第18話 主神
ーー『道着アーマー!ドラゴンモード!』
ドラゴンモード。
黒の道着が純白となり、魔力によってゆっくり回転しながらその高度を上げる。正面がこちらになった時、インナーのシャツが無くなり彼女の胸元が少しはだけていたのでカメラを持っていない自分を悔いたが、そう思ってしまう自分を更に悔いる。そして彼女のどの辺りがドラゴンなのか全くわからないが、多分彼女の気分的なものなのだろう。
彼女の周りは闘気ならぬ魔力で岩は弾け、弾けた岩が彼女を守る様に周囲を高速で回っている。
正直エロカッコイイ。
エンシェントサーペントの体高の倍程の高さで滞空していた彼女はそこで更に魔力を爆発的に高める。
たった1日であそこまで魔力を自在に操り、自分のイメージ通りの姿形で立ち向かえるのはやはり魔法創造という特典のなせる技なのだろうか。
「凄いですね、魔法創造」
気が付いて間もないイシスがそんな事を言っている。
「……彼女は何処まで魔力を高めるんだ、いや貴方と言い彼女もまた神の御使いなのだろう」
騎士が言う。
神の御使い……その言葉にイシスを見るが、この女神がこの世界で俺達に何かを成して欲しいとか、この星で生きる人達の為にだとかこれっぽっちも考えていないのはこの1日で充分理解出来ている。
いや?それら全てがフェイクで実は俺達に何かをさせようとしているのか?
もしそうなら、俺はこの女神には絶対勝てないだろう。ここまで見事に騙されたのなら、勝てる見込みを考える方が無駄だと思う。
その瞬間、更に魔力が跳ね上がる。
「陽子さん!その主神の手下をやっつけて!」
「ん?今なんて言った!」
「一撃で決めるわよ!最大魔力!ゴッドドラゴンナックゥーーー!」
「ヨッちゃん!ちょっと待って!多分それ倒したら面倒になるやつーーーー」
俺の声は彼女放つ魔力の塊の轟音で掻き消された。
辺り一面が眩しい光で埋め尽くされる。その暴風と熱で、俺は死を感じる程に恐怖した。
……チートって本当にあるんだな。
ーーーー
ーー
寝ているのか起きているのか。そんな狭間で俺は漂っている。この感覚には覚えがある。覚えも何も、昨日体験したやつだ。
『ここは精神世界。山田大介よ、この度は我が娘の一人が迷惑を掛けたな』
精悍な顔付きの金のローブを纏う俺より少し年上の男が言う。
「貴方がイシスの言う主神様ですか?」
こなタイミングで出て来るぐらいだ、それ以外ないだろう。
『そうである……儂を探しておったのだろ?』
その通りだ。この神を見つけ、俺は元の世界に戻してもらいたかった。
39歳。
若い子達は異世界で新たな自分を探す度をする事に夢や希望を見出すのだろう。
しかし俺はもう39歳。
このまま異世界へ居るには余りにも元の世界で成してきた事が多すぎる。
それを放置して異世界に、新たな世界に見を置く事は、これ迄の自分を否定する事に他ならない。
俺はそんなに中身の無い人生を送ったつもりもない。
いや、俺だけじない。
ヨッちゃんもまた20年だが、中身の濃い人生を歩んだはずだ。そうで無ければたかが20歳の女性が人気を得る事は無いだろう。
だから無駄に出来ない。今迄の人生を否定出来ない。
『ふむ、珍しいの。それだけの力を得た今であれば、この世界で覇者となれるかも知れないと言うのに。……それでも元の世界に戻りたいと?』
「頭の中を覗き見するのは良くないですよ。でも、そうですねーー貴方のおっしゃる通り、この世界に居れば世界征服も夢じゃないでしょうし、夢のハーレムだって数日で出来上がるでしょう。でもね、それは『かも知れない』ってやつですよ。俺はもう39年も向こうで一生懸命俺なりにやって来たんですよ。そりゃもっといい生き方も道もあったかも知れない。でもそれも『かも知れない』なんですよ。なら俺は今まで生きていた自分の世界の自分を信じたい」
『元の世界に返せと?』
「他に何かあります?」
『……………』「…………」
俺と主神様の間で沈黙が流れる。
『良かろう。元の世界に戻るがよい』
「ありがとうございますって言うのも可笑しいですが、ありがとうございます」
『ふむ。じゃが彼女は別じゃ』
そこへヨッちゃんがスッと隣に現れる。
「ヨッちゃん?」
「ごめんね大介さん。私は帰らないわ」
「ど、どおして?君は向こうでも頑張ってたじゃないか」
静かに首を振る彼女。
「頑張ったんだけどさ、多分あそこが私の限界。それにさ、この世界だと私、天下一武道会でも優勝出来る気がするの」
そんなに嬉しくも無さげに言われてもな。
「未練たらたらじゃん。そんなんで後悔なくこの世界で生きて行けるはず無いだろ」
「でも……もう私は……決めたの」
彼女が元世界でどれだけ頑張ったかなんて他人の俺には分からない。だから俺は、これ以上彼女へ元世界に帰ろうとは言え無いな。
「わかった」
「うん」
「主神様、それじゃ俺もこの世界に残る事にしますよ」
「やめて、私は独りでも大丈夫だから。もしここで大介さんに残られたら私は一生貴方に頭が上がらなくなる!」
当然そう言うよな。ーーでも。
「あのな、女の子独り置いて帰ったら俺が向こうで後悔しつ放しになるだろ。好きな女の1人くらい守らせろよって言ってんの」
「好きって……でも私は」
「俺39歳ですけど?35歳の処女なんて最高じゃん」
「処女じゃありませんから!」
「はいはい、まぁそれはいずれ確認させて貰うよ」
「へ、変態!変態だ!」
『で、如何する?』
俺の手をヨッちゃんが握る。
「「こっちの異世界で!」」
『あいわかった。馬鹿な娘だが必ずそなた等の役に立とう。娘の事、頼む』
「まぁ仕方ないですね」
『代わりにそなた等へ特典をーー』
「「それはいいです!!」」
主神様が笑った様に見えたが、俺達の意識はそこで再び光へと落ちたのだった。




