とうとうこの日が来たのだ。
ヨッちゃんや、その他美しいコスプレーヤーの姿を追いかけ、いつしか自分もそれらを着込み美しくなりたいと思った三十半ばのあの夏の日。
身体が女性ならどんな衣装でも着こなせる自信はあった。
それは小さい頃からの俺のコンプレックスから出て来たものかも知れないが、もし俺が女の身体を手に入れたなら、ビキニアーマーを着込んで周りの男達の視線を釘付けにする。そんな夢を見ていた。
これはもう叶ったに等しいだろう。
後は俺の最大のコンプレックスである、阿部ひ〇しばりの濃い顔がどんな女性の顔になったかを確認するのみだが、まぁそれは後でもいい。取り合えずは手に入れたこの素晴らしいボディを官能しようではないか。
そう「今、俺!美しい!!」
言いながらもう一度自分のお尻をパンパンと叩く。
「いやーーーーーーっ!なにしてんの!?ねーなんで?ダイスケさんなにしてんの!なんで私のお尻を無造作に叩いてるの!?」
「は?」
いきなりのヨッちゃんの悲鳴で俺も彼女に振り向くと。
「……え、は?なんで俺がそこにいるんだ?」
俺はそこに居ない筈の、いや、ややこしいな。
今は日中で、陽のある間は女性であるはずの俺がそこに居た。
「え!?私が大介さん?」
「……もしかしてもしかすると。俺って今ヨッちゃんなのか?」
その質問にコクリと頷く俺、てかヨッちゃん。
――――
――
「おいカス。これはどう言う事だ?」
俺のセリフではない。
「え?私ですか?」
「そーだよ!お前しか居ないだろ、このスットコドッコイ」
スットコドッコイ言う人まだ居るのか!勿論これも俺では無く、俺の顔をしたヨッちゃんだ。
「スットコ!?ちょ、何がどーしたって言うんですか?」
「何がどーしたも何で私が大介さんで大介さんが私なんだって聞いてんだよ!」
「え?すみません、意味が全然わかりません!」
あ~そう言えばこの女神アホの子だったな。
そこで俺は助け船を出す事にした。
「なぁ女神イシス」
「はい!」
いい返事だ。
「ヨッちゃんが言いたいのは、①と④の特典の事で、35歳のナイスガイに成ってこの異世界に来るはずが、なんで39歳の俺の姿なんだ?って言う疑問だな」
俺は分かりやすく女神へ説明する。
「え!ダイスケさん39歳だったんですか!以前35歳って言ってませんでしたか?」
おっと、思わぬ所からツッコミが来ましたね。
「あぁ~それね、うん、それな!35歳うん35歳だよ俺」
「いえ、山田大介さんは39歳で今年40歳になります。女神に嘘は通じませんよ♪」
また音符か!そこで音符か!いいんだよ!サバよんでんだからいいんだよ!
「……ごめんなさい。サバ読んでました」
俺は素直に謝る事にする。
「あ、え、別に謝らなくていいんです。私、そっちの方がどっちかと言うと良いとさえ思えますし!」
「は?」
「な、なんでもありません!スルー!スルーの方向で!」
女性がスルーして欲しいと言うなら詮索はすまい。……いや、そんな話しじゃなくてだな!気になるけども!
「少し脱線したが、女神イシス」
「はい!」
返事は良い。
「今の彼女の姿が俺の姿で、今の俺の姿がヨッちゃんと言うのはなんでなんだ?俺が願ったのは17歳の俺の思う理想の少女の姿だったはず……」
そこまで言って俺は気付いてしまった。
いや、ここまで言って気付けない馬鹿は居ないだろう。
そうなのだ、俺は願ったのだ。
玉木陽子の様な綺麗でカワイイ女の子にと――
――ん?ちょっと待てよ?
それじゃヨッちゃんが願った35歳のミドルガイってまさか……。
俺はそっとヨッちゃんへ視線を送ると。
「違います!違いますから!35歳のミドルガイであって35歳の大介さんなんて願ってませんから!!」
大慌てで両手をブンブン振る。
そこまで否定しなくても、そんな濃い顔の男になりたかったなんてこっちも思ってないってーの。
――――
――
と、まぁこんな感じで。それからずっとヨッちゃんの機嫌が悪いのだ。
――うむ、困ったもんだ。
あ、それともう一つ。
あの後直ぐに例の【アレ】が出ました。
――魔物です。
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次回「君と僕のはじめては血にまみれ」をお送り致します。




