第19話 その仮面
「だい……ん……おき……い…………大介さん!陽子さん!起きて!起きて下さい!」
いつの間に気を失っていたのか、俺はイシスに叩き起こされる。
「こ、ここは……」
「何言ってるんですか、ファンダリアですよ!頭打ちましたか?!ヒールの魔法とか使った事ないですけど使ってみますか?!大丈夫です手が増えて4本になるとかならないように気を付けますから!痛みが酷いなら4本くらいあった方がいいですよね!掛けますね!」
「か、掛けないでいいから!腕4本とか魅力的だけど今はいいから!」
「あ……元気ですね。でも良かったぁ、主神の神気が増大したので焦りましたぁ……あれ?なんで手なんて繋いでるんです?」
見れば俺の左手にはヨッちゃんの右手としっかり繋がれていた。
「…………デキてーー」
「デキてないから。ちょっとした偶然だから。デキてないから」
「そー何度も言わなくても分かりますって。39のおっさんに20歳の女性がなびくはず……あ、今は35歳なんで丁度釣り合いが……ん?でも大介さんが17歳だから……むむむ」
「変な所に頭使うのよそうな」
「そうですね!」
「で、エンシェントサーペントはどうなった?」
「えっと、私もさっき目が覚めたのでアレなんですけど……」
そう言いながら差す指先の方角には、熱で地面が赤く沸騰したクレーターがあった。
「やった……のか」
「これは間違いなくやりましたね。でもこれで主神様を探してお願い事をする案は潰えてしまいました……」
「どうして?」
「あのエンシェントサーペントは間違いなく主神様の御使いでしたので……何かをここで守って居たのかも知れません」
「それを殺してしまったからもう会ってもくれないかもって?」
ーーコクリ。
「ははっ、あはははははっ。それは大丈夫だろ。それにもう主神な会わなくてもお願いは聞いて貰ったからな」
「??」
「もういいって事」
「はぁ。腑に落ちませんがそれでいいなら……って私が用事あるんですよ!私はいつ神界に帰れるんですか!」
「……俺達が死んだらじゃないかな」
「そんなぁ、困りますぅーーあ、玉木さんも目が覚めました?」
見ればヨッちゃんが乱れた胸元を直しながら起き上がる。
「……いいんですね、この世界で」
起き上がりざまにそんな事を言う彼女へ俺は。
「このアホ女神の世話頼まれたしな。それに俺も超絶神剣使ってみたいし」
「なんですかそれ……ぷぷっ」
彼女はそうやって笑うが、結構マジだったりもする。
……俺は思う。過去の自分を捨てる事も無い。生まれ変わったわけでもないし、俺は俺であり、これが俺の運命だとするならこれが既定路線。こうなるのが決まっていたと考えれなくもないのだから。
大介さんまで私の事アホ女神って言った!等とまた半泣きの女神を放置し、俺は二人の騎士の姿を探す。
「無事な様だな」
俺は、倒れた二人を視界に入れたまま立ち上がろうとするが。
「あ、手」
握られた手はまだそのままだったが、俺はその手を離さずそのまま立ち上がる。
「やっぱりデキてるんじゃないですかぁ」
「「デキてない」」と俺達は言ったが、手を離すにはまだ惜し気がして、どちらともなく離すまでそのままだった。
ーーーー
ーー
結局俺達はダンジョンから装備を持って帰ることはできなかった。
「ですから何度も言ってるじゃないですか、私は女騎士なんて知りません」
昨日と変わらぬ冒険者ギルドで、先程から三つ編み眼鏡の受付嬢とイシスが口論をしている。
「いいえ、昨日の女騎士は貴方で間違いないです!」
「だから人違いですって、あんまりしつこいと冒険者資格剥奪しますよ?」
「お、横暴だ!」
あのエンシェントサーペントを倒した時の記憶は彼女には無い。倒れた彼女達を助けたあと、聞けばダンジョンでのやり取りすら記憶からすっぽり抜け落ちている様だった。
確かにこれからこの世界で生きて行くには、彼女達が見た俺達の記憶は無いに越した事は無いのだ。
ーー主神様か……よくやってくれる。
「彼女も困っている。それくらいにしてやってはどうか」
横から一人の騎士が数名の兵士を伴って受付へと歩み寄る。
「これはファンダリア王国の騎士様。今日はどの様なご要件でしょう」
受付嬢さんはイシスをスルーすて騎士へと問いかける。
「うむ。この街のダンジョンにゴールデンサーペントが出たと聞いてね。様子を見に来たのだよ」
「ゴールデンサーペントでしたら此方の冒険者さん達が倒したとか言ってましたが……まぁ嘘でしょうけど」
「酷い!本当なんだから!ほらこの素材見てよ!」
「(ちょイシス!)」
「格納魔法か」
俺の静止を余所に騎士が空間へ無造作に手を突っ込むイシスを見て目を大きくする。
「ほら!」
言ってドカドカと積み上げていく素材の山。
折角主神様が二人の記憶を消したのに、ここでゴールデンサーペントの素材を出したら全く意味が無くなってしまう。ーーそう思ったのだが。
「あれ?なんで?なんで!……なんでイノシシの素材ばっかり出て来るのよ!」
「……にしてもこの量は」
受付の前にはイノシシ素材の山が出来ていた。
「うぇ~ん本当だもーん!本当だもーん」
騎士にの腕を掴み泣くイシスを可哀想な瞳で見つめる騎士は。
「ゴールデンサーペントでは無いがこれ程の魔物イノシシを狩るとはなんと素晴らしい」
「ほんと?」
「ほ、本当だとも!ゴ、ゴールデンサーペントではないかな大したものだ。受付嬢!ゴールデンサーペントの件は我がファンダリア王国騎士に任せられよ、ではこれにて」
一気にまくしたて立ち去る騎士達へ受付嬢は鋭い視線を向けていた。
俺達は再び魔物イノシシを収納すると、買取所へ向かう。ーーその時。
「そこの女剣士?さん」
剣を持っていないので言い淀んだのだろうが、俺は振り返り。
「その仮面、凄く似合ってるわ」
その受付嬢の言葉に俺は。
「(あんたの仮面が元になってるからな)」
と、心の中で呟いた。
ーー第1章おわり




